年越し派遣村と2009年問題
「派遣切り」や「雇い止め」で職と住まいを失った人たちの生活相談に乗ったり、住居をあっせんしたりする「年越し派遣村」が(12月)31日、東京・千代田区の日比谷公園で開村し、140人以上が訪れた(読売新聞電子版2009年1月1日00時41分)
「派遣村」というので派遣社員だけかというとそうでもない。「雇い止め」には契約社員も関係する。そこで今回は雇用形態の違いから問題点を探ってみたい。
1)正社員と非正社員
まず大ざっぱに正社員(正規雇用者)と非正社員(非正規雇用者)の違いから。労働契約法という法律は、第四章で「期間の定めのある労働契約」を認めている。厚生労働省の定義では「有期労働契約」ともいう。つまり「いつからいつまで雇います」と期限が有る(だから有期)契約での労働者だ。これが非正社員(非正規雇用者)である。
逆にいうと、正社員(正規雇用者)とは「期間の定めの」ない「労働契約」を会社と結んでいる社員ということになる。したがって正社員は労働契約法16条の定めにより、「客観的に合理的な理由」「社会通念上相当であると認めらる場合」でないと解雇(クビ)されない。「客観的に合理的な理由」とは会社がつぶれてしまったなど、「社会通念上相当である」とは罪を犯して懲役刑が確定したなどである。
ではこの労働契約法16条は非正社員にも適用されるかというと、される。したがって「有期」の期間内であるにもかかわらず、「合理的な理由」も「社会通念上相当」でもなく解雇してはならない。同法は17条でも「期間の定めのある労働契約」者(有期労働契約)は「やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない」と定める。
では「有期」が切れたらどうなるか。すなわち「08年12月31日まで」を満了した後に、改めて有期労働契約を社員が望んだ場合に会社は断れるのか。これを断ったのが、俗に「雇い止め」と呼ばれている。
この点について厚生労働省は告示第357号「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」(http://www.mhlw.go.jp/shingi/2005/07/s0712-4i.html)を掲げている。更新を期待している者にその日がやってくるまで何も告げず「ハイさようなら」とはいかない。この点については08年12月25日の東京地裁判決(http://mainichi.jp/select/jiken/news/20081226k0000e040010000c.html)が参考になるだろう。
2)派遣社員と契約社員
どちらも非正社員であり有期労働契約である場合が多い。大きな違いは
派遣社員は間接雇用
契約社員は直接雇用
にある。
直接雇用とは、労働者が働いている会社と直接労働契約を結んでいるさまをいう。学生などのアルバイトや主婦などのパートは時給での支払いが慣習的に多く、「パート」の名の通りフルタイムの労働形態が少ないが、その点を除けば労働契約上は直接雇用である場合が目立つ。労働基準法14条は契約期間について原則3年(例外的に5年)を超える期間を「締結してはならない」とするので、その範囲内で「有期」が決められる。
間接雇用とは、労働者が働いている会社と直接労働契約を結んでいないさまをいう。ではどこが雇っているかというと、「労働者派遣事業主」(派遣会社)である。
青果店(八百屋さん)は野菜などを売るのを事業の目的とする。鮮魚店(魚屋さん)は魚などを売るのを事業の目的とする。それと同じように、派遣会社は別の会社(派遣先)と約束して自身が雇用した労働者をその会社へ派遣して、その会社の指揮命令の元で働いてもらうのを事業の目的とする(労働者派遣法2条)。こうした雇用形態は不安定として長らく禁じられてきたが、1986年に非常に限られた職種のみ解禁する労働者派遣法が施行された。
それが2003年制定、04年施行の改正同法で製造業まで派遣対象が広がり、さらに07年3月1日から、それまでの1年から3年まで「有期」を延ばせると決まった。製造業は派遣社員のニーズが多いので、「原則解禁」と評価された法改正だった。
3)2009年問題
というわけで、派遣社員は07年3月1日を基点に最長3年の契約期間を得た。単純に計算すると10年3月までとなる。しかし、この変更に先立つ06年に「偽装請負」問題が相次いで発覚したため、多くの会社が法改正を見越して、1年前(06年)から請負をいっせいに派遣へ切り替えた。
請負というのも労働形態の一種である。民法632条に規定があり、働く側が「ある仕事を完成することを」約束する代わりに、頼む(お金を出す)側が「その仕事の結果に対してその報酬を支払う」。
大工さんにあなたが家の修理を頼むという場面を想定しよう。これが請負である。仕事の最中に大工さんがけがをしても、原則としてあなたに責任がない代わりに、大工さんの仕事にいちいち注文(指揮命令)できない。約束した期間内に約束通りの仕事をしてもらえばいいだけだから。
ところが「偽装請負」の場合は、請負を装って「あなたに責任がない」メリットだけは受けながら、「いちいち注文(指揮命令)」していたので問題となった。そこで指揮命令が可能な派遣社員へと切り替えたのだ。06年から数えると3年目の今年、大量に「有期」の期限切れが来る。ただそれだけではなく、08年に世を覆った世界的な経済不安によって、著しい経営不振などの「合理的な理由」を抱えた会社が、一斉に契約延長を拒む危険性がある。これが2009年問題だ。最悪の場合は多くの失業者を生む。
もう1つ「3年」にはハードルがある。労働者派遣法40条の5に「3年が経過した日以後労働者を雇い入れようとするときは」その労働者に対し「雇用契約の申込みをしなければならない」とある。つまり直接雇用を打診しなければならないのだ。
こうしたさまざまな問題は、経済不安が起きてから明らかになったわけではない。03年に改正労働者派遣法が制定された時点ですでに指摘されていた。毎日新聞03年5月21日社説「派遣法改正 製造業解禁は慎重にすすめよ」に次のような記述がある。
法改正で新たに数十万人の派遣労働者が増えると想定されている。低賃金で短期契約を繰り返す不安定な働き方が広がることを危惧(きぐ)する。(中略)派遣労働は「臨時的・一時的な労働力の需給調整」と規定されており、今回もその位置づけは変えない、というのが厚生労働省の方針だ。
上限3年が「臨時的・一時的」といえるか。これには疑問が残る。そこで、改正案は(中略)3年を超える場合、事業主には派遣社員に対し雇用契約の申し込みを義務付けている。 しかし、この歯止め措置では不十分だ。(中略)派遣期間が延長され、3年近くも働いて正社員になれないとなれば、派遣社員のリスクは大きい。(中略)
派遣法は使用者責任が派遣元と派遣先企業に分離されており、ここからさまざまな矛盾が生じている。製造現場への導入にあたっては、予測される具体的な問題点をすべて明らかにし、対応策をきちんと決めることが先決だ。安易に製造業への派遣解禁を行うべきではない。(中略)現場では、相変わらず解雇や中途解約、長時間・低賃金などの労働相談が後を絶たない。(後略)
先進国と称しておきながら、年越しのお金も場所もない人々が「年越し派遣村」に集わなくてはならない、という現実に目をそらしてはならない。









