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坂東太郎のこれだけは知っておきたい高校生のニュース常識 【早稲田塾】

サブプライムローン問題②

前回述べたように、サブプライムローンは証券化という手法でリスクを幅広く分散した。これは株式会社の手法と同じ。というよりも、株式会社の手法を取り入れたのが証券化といった方が正しい。株式会社は証券を、前回の例を用いれば、一口の額面1000円の株券を100万枚作って主に取引所(市場)で売り10億円の元手を経営側が得て商売を拡大する。「金利」に当たるのが株価の上昇や配当だ。

ただし、株式市場がさまざまな要因がプラスにもなりマイナスにもなる仕組みであるのに対して、サブプライムローン証券は「住宅価格の上昇」のみが唯一最大の「買い」要因。例えば大地震が東京を襲ったとしよう。多くの産業が壊滅的打撃を受ける。したがってこれは、一義的に株価が下がる要因である。

しかし一方で、「復興」への期待から建設産業などの株価は上がる要因にもなり得る。不謹慎な例えと思われるかもしれないが、市場原理、日本でいう「兜町(東京証券取引所の所在地)の論理」とは、こうした冷酷な面を持ち合わせている。

それに対して「住宅価格の上昇」は、それが止まればいっせいにサブプライムローンも不良化する。「高所恐怖症」が発生して、ある程度の範囲で下落が進めば、全国レベルに広まるのは日本のバブル経済崩壊過程でも見られた。

もともと地価とは、最も便利で人気のあるスポットと比較して、相対的な値が付く商品なので、頂点付近が下落し始めればいっせいに「やられる」傾向がある。こうなるといくら分散してあっても、リスク(地価下落)の実現にともなう焦げ付きはローン証券全般に発生する。

全財産を家にある1つの引き出しに入れておくと、盗まれたらお仕舞い。だから家中のあらゆるところへ分散した。それでも家が全焼したらやはりお仕舞い。1つの価値観に基づくリスクは、いくら分散してもどうしても消滅させられない。

サブプライムローン問題がより深刻なのは、それがどこまで広がっているのかわからない点にある。サブプライムローン証券は単独ばかりでなく、別のローン証券や金融商品と一緒にして、いわばセット売りしたものも多数ある。これらは良く解釈すれば「危険(サブプライムローン証券)が混じっていても他に安全な商品も組み合わせてあるから大丈夫」で、悪く解釈すれば「危険な商品が混じっていて他も大丈夫なのか」だ。今は現実として住宅価格が下がっているので、誰もが悪く考える。

「リスクの分散」とは、言い換えれば危険を広く薄くする行為。良い解釈では「薄く」が安心材料となり、悪化局面では「広く」が不安の種となる。

1滴の赤いインクが猛毒とする。それを隔離すれば問題は発生しない。でもそれを大きな水槽へ放り込んだとしたら、そこの水は安全か。仮に科学的に「この槽に入っている水の量を考えると毒は拡散されて、飲んでも人体にまったく害はない」と証明されたとしても飲むか。ましてや、今現在サブプラ証券全体がどこまで他の金融商品に広がっているのかわからない情勢である。

また赤インクが猛毒とわかると人は、ピンク色やオレンジ色のインクまで疑い始める。サブがつかない優良な「プライムローン」さえも、「住宅価格の上昇」のみが唯一最大の「買い」要因であるには違いない。ここも不安を広げる理由となる。

別の例えをしよう。筆者の手元にいくつかの菓子がある。パン菓子の原材料名には「小麦粉、マーガリン、砂糖、卵、全粉乳、パン酵母、食塩、脱脂粉乳、植物油脂……」などがある。花林糖(かりんとう)菓子には「小麦粉、米油、黒砂糖、牛乳、砂糖、水あめ」と書いてあった。パン菓子とかりんとう菓子と商品は違うのに小麦粉と砂糖は共通。この菓子を「金融商品」へ、小麦粉と砂糖を「サブプライムローン」へ置き換えればわかってもらえようか。前回示した「ニュースな言葉」にも、「消費者ローン債権や自動車ローン債権などを加えた証券を合成」とあった。しかも金融商品の多くは菓子のような原材料名表示をしていない。したがって何の商品も不安となる。

「金融商品」など買っていないから大丈夫、とはいかない。ローン会社はその資金の多くを金融機関(銀行など)から借りている。逆に金融機関がサブプラ関連商品を買って運用している場合もある。そうなるとサブプラ危機は銀行の経営をも直撃する。現に、アメリカを代表する大銀行がサブプラ関連で巨額の損失を出しているのだ。

銀行は経済の血液ともいえる金融の役割を担う。そこが不安になると次のような問題が発生する。

①.銀行同士が疑心暗鬼になる。

つまり他行はサブプラ商品にからんだ損失を抱えて、実は経営危機ではないかと。そこでコール市場が凍りつく。

コールとは銀行間の貸し借りを行う市場だ。銀行は預かったカネを貸し出しに回す(つまり出かけてしまう)のが大きな仕事だから、ある一瞬に大口または多くの預金者が、それぞれの都合で引き出そうとした際に、持ち金がないという事態は常に起こりうる。それはお互いさまなので、コール市場で融通し合って円滑に引き出しできるよう調整する。

ところが他行への疑心暗鬼が募ると、以上のような正常の理由ではなく、サブプラがらみの穴埋めでコールからカネを調達しようとしているのではないかと心配になる。それに応じたら貸した銀行もやばくなるので、コールでの金回りがすごく悪くなる。すると今度は、正常な理由でコールを利用しようとした銀行もやばくなる。現在、欧米の中央銀行(日本ならば日本銀行)がコール市場へ大量の資金供給を行っているのは、こうしたクラッシュを防ぐためだ

②.コール市場への不安や、ずばりサブプラがらみの損失を実は抱えている金融機関は、資金調達が苦しくなったり、経営自体が危ないので貸し出し、つまり出かけるカネを抑制して身を守ろうとする。

それは住宅とまったく関係ない企業への融資にも二の足を踏み始めるという意味とほぼ同じだ。となるとその「まったく関係ない企業」の経営が脅かされる。

今のところはこの辺まで。しかしこうした金融不安が続くと

③.②の影響で融資を受けられない企業がばたばた倒産する

④.損失に耐えられなくなった金融機関もばたばた倒産する

⑤.そんな金融機関ではないかと疑い出した預金者がつぶれる前に何とかしようと預金を引き出そうと銀行へ殺到する=取り付け騒ぎ

といった事態への発展が考えられる。歴史上「恐慌」と呼ばれる現象だ。こうしてみると「リスクの分散自体がリスク」だったとわかる

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著者紹介

【坂東太郎】

毎日新聞記者などを経て現在、早稲田塾論文科講師。 現在、日本ニュース時事能力検定協会監事を務める。 著書に『マスコミの秘密』『時事問題の裏技』『ニュースの歴史学』など。 早稲田塾の「AO・推薦対策講座」および「論文作法」を担当。

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