早稲田塾
GOOD PROFESSOR

明治大学
理工学部 機械情報工学科

相澤哲哉 准教授

東京生まれ。東京工業大学工学部卒。95年~96年に文部省(現・文部科学省)国際学生交流制度奨学生として米カリフォルニア大学バークレー校へ留学。2000年東京工業大学大学院理工学研究科機械工学専攻博士課程修了。同年東京工業大学大学院理工学研究科機械宇宙システム専攻助手。07年同助教。08年明治大学理工学部機械情報工学科専任講師。12年より現職。

おもな受賞としては、「日本機械学会畠山賞」(94年)「日本機械学会エンジンシステム部門ベストプレゼンテーション表彰」(03年)「日本機械学会論文賞」(04年)「堀場雅夫賞」(08年)「明治大学連合駿台会学術奨励賞」(12年)など。

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明治大学生田キャンパス西北門
相澤研究室のある生田第二校舎1号館

「革新的燃焼技術」国家プログラムの中核的リーダー

――今回は、戦略的イノベーション創造プログラム「革新的燃焼技術」という国家的研究プロジェクトの中核的役割をはたす明治大学理工学部機械情報工学科の相澤哲哉先生にご登壇いただくことにした。まずは若き日に機械工学へと興味をもたれたキッカケなどからお聞きしていこう。

父の相澤紘がキャノンの一眼レフカメラ・EOSの開発プロジェクトの責任者をかつて務めて、筋金入りのエンジニアでした。EOSという一眼レフカメラシリーズの名前は父親がつけました。なのである意味、生まれたときからエンジニアになるように半分洗脳されていたような感じですね。

ただ父がカメラという精密機器を開発していたのに対し、わたしは昔から大きなもの、動くものに興味がありました。高校生のころには飛行機のジェットエンジンやロケットエンジンなどに興味をもちはじめて、そういう機械やエンジンを本気で勉強できるようなところにということで、東京工業大学工学部へ進学しました。

東工大の大学院および助手・助教時代はおもに「燃焼のレーザー計測」や「ディーゼル火炎内におけるすす粒子の生成・酸化過程」などについて研究してきました。


――明治大学理工学部機械情報工学科の学生は生田キャンパスで4年間を学ぶことになる。相澤先生の学部での講義内容については……

わたしは本学科で1年から4年生までの講義を担当していますが、1年次の「情報処理実習1」では、コンピュータープログラミングの基礎を教えています。いまや機械工学の分野では、プログラミングのひとつくらい出来ないと研究でも使いものにならないですし、企業現場でも機械の知識だけではまったく仕事になりません。旋盤で削って作った部品を組み立てると機械製品ができあがるというような時代は遠い昔のことで、いまやコンピューターと機械システムとが一体化している製品ばかりですから。ただしここは情報科学科ではないので、機械を開発し動かすための道具として、コンピューターをきちんと使いこなせるようになりなさいという位置付けになります。

2年次では「基礎計測工学」を担当しています。さまざまな種類のセンサーを実際に使いながら、光や熱、変形や力など、いろいろな物理量を測ってみせる講義になります。こうしたことは教科書を座学で学ぶだけでは実感しにくいので、手元が写るカメラを教壇に設置して実験をして見せ、センサーから出てくる信号をスクリーン上のオシロスコープの画面でリアルタイムに見てもらいます。まず「計測って実際どういうことなのか」を自らの目で見て体験してほしいわけです。


――まさに相澤先生の熱い想いの込められた実践的講義であり、専門など決められない初学者にとって一生モノの契機ともなろう。

1・2年次で「あっこれは面白そう」と思ってもらえたら、こちらの目論みどおりなのですね。そうした興味がまずないと、機械工学の勉強など始まらないし、研究を継続していく力もつきません。そうしたきっかけや動機を与えられたらと思っています。

3年次では「シミュレーション工学・演習」という授業を担当しています。ここではコンピューターをつかいながら、いろいろな物理現象の法則や理論式をプログラムに組み込んで、数値シミュレーションをおこないます。演習問題を通して、自らプログラムを組んで数値計算ができる力とエンジニアリングセンスを身につけてもらうのがねらいです。

そして4年次では、もっと応用に近い「コンピュータ力学」の授業も担当しています。また3~4年次になると本学科では、各研究室に所属しておこなう研究の占める割合が大きくなり、「ゼミナール」や「卒業研究」の指導が主になっていきます。

