主婦年金を巡る迷走
年金制度はわかりにくい。わざとわかりにくく制度設計しているのではないかと邪推したいほどだ。主婦年金の問題も、こうした「わかりにくさ」から発生していると思われる。
一般に主婦年金と呼ばれるのは、専業主婦(年間130万円以下の収入を得ている者を含む)の年金で、夫が会社員または公務員の場合に保険料を支払わなくても基礎年金に加入していると見なされる仕組み。
基礎年金とは、年金制度の「1階部分」と呼ばれる。会社員や公務員(第2号被保険者)はお給料から自動的に天引きされて支払っている(労使折半)。それ以外の自営業者やその配偶者、フリーターなどの第1号被保険者は、月約15000円を支払う。25年以上続けて年金の受給資格が発生し、40年で満額の月約6万5千円が受け取れる。つまり専業主婦(第3号被保険者)は、自営業者などが支払っている月約15000円を免除されて同等の基礎年金がもらえる。
ということは、夫と離婚したり夫が脱サラして事業を始めたり、死亡したり、会社や役所をクビになった場合は、妻も第3号被保険者にはなり得なくなる。さすがに夫が亡くなったり離婚した場合は「年金はどうなるのだろう」と考えよう。しかし夫が自営業へ転じたり定年となったり、会社に保険加入義務のない、正社員の4分の3未満の勤務時間である非正規雇用になった場合は、夫が働きにいくとか収入があるといった点で変化にあまり気づかず、「第3号」のままのつもりになっている人も多くいる。つまり現行制度で40年満額を主に専業主婦として得ようとすると、大卒の場合、1つのケースとして
・20~22歳……「第1号」として保険料を支払う(3年)
・23~27歳……会社で働いたので「第2号」(5年)
・28~60歳……同い年の男性と結婚。夫は定年(60歳)まで会社か役所で働き続ける(32年)
で満額となる。
終身雇用の頃ならばともかく、成果主義の時代にこれほど楽観的な見通しを立てられる人がどれほどいようか。夫側に継続して1つの会社へ務める意思があっても、倒産したりリストラされたらどうにもならない。年齢が離れた夫の場合だと、定年後は「3号」から「1号」へ切り替える必要が専業主婦にもあるが、現在の年金世代は「2号」だとそこそこ暮らせるだけの支給があるため、必然性を感じない可能性もある。
会社をリストラされてすぐに別の会社に転職できるケースはまれである。少なくとも2・3ヶ月は雇用保険(失業保険)で食いつないで次を探す。その時にも「3号」は「1号」へ切り替える必要がある……という事実がどれだけ周知されているか。
そんなこんなで変更をしていなかったり忘れていた結果、40年の満額が満たせなかったり、25年さえ届かず無年金になる専業主婦が100万件以上あるとわかった。そこで政府はいったん、こうした届け出忘れのケースでは直近の2年分を払えば、それ以前の未納分を「払ったとみなす」という「運用3号」と称した救済策を2009年に講じた。未納の実態を把握しながら切り替えを促さずに、届け出主義で放置していた旧社会保険庁に責任があるとの立場からの措置とみられる。
これに多くの人が反対した。同じような境遇にあった専業主婦でも、制度を確認してきちんと対応してきた人に対して不公平との反論がまずある。また専業主婦に限らず、年金を正しく納めているあらゆる層と比較して優遇が過ぎるとの意見もあった。よく勘違いされる点として専業主婦の年金負担は夫が負っている……がある。制度上はそうでない。夫婦で夫だけの給与で暮らしている場合、夫は妻帯であっても離婚しても支払う社会保険料は同額だからだ。むろん独身でもだ。130万円以上の年収を得ている専業主婦は「3号」でいられなくなる。独身女性は最初から「1号」か「2号」で保険料を払っている。
それが「運用3号」ではあまりに不公平との反発を受けた政府は「運用3号」を廃止し、法改正による救済へ切り替えた。当初案では未納分を過去にさかのぼって無制限に認めることで救済をはかろうとしたものの、同じく「それでも不公平」との声があがり、また月約15000円×12ヶ月=約18万円を無制限に一挙に支払うのができるのは相当に富裕な者しかできそうもなく、そうした人に限って月約6万5千円の基礎年金はあまり重要ではないという矛盾をつく指摘も大きかった。現在は過去10年に限って認めようという折衷案が浮上している。









