早稲田塾
GOOD PROFESSOR

芝浦工業大学
デザイン工学部 デザイン工学科

増成 和敏教授

1979年九州芸術工科大学工業設計学科卒。79年松下電器産業株式会社(現・パナソニック株式会社)に入社し、2009年までテレビ・カーオーディオ・携帯電話などのプロダクトデザインとインタフェースデザインに携わる。「Gマーク大賞」などデザインに関する受賞歴多数。06~09年まで「新日本様式」協議会事務局次長。09年より現職。2010年九州大学芸術工学府博士後期課程修了。博士(芸術工学)。著書『プロダクトデザインのためのスケッチワーク』(オーム社)。

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3~4年生と院生が通う芝浦校舎はJR田町駅
から徒歩3分。都心立地の良さが演習などに
参加する企業などにも歓迎される
スケッチ実習授業中の風景

なぜ家具調テレビが70年代まで流行ったのか

――テレビなどの家電や情報通信機器のデザインの歴史などを研究テーマとする増成教授は、大卒後の約30年間、パナソニックのデザイン部門に勤務し、プロダクトデザイナーとして大活躍していた。液晶テレビの立ち上げにも携わり、ほぼ5年きざみでAVC(オーディオ・ビジュアル・コミュニケーション)の新分野に移り続けていたという。デジタル機器進化の最前線でデザインに長年携わり、輝かしい受賞歴をもつデザイナーだった増成教授が教育の分野に転身した理由からまず聞いていこう。

転機のきっかけは経済産業省が06年、「日本人の美意識や精神文化と最先端のテクノロジーを組み合わせ、国際競争力を持つ商品を生み出す」などを目的に「新日本様式」を設立したことがあります。わたしは会社からの要請でその協議会の事務局に出向し、3年間さまざまなデザイン活動に触れる機会を得ました。そのことで「デザインを志すきっかけとなった若き日の疑問を解き明かしたい」という想いが心の中でどんどん強くなっていったのです。


――増成先生のライフワークの原点たる「疑問」とは……

70年代までのテレビのデザインは木目の家具調が主流でした。当時わたしはそのデザインが大嫌いで、「テレビのデザインはもっとシンプルでモダンであるべき」と、デザイナーを志す学生として強く感じていたのです。そうした自分の理想とするテレビのデザインを実現するため、九州芸術工科大学工業設計学科で4年間学び、松下電器に入社。幸運にも希望どおりテレビ本部デザインセンターに配属が決まりました。

ところがちょうどそのとき当時ソニーからまさにシンプルでモダンなデザインのテレビ「PROFEEL」が発売されたのです。これは大きなショックでした。当時の給料からすると無理をして購入した16インチテレビ「PROFEEL」は風呂すらない安アパートのなかで輝いて見えましたね。その後のデザイン活動は、いかにそのとき受けた衝撃を乗り越えるかを追求し続けた結果、そう言っても過言ではありません。

それから20年以上たって「新日本様式」の活動に参加したことで、「あの木目調のテレビのデザインが誕生したことにも理由があったはず」と思い至り、その疑問を解決しておきたいと強く考えたわけです。そこで母校である九州大学(九州芸術工科大学と統合)の大学院博士課程に再入学し、日本のテレビデザイン史を研究しはじめたのです。

さいわいなことに日本におけるプロダクトデザイナーの草創期世代の方々がまだお元気で、さまざま貴重な話も聞けて資料も収集できました。おかげで『日本におけるテレビ受像機の変遷と、家具調テレビの成立に関する研究』という博士論文を完成させることができ、それで芸術工学の博士号を取得しました。今後もその研究を続けたいと考えていた矢先に、芝浦工業大学の教員募集に出合ったわけです。

博士論文『日本におけるテレビ受像機の変遷と、
家具調テレビの成立に関する研究』の表紙
増成先生の講義にも使用される
『プロダクトデザインのためのスケッチワーク』
の表紙

モノづくりの現場に活かすためのデザイン

――増成先生の講義は、先端デザイン現場における長年の体験がベースになっているという。それは具体的にどんなところなのだろう。

プロダクトデザインの歴史を研究している研究者はたくさんいますし、すばらしい研究成果もすでにたくさんあります。わたし自身がここでやっているのは「論文のための研究」ではなく「モノづくりの現場に活かすための研究」といえます。人間社会のことも学び、現実のデザインに活かしてほしいと思っております。

デザインには大きく分けて美大系と工学系とがあります。おおざっぱに文系・理系ともいえるかもしれません。美大系がめざすアート作品は、極言すれば、理解者が2人いれば成立するジャンル。でもプロダクトデザインは、より多くの世の人々の賛同を得ないと成立できません。また開発組織内での賛同を得るためのテクニックも重視していることのひとつになります。

プロダクトデザインの現場で必要不可欠なのが、アイデアを具体的なイメージとして表現できるスケッチ力。それも、どんなにCGテクニックが得意だとしても、デザイナーの個性を伝えて説得力を持たせるには手でフリーに描いたものには適わないのです。ですから、企業の最前線でも手描きスケッチがすごく重視されます。じっさい採用判断のためのポートフォリオ(作品ファイル)にも「手描きスケッチがあること」を条件としているところが大半なのです。

いっぽう「スケッチが苦手」といった理由で、デザインをあきらめる学生も多いのですが、プロダクトデザインのためのスケッチはアート系スケッチとは大きく違います。それは自らのアイデアの内容を伝えるためのもので、いわば手紙を書くときに美しさよりも読みやすい文字のほうが大切なのと同じです。

そのことを伝えるために2013年に『プロダクトデザインのためのスケッチワーク』という単行本を書いてみました。この本の通りに実践すれば、どんなに絵心がない人でも工業デザインに必要なデッサン力を身に付けることができます。実際の授業でもこれをテキストに使っています。

増成先生がパナソニック時代にデザインを
手掛けた作品群の数々

新たな価値がなければデザインとはいえない

――増成先生の講義で重視しているのはどのようなことだろう。

ひとつは「デザインは頭だけで考えていてもダメで、ことばとスケッチで伝えよう」ということ、もうひとつは「デザインで次なる新しい価値を生み出せ」ということ――この2つに尽きます。

具体的には「椅子をデザインする」のではなく「“座る”をデザインする」と考えないといけません。「調理器をデザインする」のではなく「〝食〟をデザインする」ように心掛けるべきです。なにかしら新しい価値観を生み出さなければ、本当の意味でのプロダクトデザインとは呼べません。

工業製品のデザインには「文脈」と「周辺」があります。どのような文化が継承されて誕生したかが「文脈」であり、その製品が誕生したとき時代にどんな文化があったかが「周辺」。そうした「歴史を学ぶこと」も大事。製品開発における先人たちの歴史を知ることが、デザイン現場での強い武器になることも多いのです。

デザインは好き嫌いだけで決まるものではなく、さまざまな歴史的・社会的・文化的な理由があって成立します。たとえば木目を活かした家具調テレビのデザインが昔誕生した裏には、東京オリンピックによる日本賛美の動きがあり、当時の日本調ブームがありました。でも、いま日本調のものをデザインするといっても、いまさら木目や家具調にはならないでしょう。

こんな学生に来てほしい

ひと言でいえば「学びたい何かをもっている」人がいいですね。「これが苦手だからこっち」という消去法でなく、自らが好きな何かを見つけて、大学を選んでほしい。モノづくりをしたいという気持ちがあれば、多少不器用でもデザインスキルは後から付けられます。うちの大学は一所懸命な先生たちが多いので、何か求めて訪れた学生には必ず何かを与えられるとも思っております。


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※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。