早稲田塾
GOOD PROFESSOR

慶應義塾大学
大学院 メディアデザイン研究科

杉浦 一徳 准教授

1994年慶應義塾大学環境情報学部卒(1期生)、96年同大学大学院政策・メディア研究科修士、2003年同大学院研究科博士課程修了。博士(政策・メディ ア)。99年より04年まで、郵政省(当時)通信総合研究所 通信システム部超高速ネットワークグループ専任研究員として従事し、大妻女子大学非常勤講師も併任。慶應義塾大学デジタルメディアコンテンツ統合研究機構特別研究准教授などを経て現職。

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東急東横線・東急目黒線・横浜市営地下鉄
グリーンラインが乗り入れる日吉駅の改札前
にある日吉キャンパス
メディアデザイン研究科の研究室などが入る
「協生館」。3つの大学院のほか健康・
スポーツ・文化・実業などの施設もある

“オタク実践者”としてネット時代に向き合う

――今週登壇ねがう杉浦一徳先生の研究テーマは、「人間の活動のなかで協生するデジタルコンテンツ基盤の探求」。日本発のポップカルチャーである「オタク文化」の研究もそれに含まれる。先生はそのオタク文化論の講義を、なんと自らコスプレ姿を披露しながらおこなっている。毎回違うコスチュームを用意するため、これまでに着用したコスチュームは400種類を超える。だが決して冗談や話題づくりのために取り組んでいるのではなく、そこには「オタク文化」に対する真摯な想いがあるという。

たとえば箸を一度使ったことがない人が、箸のもち方を文章で表現し説明しようとしても正確に伝えることは出来ないでしょう。オタク文化も同じこと。経験がベースになければ、大事なことは何も伝わりません。わたしは“いちオタク”として学生に向き合い、自分の経験をフラットな立場で伝え、オタク実践者としての自分の姿を具体的に見せていきたいと思っています。そのために、最初からコスプレで授業をやっているのです。

いまや「オタク」を意識した専門講義は高等教育機関においてもたくさん存在します。社会学的あるいは・社会心理学的・経済学的・政治学的な視点……さまざまなアプローチ法があり得ます。ただ、そうした既存の多くはもうネットを探れば簡単に拾えてしまう。そういう通りいっぺんのコンテンツを大学院に来てまでやるのは意味を感じにくいので。

――そう語る杉浦先生が所属するメディアデザイン研究科(KMD)とは、いったい何を学ぶところなのか。

ひと言でいえば「新しいメディアを構築するために何が必要かを研究するところ」です。これから文化創造立国を先導する人材(メディア・イノベーター)には、デザインやテクノロジー・マネジメント・ポリシーの4つの力を持っていることが不可欠といわれます。そうした力を身に付けるためにリアルな実社会に触れ、そこで得たものをフィードバックしてイノベーションを創造する「リアルプロジェクト」をカリキュラムの軸にしています。わたしを含め12人の専任教員はいずれもさまざまな分野で豊富な経験をもつ実践者であることも特徴ですね。

取材当日は、授業内容に合わせ、中国版
ニコニコ動画「ビリビリ」(bilibili)の
イメージキャラクターでのコスプレ姿。
「メイクをしない略式」とのこと
杉浦先生の研究室入り口。
「共有し合うのはネット時代のリテラシー」
という姿勢から、研究室を3人の教員で共有する

ITテクノロジーの専門家からオタク学研究者へと転身

――杉浦先生自身は、人文と社会科学との柔軟な融合による問題解決をめざして創設された慶應義塾大学環境情報学部(SFC)の第一期生。そこでどのようなことを学び、研究者の道へと進んだのだろうか。

もともとコンピューター好きだったのですが、入学した90年当時はまだインターネットという言葉すら一般的には存在しなかった時代。わたしはコンピューターサイエンスに近いことをやりつつ、インターネットを構築する基盤を作り出すような研究をやっていました。後に“日本のインターネットの父”“インターネット・サムライ”と呼ばれるようになる村井純教授に出会い、大きな影響を受けたことで、大学院の政策・ メディア研究科へと進みました。

