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GOOD PROFESSOR

工学院大学
情報学部 情報デザイン学科

蒲池みゆき 教授

かまち・みゆき

九州大学文学部哲学科心理学専攻卒業後、同大学文学研究科心理学専攻修士課程、人間環境学研究科行動システム心理学専攻博士課程を修了。株式会社国際電気通信基礎技術研究所(専任研究員)・奈良大学社会学部人間関係学科(非常勤講師
)・法政大学大学院工学研究科システム工学専攻(兼任講師)をへて、2006年4月より工学院大学情報学部情報デザイン学科准教授。14年4月より現職。日本学術会議第22期連携会員。 

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情報学部情報デザイン学科のあるフロアの展示物

顔くらい特殊で複雑なものはない

――今回紹介する工学院大学情報学部の蒲池みゆき教授は2015年12月に、ポーラ化成工業との共同研究により、栄えある「日本化粧品技術者会(SCCJ)研究討論会最優秀発表賞」を受賞した注目の研究者。また文学部哲学科心理学出身として、工学系の大学では異色の存在でもある。まずは、哲学から情報デザインの分野へと進んだ経緯から聞いていこう。

哲学というのは、もともと歴史や言語・社会など非常に幅広い分野が含まれる学問ですが、心理学がそこに属していたことでたまたま哲学科出身になったという印象です。わたしが大学院で専攻した「認知心理学」は、ヒトの認知機能をデータ化して解析する分野で、どちらかというと脳科学に近く、心理学のなかでも理系との境界領域といえます。そのなかで一貫して取り組んでいたのが、「顔の表情がどのように脳でカテゴライズされ認識されるか」というテーマです。

わたしが大学で学んだ90年代は顔認識などのカメラの検出機能が飛躍的に上がり、「顔」というひとつの分野に対しさまざまなアプローチでの研究の可能性が広がった時期でした。そのため「顔」が学問分野として非常に人気が高まったことも、研究テーマに決めた理由のひとつです。学生時代から工学院大学に来るまでの10年間あまりは、簡単にいえば「顔の表情屋さん」といったところでしょうか。顔の中でも表情についての研究を行っていました。そこから、わたしの現在の専門は主に、人の顔に対する認知機能をはじめとした視覚研究全般ということになります。

じつは顔って、とても特殊なのですよ。ほかの動物にはあまりない、人ならではの特別なコミュニケーションツールであり、顔くらい複雑なものはありません。たとえば、このコンピューター用のマウス。ここに書かれているロゴが少しくらい違っても、全体の印象はほとんど変わりませんよね。ところが人間の顔は、目の位置がほんの少し違ったり、笑ったときの唇の角度がほんの少し違ったりするだけで、はっきりと見る人の認識が切り替わります。サルの顔の研究もありますが、サルはコミュニケーションをとる場合に顔以外の部分も見ていることが多いそうです。

そんなに微妙な情報なのに、人間は顔をパッと見ただけで性別・年齢や大まかな属性、そのときの感情まで判断できます。つまり、私たちの脳は一瞬で複数の、非常に複雑な処理をしているのです。脳内でコンピューターのような情報処理をしているとして、それはどのような仕組みでなされているのか、さまざまなモノを見ているときの、人とコンピューターとの処理方法の違い、人が見ているようにコンピューターに処理させるにはどうしたらいいか——そうしたことをずっと研究し続けてきました。

蒲池先生が講義で使用しているテキスト
新宿キャンパスは新宿駅から徒歩5分の場所にある
超高層ビル。新宿~八王子間でシャトルバスも
運行

見た目年齢を左右しているのは頬だった!

――蒲池先生と化粧品会社との共同研究については……

化粧品会社側からの依頼を受けて、顔のデータベースを取るための注意点、解析するためのデータの加工方法や評価の仕方、心理実験の組み立てなどのアドバイスをしつつ、いっしょに実験を進めました。これまで顔の印象を解析する場合、正面から見た静止画像がほとんどでした。でも実生活で人々が他者とコミュニケーションをとる際には、さまざまな角度で常に動いている表情を見て、年齢などの印象にかかわる情報を得ています。そこでこの研究では、実生活を反映したさまざまな条件で調査を実施し、人の見た目の年齢を決める真の要因を解明する大規模な研究を行いました。

