- 熊本 一規 教授
- 明治学院大学
国際学部 熊本 一規(くまもと・かずき)
1949年生まれ。東京大学工学部都市工学科・同大学院卒。81~85年、横浜国立大学経済学部非常勤講師。86年カナダ・ヨーク大学研究員をへて現職。専門は環境政策・環境経済
日本の廃棄物問題はなぜ解決しない

- 研究室にて
物事の見方の角度を少し変えるだけで、180度違って見えることがある。明治学院大学国際学部の熊本一規教授は、社会の仕組みを常識とは違う角度から見て、社会の裏に潜む真実を探す醍醐味を感じさせてくれる。明学の名物先生のあざやかでユニークな論理展開は実に目からうろこである。
テレビのCMで「地球にやさしい」「環境にやさしい」が売り文句の商品があふれるようになった昨今、日本も循環型社会に近づきつつあるように一見思える。しかし一方で、家庭ごみや産業廃棄物の大規模な不法投棄が大問題になり、毎日のようにニュースになるのも現実だ。この矛盾はどこから生じているのだろうか。
「日本はごみを減らすために循環型社会をつくろうとしているのではなく、新しくリサイクル産業を興すためにリサイクルを進めているんですよ。だから、ごみは減るどころか増える一方です。大量にごみを出させて、それを原料にして産業を興しましょうということなんですから」と熊本先生は苦々しく話す。
循環型社会が完全に実行されつつある西欧諸国とは異なる致命的な欠陥が日本のリサイクルシステムにはあると言う。
ごみ排出にお金をとらないのが原則

- 毎年、ゼミ生全員でタイに3週間程度のゼミ合宿を行う。タイの学生が同人数加わり、テーマ別に研究する。北タイのナムラッド村にて。
「ずばり、処理費の出どころが問題なんです。ヨーロッパでは、処理費の負担は生産者である企業です。すると、生産者は価格の中にリサイクル処理費を上乗せする。価格が高くなれば消費者の需要が減りますから、なるべく処理費のかさむものは生産しない。しかし、わが日本ではリサイクル処理費の99%が税金負担です。そうすると企業は公的な税金でまかなってもらっているから、処理費がかさむ製品でも知らん顔して生産費が安いものをどんどん生産する。生産費が安いということは価格が安いということだから、消費者もそれを好んでどんどん消費する。するとますます処理費がかさみ、消費者が納めた税金が使われる。このようなとても不合理な仕組みになっているんですよ」
なるほど、リサイクル後進国・ニッポンの実態に唸らされる指摘であるが、リサイクル処理費の大半が税金負担だということの不平等さにはまだ大きな問題がある。
「たとえば、燃やすとダイオキシンの出る塩化ビニールは公害防止対策処理をしなければならないので大変処理費がかかるのですが、塩化ビニールの製品を環境のために買わないよう心がけている人がいるとしますね。しかしその人がたとえ塩化ビニールの製品を買わなくても、その人が排出する塩化ビニールの処理でなかったにせよ、すべて税金でまかなわれるということは、間接的にその人も無用な処理費を負担することになります。たいへん不公平な話ですよね。
ところが、企業負担にして、あらかじめ製品にリサイクル処理費分を上乗せしてあれば、塩化ビニールの製品を買う無思慮な消費者だけが処理費を負担することになり、環境のことを考えて買い控えた消費者は無用な費用を負担しなくてもよいということになるのです。つまり、ヨーロッパをはじめリサイクル先進国の消費者は選択する権利があるんです」
性善説・家電リサイクル法の無策
熊本先生が暴く廃棄物リサイクルに関する日本社会の不条理はこれにとどまらない。 「不法投棄が急増している背景には、家電リサイクル法の施行があります。リサイクルを目的とした法律によって不法投棄が増加するというのは何とも皮肉なものですが、これもシステムに問題があります。家電リサイクル法によって排出するときに消費者が費用を負担することになってしまいました。そもそも、ごみというのは排出するのにお金をとっちゃダメなんですよ」
なぜごみ排出にお金を取ってはいけないのかという点については、しばしば同じ研究者からも「電気や水道だって料金をとるじゃないか」と反撃されることがある。しかし、熊本先生はこれらの俗論をこのように批判する。
「水や電気ならば、お金を払う人のところにモノが来ますが、ごみについてだけモノを出す人がお金を払うことになっているんですね。水や電気を不法投棄しようと思いますか? しかし、ごみは投棄すればするほど得をする。だから無くならないんです。皆がみんな不法投棄をするわけではありませんが、不法投棄をする人の気持ちは理解できるでしょ。私が言いたいのは、モラルに頼るような社会のシステムをつくってはダメだということです。モラルの無い人でも巻き込まれるようなシステムにしなくてはいけないのです」 行政に確認したところ、八王子市では不法投棄の数は家電リサイクル法施行後100倍になったというから笑えない。その点、リサイクル先進国では生産者負担の原則で不要になった家電はすべて企業が無料で引き取ってくれる。
このままでは日本がごみに埋もれて住めなくなるのではという危惧と、もっと日本を住みやすい国にしたいという信念が、今日も熊本先生を突き動かしている。
こんな生徒に来てほしい
これまで私は好きなことだけをして生きてきました。だからこそ風当たりも強かったり、それなりの苦労はありました。それでもやっぱり、学生には好きなことに集中して自分を成長させて欲しいと思いますね。私の在学中、学部的にも都市開発推進派が主流だったのですが、公害問題に取り組もうとしているいわば異端の私に「お前のやっていることを止めたら、お前でなくなるから、やれ」と指導教官が言ってくれた。いま、同じことをみなさんに言いたいですね


投稿されたご意見・ご感想(1件)
gorgui さんのコメント
熊本教授は、「ゴミ」は「ごみ」と表記していたと思いますが。いかがでしょうかね。
同時に、漁業権(入会権的権利)にも精通しており、池田恒男教授同様に漁業権の権威でもあります。
投稿者: gorgui | 2006年02月25日 12:56