早稲田塾

早稲田塾の卒業生

ユメビト

ユメビト一覧へ戻る

世界をフィールドに人類学から未来を描く

吉田真理子 Special Interview 13

Profile
人類学リサーチャー/国連大学環境・人間の安全保障研究所(※2013年9月~)を経て、2014年2月よりオーストラリア国立大学博士課程に在籍予定(※International Postgraduate Research Scholarships (IPRS)奨学生 4年間の学費・生活費全額支給)。
早稲田塾第25期生。2004年立教女学院高校卒、慶應義塾大学総合政策学部総合政策学科、同大学院政策・メディア研究科(ヒューマンセキュリティとコミュニケーション)を経て、コロンビア大学大学院人文社会科学研究科・人類学専攻修士課程を修了。
関心領域は、環境人類学、科学技術社会論、知覚民族誌。南太平洋のツバルをフィールドに、環境リスク下における知識生成についてエスノグラフィ(集団や社会の行動様式をフィールドワークによって調査・記録する手法およびその記録文書のこと)研究、映像記録を行っている。また、現在では、海洋の酸性化と牡蠣からみる気候変動リスクの知識生成について研究を続けている。

「ユースパワー」設立
国連本部でコフィ・アナン元事務総長との
会談も

「社会問題」の眺め方、切り口を変える。私がずっと追究しているテーマです。
中学生の頃の私は、海外で何が起きているかほとんど知らなかった。だから、「もっと知らなきゃ」という思いで、国境なき医師団の海外取材レポーターに応募。2度も落ちちゃったのですが、諦めきれずに高田馬場にある事務所のドアをノックし「私も参加したい」とアプローチ。念願かなって医学生のスタディミーティングに参加できたものの、助産師不足や地雷除去……新聞や教科書で取り上げられている問題すらきちんとわかっていない。このことに危機感を覚え、中高生が主体となって社会問題を考える「ユースパワー」という団体を設立。世界の貧困を考えるために、ワークショップでは、貧困層の子どもが過ごす時間と同じ比率で、労働や勉強を体験する機会をつくりました。
さらに高2の5月、突然のチャンスが訪れました。それは、アジアの若者が国連本部でコフィ・アナン元事務総長に直接思いを伝えられる〈Speak Your Mind! キャンペーン〉。テレビCMで企画を知った私は、定期試験1週間前だったけれど、夢中で申請書にとりかかりました。そうしてある日、日本代表に選出されたという一報が! 飛び上がって喜びました。向かった先は、ニューヨーク。アナン夫妻やアジア各国の若者と「児童労働や買春をなくしたい」という思いを共有し、自分が取り組みたいテーマを改めて確認できました。

多様な価値観を「いいね」と
認めてくれた早稲田塾

同じ頃、早稲田塾で受講していた講義「EEC(Extensive English Class)」では、ジェームズ・ラブロックの「ガイア理論」やレイチェル・カーソンの「センス・オブ・ワンダー」などさまざまな理論や思想を原語のまま読み進めました。ガイア理論では、「地球をひとつの生態系」とみる大胆な発想について、英語で理解する。これまでとは触れたことのない思想と言語のフィルタを通してみた世界は、今までと全く違うものでした。
このように、早稲田塾の教材や授業は、私の既成概念を少しずつ崩し、視野を広げてくれた。しかも、人と違うことを大いに「いいね!」と認めてくれる環境で、私は「あれもやりたい」、「これに関心がある」とスタッフや友だちにいつも声を大にして伝えていました。(笑)
アウトプットすることの大切さも学びました。「論文作法(さっぽう)」では、どんな設問がきても一貫性のある立論と論拠が求められ、同じ塾生とのディスカッションを通じて自分のクセに気づかされました。また、受験に向けて、「どんな研究をしたいか」を限られた文字数で表現する練習を繰り返しました。30回以上も同じテーマを書き直していくと、やがて感情の塊が整然と言語化されていく。しかも、インターンの先輩と話をつづけるなかで、本当に向き合いたい問題は実は別の次元にあったり……ということに気づかされた。もやもやした思いを浮き彫りにすることができたのは、この先輩の存在があってこそ。だから私も卒業後は、インターンとして、後輩の気持ちを引き出すことに力を注ぎました。

ツバルに生活し、海面から環境を読む

慶應義塾大学SFCに進学してから、高校時代に雑誌で目にした特集「沈む楽園、ツバル」という表現に疑問を持った私は、フィールドワークの助成金を頂いて大学3年のときにツバルで調査をはじめました。顕在化している変化ではなく、これからのリスクを予測するという観点では、住民の行動や感情の変化までを丁寧に観察・記録しなければなりません。そのため私は、現地のおばあちゃんの“孫”として同居しながら、慣習やツバル語を学んでいきました。人類学というからには、形容詞ひとつとっても最適な意味に置き換えなければならない。おばあちゃんとおしゃべりをしながら表現を学んでいきました。そうして生活していくにつれ、今まで培ってきた“当たり前”は、次第に崩れていった。
一方、生活者として現地に溶け込むと同時に、リサーチャーとしてもきちんと理論を打ち立てなければならない。世界的な権威をもつ研究者は、世界中に広く持論を発表している。生活者としての密なつながりこそが自分の自信になっていたけれど、それとは別に、世界で読まれるためには「英語」で論文を書かないといけないと痛感しました。そこで、留学を決意。出願を経て、米国で初めて人類学部が創設されたコロンビア大学との縁ができました。コロンビア大学では、パプアニューギニアをフィールドにしている教授のもとに何度も訪問するうち、面白い研究だと興味を持っていただき、最終的に学位論文で最優秀論文賞を受賞しました。現地調査を経た問題設定が確かであること、彼女に今まで見てきた学生の中で一番だと推薦していただいたことが本当に嬉しかったです。現在にいたるまで、教授は、私の一番の理解者として応援してくれています。

将来の<夢>「持続可能な社会」に向け、
地方に研究成果を残したい

東京、ニューヨークという大都市と、ツバルでの生活を経験し、未曾有の震災を経た今「持続可能な社会について研究を深めたい」という気持ちを新たにしています。単一の言語をもたない〈海〉が教えてくれる変化、具体的には牡蠣など生物の変化を人類学のアプローチで観察し、引き続き環境リスク下の知識枠組みについて研究していきたい。そのための現在のフィールドは、太平洋。それら水産業を抱える場所で生活しながら、研究の成果を還元していければと思います。
もちろん、研究者であると同時にひとりの女性として、いっしょに過ごすパートナーと新しい家族も得たい。早稲田塾の仲間やツバルのおばあちゃんがそうであったように、習慣や価値観の違う人と切磋琢磨できるって、本当にうれしいことだから。

―― 世界的な社会問題を追究しつづける吉田先輩。「ただ、知りたいという気持ちだけ」とはにかみつつ、研究の道を選んだ理由を語ってくれました。これからさらに異文化や風土に触れ、新しい社会のあり方を提唱してくれることを心待ちにしています。

吉田真理子
吉田真理子
世界をフィールドに
人類学から未来を描く
  • mixiチェック