ディーゼル排気微粒子の電子顕微鏡画像と
ディーゼル燃焼高速度レーザー影写真撮影用実験装置
希代の冒険家・植村直巳を称える記念碑

国内外エンジン研究者が行き来する研究室

――明治大学理工学部機械情報工学科では、3年次秋の「ゼミナール1」から、所属する各研究室を舞台として実質的な研究活動が始まる。

わたしは3年次のゼミナールで教科書を講読することはしません。さきほどの基礎計測工学の授業と同じように「これって面白いんだよ」という実例をあげて、各自の動機づけを促すようなスタイルをとっています。とくに3年生には、この研究室でやっている専門的な内容に少しずつでも実際に触れてほしいということで、わたしの研究室(環境情報研究室)で実際にやっている研究テーマが社会的にどんな役割だったり位置付けだったりするのかという背景をきちんと理解してもらうようにしています。

水素や自然エネルギー(太陽光や風力)の本格的普及にはまだまだ時間がかかります。いまから30年後の未来でも自動車用の動力源はエンジンが主役であり続けます。世界中で増え続け使われ続ける自動車のエンジンをもっと地球に優しいものへ高めていくために、どうしたら「まったく煙が排出されないクリーンなエンジン」や「もっとCO2の排出が少なく地球に優しいエンジン」が可能なのか――これが本研究室の基本的なテーマとなります。

わたしの研究室では、最先端の光計測技術(レーザー・分光計測・画像計測など)を自動車エンジン内部の燃焼プロセスなどの現象解明や制御に応用し、クリーンな燃焼システムを開発することで、環境およびエネルギー問題の克服に貢献するための研究をめざしています。エンジン内部の燃焼プロセスのなかでも、とくにディーゼルエンジン内での粒子状物質(いわゆるPM 黒煙)の生成・酸化過程の解明と、CO2排出削減を中心に研究してきています。


――ディーゼルエンジンの話題となると、ドイツ自動車大手フォルクスワーゲン社の排ガス規制逃れの問題にふれないわけにはいかない。

あの不正問題でフォルクスワーゲン社は、有害な窒素酸化物(NOx)の排出を故意にコントロールし、検査時だけ排ガス浄化機能を稼働させて、通常の走行時には動かないようにしていました。技術者として人間として決してやってはいけないことで技術者倫理から外れていて、会社ぐるみでそういうことをやっていたのは非常に腹立たしいですね。エンジンを研究・開発して商品化をめざすエンジニアは世界中に大勢いますが、そのほとんどは真面目に一所懸命やっています。それなのにひと握りの悪意ある人たちが評判を落としているわけで、非常に迷惑しています。


――ところで2014年度から戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「革新的燃焼技術」という産学官共同研究プロジェクトが国家レベルで始動しているが、その中核的役割をはたしているのが相澤先生である。

これは国内の複数の大学と自動車メーカーとがしっかりとタッグを組み、5年間で100億円規模の予算を投入して、自動車用のガソリンおよびディーゼルエンジンを対象に最大正味熱効率50%を実現していこうという明確な目標が課せられた国家的な大型研究開発プロジェクトになります。わたしはサブリーダー的な位置付けで、複数の研究テーマを担当しています。このうち「ディーゼル機関の後燃えの低減」では、急速静音燃焼により等容度・熱効率を向上させる燃焼コンセプトの開発が一番の目標となります。

これが一昨年にはじまってから忙しくなりましたが、研究室の環境もさまざまな側面で激変しています。熱効率50%という具体的な目標、産官からの強力かつ組織的なサポート、なにより多額の血税を投入する国家プロジェクトであり、社会に還元され得る成果を出さなければならないという使命感があります。

これまでにも企業などとの共同研究はありましたが、どちらかというと学術寄りの研究が中心でした。それがもっと実際に自動車メーカーからのニーズに応えるような実用的な成果・技術をアウトプットしていかないといけないということに。おかげで研究室の実験装置なども高額な装置がずらっと並ぶようになって、情報の入り方もふくめて研究室内は一変しました。

いつまでに結果を出さないといけないというプレッシャーも大きいですが、逆にいえば、それだけ期待されているということ。エンジン内の「後燃え」を減らすためには、エンジン筒内という過酷な環境下で刻一刻と消えていく「後燃え」現象を追跡・解明しなくてはなりません。そのための計測手法が複雑で手間のかかる方法だと、学術的にはともかく実際の現場では使い物になりません。あらたな装置や計測法を準備しつつ実際に担当する学生・院生を育て、学術的にも実用的にも価値のある研究手法を工夫しなければなりません。またそれらを協力企業や大学の関係者それぞれにわかってもらえるよう説明もしていかなければならないのです。

