人民元改革1
人民元改革とは、具体的には中国の通貨である元の切り上げ、または変動相場制への移行を求める動きである。
中国税関総署が発表した09年の貿易黒字は約1960億ドル。1000億ドルを超えて過去最高の2倍以上を記録した05年の水準から、さらに倍加している。この間に「リーマンショック」など世界的な経済停滞があったにもかかわらずだ。国別では対米が大きい。ということは、米国市場で中国商品が多く売られている(だから黒字)となる。米国は自由貿易主義なのでそれ自体は認めるとしても、不公正な背景があるのを嫌う。
ある国・地域の通貨と他との強弱は1973年以降、変動相場制によって市場が刻々と数値を決めてきた。大黒字国の通貨は「価値あり」と買われるから上昇する。それでももうけが続けばさらに上がる。結果的に天井まで来ると、「いい品だけど高すぎる」と商品が売れなくなるから通貨も下落する。下落が底をつくと「その品でその値段は安いね」と変化するまでになるから、再び通貨価値も上昇する。もっとも楽観的に変動相場制のメカニズムを信じればそうなる。
人民元の価値が「買われるから上昇」にあるのは疑いない。ところが変動相場制といいがたい制度をとっているため(次週に説明)、人民元は上昇しない。すると他の国・地域の通貨とは相対的に「元安」の状態となり、「安いものは売れる」という不滅の経済原則で勝ち進む。最初から皆より有利なルールでプレーする選手にはブーイングが飛ぶ。
それに応えるように、中国は05年7月に元を2%切り上げると発表した。「切り上げ」「切り下げ」とは自国の貨幣価値に強い影響力を持つ政府や中央銀行が、対外通貨との交換レートを変える行為を指す。1ドルは8.27元から8.11元となった。
同時にいわゆる「人民元改革」に踏み切った。具体的には、元をドルやユーロ、円など複数の通貨を一定比率で自国通貨に連動させる「通貨バスケット」を参考に、毎日の基準値を示して調整する方式に変えると発表した。ただ為替変動幅を前日終値から上下0.3%以内しか認めない点は変わらず、バスケットに入れる通貨の種類や割合、基準値の決め方も非公表だ。「変動相場制へ移行」してとまでは言い切れない。
しかもリーマンショックのあった08年7月には、元をドルと連動させる「ドル・ペッグ」へ移行させた。1ドル=6.83元前後に固定してしまったのだ。
こうした経緯や貿易の対中赤字が増加する傾向のある米国などの先進国は、何度も警戒感を表明した。06年9月、シンガポールで開催された先進7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)は、中国に人民元改革の一層の促進を求めた共同声明を採択した。
こうした傾向は今のところ変わらない。10年には米国が中国を「為替操作国」に認定しようとの動きをみせた。元高容認ないしは要望の背景に米国の要望があるのは明らかだ。元安状態は中国に「輸出に有利で輸入に不利」、最大の貿易相手国米国にとって「輸出に不利で輸入に有利」と作用する。米国からすれば、中国から安い品が流れ込んで国内生産者が困る一方で、輸出業者は対中国の取引でコストがかさむ。何とかしてくれというわけだ。
それに対して中国側は、米国の姿勢に屈した形での元切り上げは避けたい。とはいえ中国からみれば、米国は「輸出に有利」すなわちお客様である。「お客様(米国)は神様」なのは万国共通。その要望は、多少は聞こうという方向にある。
06年3月、国会に当たる全国人民代表大会(全人代)閉幕後に開かれた記者会見で、温家宝首相は「05年7月の人民元改革実施以来、人民元は対ドルで3%近く上昇した。(今後は)一度に人民元を切り上げたり、切り下げたりさせない」と釘をさす一方で、5月には唯一の発券銀行である中国人民銀行が1ドル=7元台(7.9982)を認めたと発表、9月には初の7.8元台まで上昇した。約1年で合計して5%近い切り上げと同様の状態になった。さらに為替変動幅を前日終値から上下0.3%から0.5%に拡大して6元台に至る。10年6月には人民元相場の弾力化が決定された。
これとは別に中国の国内問題として、一定の元高は悪くないとの意見も内外に存在する。中国人民銀行が対ドルに関して元高を防ごうと考えれば、元を売ってドルを買うしかない。その結果、国内にドル(外貨)がたまり、発券銀行の元売りは印刷するのと同じような意味だから流通する人民元は増える。流通通貨が増せば相対的に物価高になりかねない。しかも国内には元安を背景に貿易でもうけた大金持ちが消費するから、下手をするとバブルが発生する。
06年9月、中国共産党は上海市トップの陳良宇・市党委員会書記を、「重大な規律違反」があったとして解任した。上海では不動産(土地やマンション)の値段が急上昇する「不動産バブル」状態とみられ、こうした過熱が党幹部や公務員の汚職・腐敗に結びつきやすいとの指摘がかねがねあり、汚職・腐敗問題は近年の全人代でも大きなテーマとなっている。









