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GOOD PROFESSOR

関東学院大学
人間環境学部 人間環境デザイン学科

兼子 朋也 准教授

1972年生まれ。金沢大学工学部土木建設工学科卒。建築設計事務所勤務を経て、名古屋工業大学大学院都市循環システム工学専攻修了。博士(工学)。米子工業高等専門学校建築学科准教授やスウェーデン・イエテボリ大学在外研究員をつとめた後、現職。

 

おもな著書に『建築環境工学環境のとらえ方とつくり方を学ぶ』(共著学芸出版社)『からだと温度の事典—風土と建築』(共著朝倉書店)『ヒートアイランドの事典—バナキュラー建築』(共著朝倉書店)『心理と環境デザイン—感覚・知覚の実践』(共著技報堂出版)などがある。

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関東学院大学横浜・金沢八景キャンパスは、
海にも近くおおらかな空気が流れる。
ほかに「横浜・金沢文庫キャンパス」
「湘南・小田原キャンパス」もある
空き家改修工事では、地元工務店の方に
教わりながら学生たちが作業をする

快適な暮らしをめざす建築デザイン

——高齢・少子化による人口減少にともなって大きな社会問題として浮上している空き家問題。今回紹介する関東学院大学の兼子先生は、人間環境学部(2016年度より人間共生学部)において居住環境のデザインを教えるかたわらで、「KGU(関東学院大学)空き家プロジェクト」を主宰し、学生とともに様々な活動をしている。まずは、なぜこうした活動に興味を持つようになったのかを聞いた。

昔から人の暮らしや活動をサポートする〝器〟としての建物に興味があり、大学卒業後は建築設計事務所に入りました。建築というと「かっこいい建物をデザインすること」というイメージをもつ人が多いのですが、わたしはそれより、住まいや街などの生活環境をデザインすることにより強い興味があり、大学院に進んで建築・都市環境デザイン学を学んだのです。

いま、暮らしのなかの快適さの多くは多大なエネルギーや資源消費を伴いつつ実現されています。できるだけエネルギーや資源を使用せずに地球環境に負荷を与えないで快適さを実現することも、これから求められる重要なテーマ。環境に負荷をかけず、いまある建築物を大切に使う「空き家再生」は、その意味でも興味がありました。

また当大学の横浜・金沢八景キャンパスは横浜市金沢区にありますが、隣接する横須賀市は、2013年度の人口流出数が全国1位でした。そのことに危機感を抱いたこともきっかけとなりました。

横須賀市内でも特に空き家が増えているのが、山間部に住宅地が切り拓かれていて車での行き来しにくい「谷戸」と呼ばれる地域。坂道や階段が多いため、住民が高齢化し足腰が弱くなると住めなくなってしまうのです。しかしそうした立地条件であっても、若い学生であればそれほど苦にならない。ならば学生が使えるシェアハウスを空き家利用により作ってみてはどうかと考えたのです。

完成したシェアハウスの共用スペース。
アトリエにも集会所にも使えるように黒板
やテーブルを設置

学生の“やる気スイッチ”を押すプロジェクトにも

——まずは人間環境デザイン学科(2016年度からは共生デザイン学科)の学生に呼びかけ、谷戸地域をくまなく歩いて、たくさんある空き家のなかから協力してくれる家主さんを探すことから始めたという。

幸運にも趣旨に賛同し協力してくださる家主さんと出会うことができ、改修工事が実現しました。人間環境デザイン学科の学生とはいえまだ素人なので、改修は地元の工務店に指導していただきながら、可能な限り学生たちがセルフビルドすることで、改修費をかなり抑えることができました。いまこの活動にかかわった3人の学生は、「各個室」+「共用のアトリエ」がある一軒家に非常に安い家賃で住んでもいます。



また空き家再生プロジェクトは、学生の教材としても非常にいい面をたくさん持っています。インテリアに興味がある学生、工事を実際にやってみたい学生、コミュニティーづくりに興味がある学生——これらの誰にも響くプロジェクトであり、家主さんや地域住民、工務店の人などさまざまな人と実際に折衝し触れ合うことができます。

なにより画期的なのは、一般的な講義ではとかく受け身になりやすい学生に「やる気スイッチ」が入ることです。空き家再生活動の現場では、常に具体的な目標があり、主体的にならざるを得ない状況に置かれるからでしょう。