学生や院生たちもある意味、自動車メーカーにおけるエンジン研究開発の最前線にいるエンジニアたちと似たような雰囲気になって、みんなピリッとしてきましたね(笑)。


――相澤研究室には頻繁に国内外からいろいろな研究者が行き来するという。

さまざまな自動車メーカーの技術者や大学研究者・関係機関の「偉い」方々が研究室を訪れる機会も増えました。複数の大学や企業とのミーティングも盛んに開催されます。このような場には、学年を問わずできるだけ学生も同席させるようにしています。学生数名を連れて共同研究チーム内の他大学の研究室を訪問する場面も増えました。

学生はこのような場で先生方や企業の方々の表情や声を自らの目と耳で観察することになります。これにより各自の研究のニーズや自身の役割を肌で感じながら理解し、自らの足りないところや出来ることを具体的に振り返ることもできます。教員や先輩から言われたとおり研究していれば何とかなるわけでは決してないので、それぞれ試行錯誤しつつ期限までに研究成果を出さないといけない。精神的にも肉体的にも厳しいところはありますが、そこでがんばって成果がでれば、それを研究室内外のみんなが見ているわけです。これだけの仕事ができる能力のある学生なんだということがわかれば、協力してくれるメーカー側からも「ぜひうちに来てください」ということにもなります。

初冬の明治大学生田キャンパス点描

世界に通じるエンジニア魂を育て上げたい

――新入生向けの研究室紹介キャッチコピーをみると「はじめに光ありき」とありますが……

これは旧約聖書の創世記冒頭の記述を借りました。わたしなりの研究アプローチの仕方として、まず何ごとも詳しく見て(可視化して)みなければわからないというところがあります。最新の光計測技術を駆使してエンジンのなかで何が起こっているのか詳しく見て理解することができれば、問題を解決するための方法もおのずと見えてくるはず――ということです。


――これこそ世界第一線の工学研究者・エンジニアのもつべき信念でもあるのだろう。どこか「カメラの鬼」とも称されるお父様から継承されているエンジニアの魂みたいなところもあるのだろうか。

父は2年前に亡くなりましたが、エンジニアとして心から尊敬していました。ただ洗脳されただけなのかも知れないですけどね(笑)。


――あらためて学生たちを教え導くにあたってモットーについては……

わたしの教育と研究に関する考え方は次の3つに集約できます。それは「どの子もかわいい」「研究と教育は表裏一体」「国際的な人的ネットワークを大切にしたい」ということ。2008年に明治大学に教員として採用されたときに自分の考えをこの3つに整理したのですが、あれから10年ほど経っても基本的な考え方は何も変わっていません。その当時大事だったことは今も変わらず大事なんだとも言えますし、わたし自身があまり成長していないとも言えるかもしれませんが。


――ところで、明治大学理工学部といえばAO入試が注目される。

機械情報工学科のAO入試の特色として、理工学部のほかの学科と違って実験をさせるということがあります。設定された課題に対し、限られた期間内に各自で製作した装置を使って実験をして、その実験結果について面接試験の際にプレゼンをしてもらいます。多くのAO受験者は自分で製作した実験装置を試験会場に持ってきます。何を目的として、どんな装置を製作し、どのように工夫して実験をし、その結果をどう分析したのか――こういう一連の内容を説明してもらうことで、それぞれ受験生のもつエンジニアリングセンスの一端が必ずみえてきます。

あとはやる気と目の付けどころですね。これまでの勉強が足りなくて学力がそれほど高くなくても、やる気があって目の付けどころの良い学生は、ひとたび専門科目の授業や卒業研究がはじまってみると、メキメキと実力をつけて真価を発揮します。わたしの研究室でもAO入試で入学した学生がすばらしい研究成果を出してくれています。

こんな学生に来てほしい

機械系(ハードウエア)と情報系(ソフトウエア)の幅広い知識を身につけて世の中の役に立つ技術や製品を創り出したい、この先生の下でこの分野を勉強したい――といった具体的なイメージや意欲のある学生、やる気、エンジニアリングセンス、興味・好奇心のある学生が求められています。また、機械の勉強をしようとすると物理は必須です。高校物理レベルの本質的な理解が足りていないとかなり痛い目にあいます。その点にはぜひ注意してほしいですね。

研究室の学生を日ごろ指導していると、学生たちは本当にひとりずつ違った個性をもっていることを毎年のように痛感させられます。それをどう引き出し伸ばすか、これには毎年苦心させられますが、各自持ち味を発揮できたときには、こちらが驚くほどの成果をあげてくれることも。われわれ教員も研究室もそれぞれの持ち味を発揮して、世界中の人々に驚いてもらえるような素晴らしい研究成果をぜひ出したいと思っています。


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