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Good Professor

井本 正哉

井本 正哉 助教授
慶應義塾大学
理工学部

井本 正哉(いもと・まさや)
1980年3月、山口大学農学研究科農芸化学専攻修士課程修了。同年4月より89年3月までキリンビール株式会社に勤務。この間に、東京大学応用微生物研究所にて、農学博士号を取得。89年より慶應義塾大学に勤務し、96年同大助教授となり、現在に至る。95年度日本農芸化学奨励賞、2000年度住木・梅澤記念賞受賞。

2002年4月慶應に生命情報学科が開設

タンパク質を分離している最中に研究室にお邪魔しました。とにかく楽しそうに研究しているのが印象的。
タンパク質を分離している最中に研究室にお邪魔しました。とにかく楽しそうに研究しているのが印象的。
DNAを見ているところ
DNAを見ているところ

「自分たちの研究をハイリスク・ハイリターンと呼んでいます」と、井本正哉先生は笑う。先生のポリシーは、「人のやっている研究はしないこと」だ。 「みんなが研究を始めちゃうと、やることがなくなってくるんです」と、先生は冗談めかして話してくれたが、その方針は徹底している。

狙うは世界初。先生の視線は、世界に向かって開かれている。 そんな先生の研究テーマは、動物細胞のメカニズムの解明である。動物細胞がなぜ増殖するのか、細胞自らのプログラムに従って壊れていく自殺機構の仕組みがどうなっているのかなど、がん細胞を使って調べている。

なかでも最近力を入れているのが、増殖因子の受容体ができる仕組みだという。 「サイクロンDという遺伝子は、人のがん細胞内で大量に見つかっています。ところが、この遺伝子を正常細胞に入れてもがんになりません。 FGFという増殖因子を一緒に入れて初めてがんができるわけです。そうした仕組みを研究しています」  細胞を宝箱に例えると、少しわかりやすくなるかもしれない。サイクロンDは、まず細胞に鍵穴を作る。この鍵穴が受容体である。しかし、鍵穴だけでは箱に変化はない。

サイクロンDとFGFの関係を明らかにし、どういう仕組みで細胞が変化していくのかを解明する。これだけでも大変な研究である。しかし先生の研究は、これだけに留まらない。細胞のメカニズムを解明しつつ、そこから薬品を作ろうとしているのである。 「がん研などの病院に行くと、がんの子どもが走り回ったりしているんですね。でも数ヶ月後には、多くの子どもが亡くなってしまいます。それを見て、がんの薬を開発しなければと思いました……」

先生の思いは、製薬会社との共同研究という形で進んでいる。
FGFとFGF受容体が結合してがんが悪性化することを逆手にとり、FGFとFGF受容体が結びつかないようにする薬剤を微生物のなかから探しているという。
「微生物の何が効果があるのか全くわかりませんので、数を当たっていきます。
そのため簡単で大量に検査できる工夫をしています。たとえば検査結果が判明するのに2日かかっていたら、もっとアバウトな方法で、大まかに調べる方法がないのかを考えたりします」
先生の名前を初めて世界に広めたのは、チロシンキナーゼという酵素活性の阻害剤だった。そのとき先生は、およそ1000種もの物質を試したという。「まあ、1000個というのは、大した数じゃないんですが……」と先生は語る。

しかし、その研究が製薬会社で発展し、抗がん剤まで作られた物質を世界で初めて見つけたのである。しかし、この研究がきっかけで、多くの製薬会社が様々なチロシンキナーゼ阻害剤を開発し、その中には現在抗ガン剤として認可された物もある。目のつけ所と同じくらい、検査方法も優れていたことは間違いない。

生物研究もコンピュータ解析が主流へ

細胞を培養中。雑菌が細胞に触れないよう。ガラスで仕切られた場所に手を入れて作業する。
細胞を培養中。雑菌が細胞に触れないよう。ガラスで仕切られた場所に手を入れて作業する。

ただし細胞のメカニズムや反応を調べるための実験は、今後少し変わってくるだろうと、先生は考えている。
「現在、細胞の仕組みを調べるために、細胞内の情報伝達経路を一つずつ塞いできました。でも、それでは追いつけない時代になると思います。
時間を短縮するためにも、コンピュータでシミュレーションして解析するようになると思います」
とはいえ日本の生物学者で、情報系の専門知識を持つ人は少ない。そのため情報系と生物系の学者が共同研究をしている。
「私も共同研究をしましたが、情報系の方の言っていることがよくわかりませんでした。そのため、あるところまではお任せになり、結論だけを聞くようになってしまったのです。これでは生きた研究などできません」

こうした時代の要請に応え、慶應義塾大学理工学部は生命情報学科を来年の4月に開設する。

1年次には、物理・科学・数学を学んで基礎を固め、2年から生物系と化学系それに物理・情報系に大別される「生命情報」研究に習得できる基礎学力を養い、3年以降に徹底して生命情報の勉強をすることになる。 「生物系と情報系の融合は、アメリカでもやっと始まったばかり。つまり、次世代の生物研究の世界的なリーダーを育てたいと思っています。いずれ情報系の勉強が生物研究の一部だという時代になるでしょうから」と井本先生。  

新学科の先に先生が見ているのは、やはり世界だった。

こんな生徒に来てほしい

「失敗しても落ち込まない学生ですかね。実験は失敗の連続ですから。あと新しいことが好きな学生には、向いていると思います。学生も一旗上げたいというんですかね(笑)。一発、いいものを見つけたい、発見したいと思って研究しているみたいですよ」

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