早稲田塾
GOOD PROFESSOR

東京大学
工学部 航空宇宙工学専攻

中須賀 真一 教授

中須賀 真一(なかすか しんいち)
1961年大阪生まれ。88年東京大学大学院博士課程修了(航空学)。88年日本IBM東京基礎研究所勤務。90年東京大学工学部航空学科講師。93年同助教授。96年メリーランド大学客員研究員。98年より現職。99年スタンフォード大学客員研究員。

主な著作は『宇宙ステーション入門』(共著・東京大学出版会)など。
ホームページ http://www.space.t.u-tokyo.ac.jp/cubesat/

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大学研究室がつくった世界最小衛星CUBESAT

中須賀研究室のある東大工学部7号館

この2003年6月末、大学の研究室がつくった日本初の人工衛星が宇宙軌道に向かって打ち上げられようとしている。一辺が100c㎡の箱型で、重量1kgという超小型衛星「CUBESAT」だ。つくったのは東京大学・工学部航空宇宙工学専攻の中須賀研究室のメンバーたちである。

「工学を学ぶということは、制作したものが実際にどう動くかを確認しないと学んだことになりません。重量1kgというのは世界最小の衛星ですが、これを自分たちの手で設計から制作・試験・打ち上げ・運用そして結果の解析までをすることによって、学生たちは人工衛星に関する全体を学ぶことができるわけです」

このプロジェクトを指導する中須賀真一先生はそう語る。
この手づくりの衛星は大学予算の枠もあって、すべてを高額な宇宙用部品では賄えず、それこそ秋葉原電気街で購入した部品があちこちに組み込まれており、搭載するカメラも市販のデジタルカメラである。しかし、それがまた大いなる実験にもつながるのだ。

アキバ製人工衛星でニッポン宇宙研究界にカツ!

君はくぐれるか? この本号キャンパスの正門を

「国家が打ち上げるような大型衛星になりますと、数百億円ものプロジェクトになります。すると、どうしても失敗できませんよね(笑)。私たちの小型衛星だと、搭載できる機能は少ない代わりに冒険もできます。多少無茶な冒険もできますし、そうした無茶をすることで技術が進歩することもあるわけです」  

今回打ち上げるCUBESATは1号機ということもあって、衛星の基本的な機能である通信やコンピュータ・センサー機器などが正常に作動するかどうかの試験が中心になる。そして、2号機以降は本格的な画像送信機能やいろいろな冒険精神も搭載されることになるようだ。

じつは中須賀研究室には、このCUBESATに先立って現在も続けている「CANSAT」というプロジェクトがある。これは文字どおり缶ジュースのCAN(350ml缶)を人工衛星にしたものだ。  

「CANSATのほうは98年から始めたプロジェクトで、衛星とはどういものかという基本的なことから、衛星を小型化するための技術を学ぶためのものです。99年からは毎年米国ネバダ州の砂漠に行って、上空4000mまでロケットで打ち上げて実験をしています。さらに僕の発案で2001年からは日米5大学が参加するコンペティション(競技会)にもなりました」  ここで競われるのは、落ちてくる衛星をコントロールしていかに目標点近くに落下させるかだという。これまでの2回はいずれも中須賀研CANSATが優勝、とくに前回は誤差45mという記録を達成させた。  

CUBESATといい、CANSATといい、宇宙あるいは人工衛星に興味のある高校生諸君には胸の踊るような中須賀研のプロジェクトであろう。この他にも宇宙開発事業団と共同で、宇宙空間にある衛星を別の衛星でキャッチする実験や、将来の人工衛星について研究構想をまとめたり、人工知能など様々な応用実験なども行われている

ミスひとつ許されない厳しさと楽しさ

東京大学本郷キャンパス

東京大学・工学部では学部の学生が研究室に配属されるのは、ふつう卒業研究に入る4年次からだ。ところが中須賀研では、2~3年次の学生でも希望すれば参加できるようになっている。これは、少しでも早く学生を実験に触れさせるチャンスを与えたいという中須賀先生の考えからだ。なんと他大学の学生でも希望者は受け入れているという。  

「プロジェクトに参加している学生たちは、ムチャクチャに面白がってのめり込んでいる者ばかりです。CANSATの場合など、設計から打ち上げまで4ヵ月ほどしかありません。その間は土曜・日曜もなし、時にはほとんど寝ないでやっています。僕のほうが心配になって『そこまでせんでいいよ』と声をかけなきゃいけないくらいなのです」  

先の見えないこんな時代「主体性のない無気力さ」。最近の若者たちを一言で表わそうとすると、ついこんな言葉が浮かんできてしまう。以前は中須賀先生もそう思って大半の学生のことを見ていたが、このプロジェクトを始めてからは、学生たちが目の色を変えて熱中するように変わってきたという。いまの若者たちもモチベーションさえ与えれば、「なかなか捨てたものではない」とその認識を改めたそうだ。

東大の航空宇宙工学専攻にはシステム工学を学ぶカリキュラムもあるが、今回のCUBESAT打ち上げは、その良いケーススタディにもなる。  

余談だが、同専攻の卒業生には企業のトップになっている人が意外なほど多いという。
「いろんな分野の技術をまとめて、どういうシステムに組み上げるかをきちんと勉強しているからかもしれませんね」と中須賀先生。システム工学を学ぶことが、畑違いとも思える企業経営にとっても有利にはたらくということなのかも知れない。

宇宙軌道へ発射!!若者たちの熱き夢とともに

日本アカデミズムの象徴東大安田講堂

いよいよ手づくり人工衛星CUBESATのロケット打ち上げも間近に迫ったが、航空宇宙工学を研究する醍醐味について中須賀先生は次のように語ってくれた。  

「同じ工学でもコンピュータなんかでしたら手元で修理ができますよね。でも人工衛星は、一度打ち上げられたら手の届かない世界に行ってしまいます。それでも最後まで確実に作動することが求められます。とても厳しい世界ですが、それが逆に楽しさでもあるのです。打ち上げた衛星が最初に送ってくる電波のことをファーストボイスといいますが、それを地上局でキャッチする一瞬のワクワク感。その瞬間に1年以上かけた準備の時間が凝縮しているわけです。その緊張感とワクワク感がたまらない魅力ですね」  

少年のころに見たアポロ11号の月面着陸に宇宙への夢を馳せ、この世界をめざしたという中須賀先生だが、そのときの熱い思いは、今もいささかも失われていないようだ。  この2003年6月末、CUBESATは宇宙軌道をめざして飛び立つ。中須賀先生と研究室スタッフたちの熱き夢を乗せて――。

こんな生徒に来てほしい

自主性をもって、自分で面白いものを見つけられる人と出会いたいですね。大学に入ったら何かのめり込めるものを自ら見つけるようにしてください。その上でとことん凝って凝って、ひとつのことに深く入っていけるだけの能力をぜひ身につけてほしい。いまの大学受験が求めるのは、それとは逆の能力です。ですから、大学に入るまでの能力と、大学に入ってから求められる能力は違うんだという認識が必要なんです。

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