- 斉藤 隆文 助教授
- 東京農工大学
工学部 情報コミュニケーション工学科 斉藤 隆文(さいとう・たかふみ)
1959年大阪生まれ。87年東京大学工学部博士課程修了。同年NTT研究所勤務。97年より東京農工大学工学部助教授
ベストティーチャーは人気投票ではない

- 斉藤研究室がある情報コミュニケーション工学科棟

- 研究室で学生と語る斉藤先生
東京農工大学は情報工学研究分野のパイオニア的大学として知られる。工学部に数理情報工学科が誕生したのは1976年で、その歴史は25年以上にもなる。その後、いく度かの改組をへて、現在の「情報コミュニケーション工学科」になったのが98年だ。
この学科で学ぶのはコンピュータ工学の基礎から応用までだが、これには二つの大きな特徴がある。まず、学生に実験演習の機会が多く設けられ、教員の指導が熱心できめ細いこと。
さらに、3年次からは「コンピュータ工学」と「コミュニケーション文化科学」の二つのコースからの選択制になっていて、前者は2年次までに学んだコンピュータ工学を、さらに高度に進めて原理・技術を学んでいく。後者は、情報工学と人文系知識を引き結んでコンピュータの社会的・文化的な活用を研究していくものだが、このコースはほかの大学にはない同大学だけの大きな特徴になっているのだ。
卒業後の進路は最近の理数系学生の傾向を反映して、ここでも半数以上がそのまま大学院に進む。学部卒業あるいは修士課程修了後の就職先としては、ソフトウェアサービスをはじめ、電機や通信・精密機械などの大手企業に就職する学生が多い。
さて、今回のグッド・プロフェッサーでは同学科助教授の斎藤降文先生を紹介したい。斎藤先生の専門はコンピュータ・グラフィックス(C・G)の研究である。 「この20年でC・Gは長足の進歩をとげています。しかし、制作にはまだ膨大な手間と費用がかかるのが実情です。その手間と費用を軽減化する研究。それにコンピュータ情報をC・Gで可視化する研究。これは、現代の大規模化している情報を画像でビジュアル化して検索できないかという試みです。また、これまでのC・Gはよりリアルな画像の追究が中心でしたが、逆に人間が手描きをしたような画像で表現する研究もしています」 斎藤先生は、自身の研究についてそう説明する。非常ににこやかで親しみがあり、大学の先生にありがちないかめしさを全く感じさせない人だ。
ところで、東京農工大工学部では全教員のなかから、その年度の最優秀講義賞(ベストティーチャー〉1名を選出している。これは学生の投票アンケートで各学科から一人の候補者を選出し、教員からなる教務委員の審査で決定される。そして、第2回の2001年度の受賞の栄誉に輝いたのが斎藤先生なのである。
当初、この賞を設けることで、学生による教員の人気投票になるのではないかと危倶する声もあったようだ。ところが、今年度までの3人の受賞者は、いずれも指導に熱心あるいは厳しいことで定評がある先生ばかり。携帯電話鳴りまくりで講義崩壊続出なんて噂もある一部某有名大学などと対極的な選択は、農工大に学ぶ学生たちの真撃な姿勢を証明することにもなっているように思う。
この最優秀講義賞の受賞について斎藤先生は、「学生たちが将来社会に出たときに、いかに現場で役立つことが教えられるか、その点を考えながら指導していることが評価されたのでしょうか」などと語る。
将来社会に出てから役立つことを教える――これが斎藤先生の指導理念である。そう言えるのも、先生自身が大学卒業後に民間の研究所で働いた経験があるからだろう。研究所勤務時代に感じたのは、入所試験の成績が優秀だからとか、有名大学の出身者だからといって、実務の現場では必ずしも優秀ではないという事実である。それは、いまの学生にも共通しているのではないかともいう。
工学系技術者に必要なのは知識よりセンス


- 農工大キャンパス正門から長く続くケヤキ並木
「いまの学生を見ていますと、試験問題を解くのは非常に優れています。しかし、応用問題は苦手な人が多い。とくに答えが一つでなかったりすると、途端にお手あげになったりします。でも、実社会に出て問題に対処するとき、一つの解答が用意されていることなどまずありません。問われているのは、実際の問題を解決するセンスなんですね。この学部でいえば工学的センス。それを講義や実験演習で学ばせたいと考えています」
それで、斎藤先生の具体的な指導方法だが、たとえばC・Gの演習ではコンピュータを使うより、手作業・手計算によって問題を解くことを重視しているという。
「いまは一般の方でもコンピュータを操作できる時代です。しかし、この学科で学んでいるからには、ただコンピュータが操作できるだけは困ります。やはり、その成り立ちの原理から知っておくことが必要です。ですから、演習ではコンピュータをあえて使わないで、手作業でプログラムを組ませて、それである程度の結果が予想できるようにさせています」
また、2年生を対象にした数学演習Ⅱの講義では、わざとあいまいな問題を出して学生に解かせることもさせているそうだ。 「現実のなかの数学的事例から、あいまいなものを問題にして出題しています。そういう問題は公式を当てはめても解けません。正解も一つでなかったり、およそ大雑把な答えだったりします。こういう問題を解く訓練をされていない学生の大半は戸惑ってしまいます。しかし、技術者になるには、そうした問題を解くセンスを磨くことが必要なんですよ」
「学習のための学習」ではない講義を心がけているとのこと。こうしたユニークな講義内容と熱心な指導が相まって最優秀講義賞受賞につながったのだろう。こういう先生のもとで学べば、単なる知識以上に実りある大きなものが得られそうではないか。
最後に、厳しい指導という学生からの評判について斎藤先生はどう考えているか聞いてみた。 「どうしても自分の学生時代のことを振り返ってしまうので、学生にだけ厳しくあたることはしてないつもりなんですけどね」と笑った。本当は、穏やかでやさしい先生なのである。
こんな生徒に来てほしい
自分から新しい面白いことを考えられる人ですね。ただ単に人の真似をするとか、本に書いてあることをやるだけではなくて、自分で考えた新しいことに挑戦しようという人に来てほしいです。