わたしが院生だったころは、JPEG形式の画像を1枚、電話回線で転送するのに40秒近くもかかっていた時代でした。ですが当時からアニメやマンガが大好きで、「その時代の一番新しいものを世界中で不自由なく共有できるようにしたい」「ネットワークで音と映像を同時に転送できないか」などと思っていました。そこでデジタルカメラのコンテンツをネットで転送するシステムをつくり、それによって博士号を取りました。

卒院後は郵政省(現・総務省所管)の国立研究所で5年間 公務員として働きました。そんなとき慶應義塾大学で高速広帯域インターネットにおける次世代アプリケーションの開発を産学協同で推進するために「DVTSコンソーシアム」を立ち上げることになりました。そこで「DMC(デジタルメディア・コンテンツ統合研究センター)の手法でグローバルスタジオをつくってほしい」との声がかかったのです。

――テクノロジー分野で大学院教員としてのスタートを切った杉浦先生が、なぜオタク学の講義を持つようになったのだろうか。

「ポップカルチャーデザイン特論」の授業を担当しておられた水口哲也先生が、多忙のため次年度の続投が不可能になったことが契機になりました。それで困っておられたとき、高校時代からコスプレーヤーとして活動していた筋金入りのオタク(笑)が身近にいることに大学側が気づき、後を引き継ぐよう提案されました。

正直、不安は大きかったですね(笑)。いまはネットの資源を有効に使うことが良い環境を構築するうえで必須の時代でもあり、オタク自らによる創造的活動に潜在する新たな可能性を探り、「ネットワークで世の中をどう変えられるか」について学生といっしょに考えていくのは楽しいだろうなぁと考え、思い切って引き受けたわけです。

過去の授業のコスプレ写真一覧

ポイント制による成績付けなど独特のオタク学講義とは

――実際の講義ではどのようなことを重視しているのだろう。

できるだけ具体的な例を多く見せていくことを心掛けています。一回の授業でだいたいスライドを100枚から150枚ほど用意するのですが、1枚1枚話すべきことが多いので、途中で終わってしまうことが多い。内容が濃すぎて消化不良を起こしている学生が少なからずいるのが申し訳なく、もっと時間を有効に使うようにしなければと心掛けているのですが……

また、当学はもともと留学生を多く受け入れており、わたしの講義も留学生が8割以上を占めています。そのため4月から始まる春学期では日本語で授業をしますが、9月からの秋学期では授業は英語でおこなっています。また企業などの協力により基金を設置し、優秀な特別講師を迎えて講義をするという「未来先導チェアシップ講座」に採択されて援助を受けているので、学生が驚くような人をゲストとして招くことも多いですね。

――成績のつけ方もポイント制など独特のスタイルを実践しているらしい。

「授業中に積極的に発言すると最大5ポイント分のチケットを発行する」「レポートの提出で最大3ポイント」「レポートは2時間遅れるごとに1ポイントずつ減り、課題提出遅延における言い訳を何もしなければマイナス4ポイント」などのルールでカウントしています。またオタク的な趣味に時間がかかりすぎた場合は、正当な理由を述べれば減点はしないという方針でもあります。これらに最終発表の出来も加え、計10ポイントのうち10が「A+」、9と8が「A」、7と6が「B」、5が「C」、4~0を失格としています。

こんな学生に来てほしい

自分が好きなこと、やりたいことを持っている人。それは、何かを創り出そうとする場合、誰かのためではなく自分のためであるべきだからです。人は、自分以外の他人の内面を知ることなんてできません。自分でわかるのは自分のことだけ。だからこそ自ら好きなことや、自分が心地いいと感じるものは何かを知ることが大事なのです。ゲームソフトを作るにしたって、自分が楽しめるものじゃなければ、他人を楽しませることはできませんから。


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※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。