バンクーバー五輪の日本勢はどうなるのか
06年、トリノで開かれた冬季オリンピックで、日本勢の金メダルは結局、女子フィギュアスケートの荒川静香選手の1つに終わった。残りの競技では、銀はおろか銅にも届かなかったので、「メダルゼロ」で終わってもおかしくはなかった。
さてこの結果を「不振」と名付けていいのか。過去の冬季五輪の実績から「実は日本の実力はまあこんなものか」と、憤慨するまでもないという見方も可能だ。
そもそも温帯モンスーン地帯に位置する日本列島で、冬季五輪の種目を年中氷上や雪上で練習するのは難しい。冬季五輪の結果をみても、1924年の第1回大会から6回まで銅メダル1つさえ獲得していない。56年のイタリア・コルティナダンペッツォでの大会で、猪谷千春がスキーの男子回転で銀メダルを取ったのが初メダルだった。猪谷は国民的ヒーローとなったが、裏返せばそれだけ「ありえない」受賞だったのだ。
案の定それから3大会連続してメダルゼロ。72年の札幌五輪で、金1銀1銅1の快挙を達成したものの、この3個はスキーの70メートル級ジャンプ(現在のノーマルヒルの原型)で、日本の3選手が金銀銅を独占したから。他の競技ではメダルに届かなかった。
主催地が札幌、すなわち「ホーム」だったのも勘案しなければなるまい。スポーツの世界で常にささやかれている「ホームタウンデシジョン」(hometown decision)の存在があるからだ。元はプロボクシングで生まれた言葉で、審判が開催地をホームとする選手ないしはチームに有利な判定をする、という意味である。理由はホームの観覧者の圧倒的多数がそれを望んでいるからとされる。
この真偽はまだ証明されていないし、札幌の成果は純粋に「より遠く」が評価されているので、審判云々は関係なさそうだが、地元開催という「ホーム」が心理面で有利に働いた可能性をないとはいいにくい。
それを証明するように札幌以後の4大会のメダル数は0・1・1・1となっている。
「ホーム」でもないのにメダル数が一躍アップして注目されたのが、92年のアルベールビル(フランス)大会で、日本は金1銀2銅4の計7つを獲得した。金はスキーのノルディック複合団体。銀と銅の4つがスピードスケート。スピードスケートは、日本的精巧さとでもいえる職人芸でタイム差を詰めていく作業が、この頃身を結んだとされている。
次大会のリレハンメルは異例の2年後開催だった。そのためにアルベールビルのメダル勢も多く活躍できて、総メダル数は5。うちノルディック複合団体は2大会連続の金メダルを獲得した。
その次が「ホーム」の長野五輪で、メダル数は10と跳ね上がる。ホームの優位さに加えてリレハンメルから活躍し始めたスキーのジャンプの勢いも後押しした。
アルベールビル、リレハンメル、長野だけが日本の冬季五輪の歴史上5つ以上のメダルを取った例外的な時期である。ところが3大会連続となると、それまで「猪谷千春の銀」だけで満足していたはずの日本人も「もっともっと」と期待はふくらむ。
だがトリノの前大会であるソルトレークシティ(アメリカ)は銀1・銅1と元の水準に戻ってしまった。そしてトリノの「金1」。結果だけ比較すれば実力相応に戻っただけで、「銀1・銅1」よりも金メダルが取れたトリノの方がよかったとも解釈可能である。
しかし、人はしばしば不振時を忘れて、栄光だけを覚えている。だからトリノ大会を「不振」とみなしてしまうのかもしれない。でも本来の成績はそんなものともいえる。バンクーバー五輪も、いたずらに日本人のメダルを期待するような楽しみ方をすると、案外と落胆する結果となりそうだ。
アルベールビルから長野までの日本勢の活躍を、まったく正反対の目で見ている者もいた。冬季五輪の本家ヨーロッパ勢である。この頃の日本のメダルは
・ノルディック複合(スケート)
・ジャンプ(スキー)
・スピードスケート
に多く見られたので、ノルディック複合とジャンプはルールを日本不利に変えてしまった。
ノルディック複合に関して国際スキー連盟は、2000年にルール改正した。これにより、前半のジャンプでポイントを稼いで後半の距離を逃げ切る、という日本の勝ちパターンが通用しにくくなった。スポーツニッポン06年2月9日の記事によると、これまではジャンプの10ポイントが距離の1分とされていたが、ルール変更により15ポイント=1分。1点で6秒の差が、4秒の差となった。
ジャンプのルール改正は長野五輪の後の1998年にあった。これまで選手が使えるスキー板は「身長プラス80cm」だったが、原則「身長の146%」としたのだ。「ずんぐりむっくり」型は不利で「スラッとやせている」選手には有利となる。日本人が主に前者に属するのは自明であろう。
この点を突いて人種差別的と批判する声がある。そもそもノルディックとは「北の北方人種」を指す言葉でもあるから。考えるべき課題だ。
だがオリンピックに収束されている「近代スポーツ」とは、そもそも近代に主に英米で生まれたスポーツを指すので、「本家」が物申したい思いも多少は理解する必要があろう。日本発祥の五輪種目である柔道で、外国人が勝ち続けると日本人ならば誰しも「ちょっと待てよ」と考え出すのと同じように。
なおスピードスケートに関しては日本は職人芸で0.01秒を削るような工夫をしてきたが欧州勢はそれを科学的分析で克服して身につけていった。