——2015年11月22日には「三崎の空き家再生活用ツアー」も実施している。

こちらは神奈川県の地方創生大学連携事業(横須賀三浦地域版)の一環としてのイベントとなります。三浦市の人口も、ピーク時の94年と比較して2割近く減少していて、2040年までの「消滅する可能性のある自治体」として例示されるほどに深刻な状況です。ただ空き家を使った戦略的なビジネスも盛んな地域ですので、空き家を持っている人や空き家活用に興味がある方々に、そうした活用事例を見ていただくことを目的に進めてきました。

いったん空き家になると、建物を取り壊して更地にし、分割して売るという流れになりやすい。でも人が住んでいないというだけで、ただ取り壊すには惜しい建物が実際にはたくさんあるのです。空き家を活用することはそうした建物を保存し、移住を促進するだけでなく、地域の風景や記憶を継承し、地域のにぎわいを取り戻すことにもなります。

「KGU空き家プロジェクト」では、横須賀・谷戸地域で現在2軒目の空き家再生に取り組んでいるところです。空き家を学生たちの地域活性や街づくりの活動拠点に使用する計画で、地域の人が気軽に訪れることができるスペースをつくります。学生による講習会(たとえばパソコンやスマートフォンの使い方教室)やワークショップをおこなったり、展覧会などが開いたりできるようなスペースの活用法の検討も進んでいます。また高齢の方は体力の衰えにより家の管理がしにくくなる方も多いので、学生が荷物の片付けなどを仕事として受けることで、街づくりの活動に参加することも考えております。

8学部が集合する横浜・金沢八景キャンパス。
大きな十字架が印象的な礼拝堂にはドイツ製の
パイプオルガンが設置。週末には挙式が
おこなわれることも

社会に出て学ぶ「プロジェクト科目」の一環として

——こうした「空き家再生プロジェクト」が兼子先生の講義にどのように関わっているのかについては……

いまのところ学生には「空間・インテリアデザイン演習」で、空き家の改修案を設計する課題に取り組んでもらうことはありますが、実際に工事をするような授業はありません。「KGU空き家プロジェクト」は志をひとつにした団体であり、デザインやインテリア・コミュニティーをより良くすることに興味のある学生が集まる部活動に近い団体で、実際に街に飛び出して活動をしています。そうした活動の基本は学生のアイデアで、わたしはそれを汲み取って実現可能な道筋をつけるプロデューサー的な役割をしているわけです。

ただし今春からは、こうした活動も、本人が希望すれば単位として認められるようになります。2016年度からは、現在の「人間環境学部」が新たに「人間共生学部」に生まれ変わり、現在の2学科(現代コミュニケーション学科・人間環境デザイン学科)が、さまざまなバックグラウンドをもつ人々との人間関係を構築するための「コミュニケーション学科」と、より良い生活環境をつくるデザインを理論と実践から学ぶ「共生デザイン学科」の2学科になります。

これに伴い、16年度の入学生は3年次の春学期に最長6ヵ月間ほど大学から外に出て自分で選択した場所で学ぶ「プロジェクト科目」を受講することになります。これは1・2年次に身につけた知識・スキル・教養を生かした「実学」に注力することができるように考えられた画期的な試みになります。海外留学や国内外でのインターンシップや社会連携プロジェクトなど何をするかは自由。机の上で漠然と学ぶのではなく、社会の問題を体験して社会とかかわる姿勢を身に付けて戻ってきてくれることを期待しています。



——このほか兼子先生の担当する講義ではどのような分野なのかもお聞きした。

環境に配慮しながら、健康で快適な暮らし、住まい、街をどのようにしたら実現できるか——こうしたことを中心に教えています。たとえば「インテリアの環境デザイン」という授業では、光や熱や空気などインテリアのなかで、健康と快適性をどうデザインしていくか。「サスティナブルデザイン」では、プロダクト・衣服・インテリア・住まい・街づくり・エネルギーシステムなど、世界中の事例を紹介しながらサスティナブル(持続可能)なデザインについて考察しています。また「居住環境の共生デザイン」では、自然を生かしたデザインや民家の知恵について考える授業になります。たとえばヒートアイランド現象をどう回避するか、あるいは暮らしのなかに自然をどう取り込むかなどをテーマに取り組んでいます。

こんな学生に来てほしい

好奇心が旺盛で、社会に貢献したい、自分がかかわることで社会をより良くしていきたい——そういう若者らしい気概をもった人に来てほしいですね。そういう学生にとっては、いろいろな興味にこたえられる学部であるとも思っております。


公開日:

※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。