その結果、シワ・たるみ等のよく知られた「老いのサイン」とは異なる、新たなサインの存在が浮かび上がってきました。それはなんと「頬」。女性の化粧では目と口とを重視しがちですが、人々が年齢を判断するときに多く見ている個所についてデータを集計すると、面積の大きい頬の部分だったのです。そしてその場合、「頬がたくさん見えている角度のほうがより若々しく見える」ということもわかってきました。これらの研究は、今後の化粧品開発に役立てられることでしょう。

新宿高層ビル群の真ん中に位置する
高層棟キャンパス
学食や図書館がはいる新宿キャンパス中層棟

情報デザイン学とは情報を設計する学問

――そもそも情報デザイン学とはどんな学問なのだろうか。

名前からアート的なデザインを学ぶ学科だと誤解し、「アニメのキャラクターづくりに関わりたいから」という理由で入ってくる学生もいます。そういう学生は、いきなりプログラム作成など工学系の授業が始まると戸惑いが大きいかもしれません。

情報デザイン学の「デザイン」とは、「意匠」というより「設計」に近いのです。社会がより良くなるように情報を設計する。社会で動いている情報をひも解いていく。いろいろな情報から現象の原因を探っていく。そういう学問といえば多少ともわかりやすいでしょうか。コンピューターがあらゆる分野にかかわっている現代においては、どのような方向に将来進むにしても、この学部学科で学んだことは必ず役立つと思います。

――蒲池先生が担当する講義はどんな内容なのだろう。

統計学など情報学にとって重要な基礎的な学問に加え、人がものごとを理解するしくみ、むずかしく言えば認知機能の基礎と応用、特に視聴覚を中心とした人の感性評価などにかかわる講義も行っています。なかには企業のマーケティングにかかわる内容を多く含んだ授業があります。たとえば「人が何かを自然に選んでしまう場合どういう特徴で購買が変化するか」というテーマでは、画像(たとえば時計)を100枚ほど見せ、高そうに見えるポイントや安く見えるポイント、壊れそうに見えるポイント、頑丈に見えるポイントなどを実験的に調べていきます。これまでの様々な研究によると、最終的には3因子程度の要素で決定すると言われています。

ここにあるコンピューター用のマウスひとつを選ぶにしても、評価を形づくるさまざまな次元がありますが、最終的には「色」「持ちやすさ」「価格」で選んだりする。そうした評価軸の圧縮方法について探ったりしています。また、人が画像の質感を評価する場合、統計量の分布で判断することもわかってきました。統計の分布を変化させると印象がどう変わるかといった研究も最新の分野です。

――学生たちへの指導などにおいて授業で心掛けていることについては……

わたしがいま担当している授業は「認知行動論」「認知行動実験」「統計学」の3つです。これら授業で心掛けているのは「できる限りわかりやすく伝える」ということ。かつて自分が理解した過程を思い出しつつ、「このときは数式での説明がわかりやすかった」「これは図式で見たらすぐわかった」「これは文章のほうがわかった」など、何度も手を変え品を替えて指導方法を選択してトライを続けております。

こんな学生に来てほしい

本学に来る学生は、大学に入ってからぐんと伸びる、いわゆる伸びしろの大きい学生が比較的多いという印象があります。高校までの勉強では面白いと思ったことがなかったけれど、大学で研究に取り組んで素朴な疑問を練り上げるうちに学ぶ喜びに目覚め、一気に伸びていく。でも希望を言えばもっと好奇心旺盛な学生、そして「好奇心の幅が広い学生」に来てほしいですね。

いまの学生は「好きなこと」の範囲が狭く、自分で自分の可能性を狭めているようなところが見受けられます。理系だからある程度はスペシャリスト志向になりがちなのは仕方ないし、最終的にひとつのことを突き詰めるにしても、最初のうちは世の中のいろいろなことに興味を持つべきだと思います。

当大学の情報学部は就職実績がよく、さまざまな分野の企業から引き合いがあります。そういう場合も、わかりやすいIT系にしか興味を示さない人が多いのが残念。わたしから見ると、情報自体で食べている会社より、ほかに強みを持っているところの方が安心だし、ゼネラルなモノづくりをしているなかでスペシャリストとして活躍することにも意味があるように思うのですが。「これは興味が持てない分野」と短絡的に決めつけると、みすみす幸せになる道を見逃してしまうのでは……

本学はこんな大都会のど真ん中にあるのに、まじめでスレていない学生が多いと思います。まぁ日々課題が多すぎてスレるような暇を与えていないせいかもしれませんが。だからでしょうか、学生に対してはついお母さんみたいな気持ちが入って、何かと心配になってしまうんですよ(苦笑)。


公開日:

※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。