原油価格の推移
エジプトなど、中東・北アフリカで相次いで民主化デモが起きている。その波が同地域周辺のサウジアラビアなど大きな石油輸出国に及ぶと、将来はともかく一時的には原油の安定供給が脅かされる恐れがあるとして、原油価格が一時高騰するなど不安定な状況になっている。
ところで原油価格を示すニュースには次のような記載をよく目にする。
28日のニューヨーク・マーカンタイル取引所の原油先物相場は、指標の米国産標準油種(WTI)の3月渡しが一時、前日終値比4.09ドル高の1バレル=89.73ドルと、90ドルの大台寸前まで急騰した。終値は3.70ドル高の89.34ドルだった。反政府デモの激化を受け、投資家の間では「エジプト政府がスエズ運河を閉鎖すれば、原油輸出が滞る」との観測も広がった。(毎日新聞2011年1月29日)
この形式が意外とわからないのだ。
まず「原油」である。油田から採れたままの天然状態の石油をさす言葉で、それ自体は粘っこい暗褐色の液体鉱物だ。それを設備で精製(品質改良)して重油(ボイラーなどで使用)、軽油(ディーゼルエンジンなど)、ガソリン、灯油(石油ストーブなど)、ナフサ(プラスチックなどの原料)となる。
次に「ニューヨーク・マーカンタイル取引所」。原油などの商品取引を行う代表的な市場(いちば)である。主に扱うのは「WTI」(ウエスト・テキサス・インターミディエイト)という、米国テキサス州西部などで産出される良質(つまり精製しやすい)超軽質原油である。
一日当たりの実際の原油供給量は世界で約8000万バレルから1億バレル。「WTI」は約数十万バレル。つまり量では100分の1程度と話にならないのだが、先物での取引は2・3億バレルもある。
なお「バレル」とは約159リットル。お茶などの大きなペットボトルは1本2リットルなので、それが約80本分。1バレル=70ドルを2リットルのペットボトルでイメージすると1本101円。原油高といっても実はお茶のペットボトルよりも安い。ちなみにこの比較は原油が鉱物(原則固体)であるのを承知の上で、わかりやすくするためあえて行っている。
話を戻そう。100分の1の実物しか用意できない市場で、必要量の2~3倍が売買されている。ほしい商品をスーパーで買う感覚ではありえない。両者をあえて比較すれば、商品があっと言う間に売り切れるスーパーの棚をめがけて、必要量の何倍もの買い物をしたい客が群がるとの構図となる。日常生活ではイメージしにくいからわかりにくいのだ。
ポイントは2つ。一つは「WTI」が「先物相場」との点。具体的には「翌月渡し」が多い。つまり4月に予約した金額で5月に買うというわけだ。
株式市場などでは「将来値下がりする商品を高い値段で売っておく」が、先物市場では「将来値上がりする商品を安い値段で買う約束をしておく」。4月が70ドルで5月が80ドルになりそうだと参加者が考えれば、4月に75ドルで買い予約を入れておいても5月には5ドルもうかるのが先物である。したがって1か月「先」に「物」=「原油」が上がるとの推測があれば、市場価格も上昇していく。
もう1つはマーカンタイル取引所が原油そのものではなく先物を、つまり予約権の売買をしているという点だ。つまり「翌月渡し」の期日が来たら、約束のドル紙幣を窓口に払ってバケツに入れてもらった原油を持って帰る……という世界は存在しない。だから数十万バレルの原油に3億バレル分もの金が流れ込んできても売買が成立する。売る人分の買う人、買う人分の売る人がいて金が回ればいいのだ。
したがって「数十万バレルに3億バレル」は一見おかしな図に映って、その実はゆえに原油をバケツに入れてもらわないと安心できないという参加者を生まずに済んでいる。この部分だけとらえれば原油をダシにした壮大なマネーゲームである。
では無意味かというとそうでもない。ダシとはいえ主役は原油である。市場参加者は多いほど客観性の高い数字になる。参加者が少ないと1人の大金持ちの気まぐれ売買で価格が乱高下してしまうからだ。世界の供給量をも上回る金額を示す参加者がいたら、そうはならない。だからWTIは「指標」「標準」になりえるのだ。
WTIは「良質」である。世界にはこれに似た品質の北海ブレント原油を扱う欧州原油市場(ロンドン市場)と、ドバイ原油などを扱うアジア向け中東産原油と合わせて原油市況の動きを示す世界3大指標原油と呼ばれる。北海ブレントは、ニューヨーク市場の原油価格(「ニューヨーク・マーカンタイル取引所の原油先物相場」の略)と連動しやすい。
日本に大きな影響を与えるのは中東産原油である。世界の供給量の約4割を占め、日本の当地での原油依存度は経済産業省の調査によると9割を超える。中東の石油は産油国が集まったOPEC(石油輸出国機構)の原油生産枠がどう変わるかが大きな要因になる。
OPEC加盟国12カ国のうち、アラブ首長国連邦、イラク、イラン、カタール、クウェート、サウジアラビアの6カ国が中東地域にあるか隣接しており、アルジェリアとリビアは地域こそアフリカだが主要民族は中東と同じアラブ人である。他にインドネシア(東南アジア)、ナイジェリア(アフリカ)、ベネズエラ(南米)が参加し、07年からはアンゴラ(アフリカ)も加入した。なお近年イラクは戦争や国内の混乱で生産枠の協議に加わっていなかった。
中東産原油は一般にWTIよりは精製に手間がかかる油質である。その価格は、石油専門情報会社のプラッツ社が、アラブ首長国連邦(UAE)産ドバイ原油とオマーン原油の価格を石油関係者などから取材して毎日発表する価格に大きく影響される。ではプラッツの情報源は何を参考にしているか推測するに、やはりWTIの動向だろう。というわけでWTIはどうしたって原油価格の国際指標になってしまう。









