- 松原 康雄 教授
- 明治学院大学
社会学部 社会福祉学科 松原 康雄(まつばら・やすお)
1951年東京生まれ。75年日本社会事業大学卒業。80年明治学院大学大学院博士課程(社会福祉)修了。79年同大学社会福祉学科助手。93年より現職。主な著作に 「児童虐待――その援助と法制度」(共著・エディケーション社)、「社会福祉士養成テキストブック8 児童福祉論」(共著・ミネルヴァ書房)などがある
福祉研究を通して自己実現をめざす

- ゼミの学生たちと懇談中の松原先生
明治学院大学は、キリスト教による人間教育を建学の精神にして、創設からすでに1世紀半の歴史を刻んでいる大学である。同大学に社会福祉学科が誕生したのは戦前の1928年で、これも日本の大学の福祉系学科としては最も古い開設だといわれる。 その長い伝統に培われた社会福祉学科の特徴について、同学科教授の松原康雄先生はこう語る。
「まず、実践を大切にしていることですね。机上の勉強ばかりでなく、実際の施設や地域へ出かけていってフィールドワークやボランティア活動などを重視した教育法、それにもう一つは小人数制による指導が特徴です。2年生から始まる演習、4年生のゼミや実習では1クラスを20人程度までとし、教員と学生が直接触れ合える配慮がされています」 社会福祉学科で学ぶと、卒業後の進路は限定されると思われがちだ、確かに同学科の卒業生の半数近くは、福祉関係の公務員や福祉施設・社会福祉協議会などに就職している。しかしまた、残りの半数以上は、一般企業に就職しているという事実もある。
「社会福祉の勉強をしたからには、社会福祉関係の仕事に就いてほしいわけですが、私は必ずしもその方面に進んでくれなくてもいいと思っています。社会福祉を学んで理解した人が、一住民となって地域にいてくれることもまた、重要だろうと考えています」 と松原先生。
将来をあまり狭く限定しないで、社会福祉の学習を通して自己実現を図る場と捉えてもいいようだ。なお、この学科を卒業すると、社会福祉士と精神保健福祉士の国家試験の受験資格が得られる。
さて、松原先生の専門は児童福祉である。子育てを社会でどう支援していくか、あるいは児童虐待など子育て上の問題点について、その児童への援助やケア、親への養育指導などを研究している。先生がこの分野に目を開かれたのは明治学院の大学院時代だった。 「当時も実践重視の教育方針は同じでしたから、私も現場に出され児童相談所に通いました。10年以上通いましたね。そこで不登校ですとか、児童虐待・非行など、様々な問題を抱えたお子さんと接しました。その経験がそうした問題の解決、またそうならないための養育のあり方についての研究に結びついています」
このとき先生が最初に関わったのは、不登校の中学生。はじめのうちは家庭を訪問しても、まったく無視され門前払いが繰り返された。それでも粘り強く通いつづけていると、やがて一緒にテレビなどを観るようになり、そしてついには彼女が幼いころのアルバムを持ち出してきて、心を開いて語るまでになったという。そうなるまでに要したのは半年間。地道で辛抱強さが強いられる福祉の現場を示すエピソードだが、またこの経験が先生を研究に向かわせるきっかけにもなったようだ。
福祉を学ぶ学生をリスペクトしたい

- 松原ゼミの夏合宿でのワンショット
松原先生の指導方針は、自分で考えて表現できるような学生を育てることだ。 「私の試験では○×ですとか、文章を穴埋めするような問題は出しません。学生がそれについてどう考えているかを問う問題が多いですね。それで私の教えたことと違うことを書く学生がいても、論旨が通っていればマイナスの評価はしません。授業のときも、ただデータなどを報告するだけではダメで、それについての学生の意見も必ず発表させるようにしています」
さらに、授業では学生によくディスカッションをさせる。福祉の現場ではコミュニケーションが重要になる。援助の対象者の意向を汲み取って、援助スタッフ間の意志の疎通を図ることが大切だからだ。きちんと自分の意見が言えて、人の話を聞くことができる学生を育てる。そのためにあえてディスカッションの授業を多くしているのだ。 最近の若者については、幼い・無気力・指示待ち――など巷間いろいろな言われ方がされる。だが、松原先生の見方は違う。
「いまの若者を幼いという人もいますが、私はそうは思いません。人間的にやさしい人が多くて、ボランティアにしても生活の一部になっていて、構えたりしないで非常に気楽に参加しています。考え方もしっかりしています。特にこの学科にくる学生には、そういう人が多いようですね。ですから、私は学生を信用しています」
"いまの若者は"という風潮のなかで、学生たちを全面的に信頼しているのである。こういう先生の元で薫陶を受けられるのは幸せであろう。また学生たちも大いに羽ばたけそうな気もする。この松原先生の人柄を慕って訪ねてくる卒業生も多いという。「明日も卒業生たちと飲むことになっているのですよ」 と笑う。学科の学生たちと酒を酌み交わしながら語り合うことも多いようだ。
いまの社会福祉は、これまでの施設中心の援助から地域に開かれたものへという変化のなかにある。 「社会福祉は気の毒な一部の人の問題から、地域全体・市民全体の問題になっています。スタッフの資質の向上も求められるようになっています。社会福祉は人と関わる仕事ですから、大変だけれども面白いともいえます。それだけに関わる側の人間的な豊かさ幅広さも必要になります。そういうものも大学で学んでほしいですね」
変化の著しい社会福祉にあって、児童福祉の分野は一番立ち遅れているともいわれる。これについて松原先生はこう話す。
「一番大きな原因は、児童自身が声を発することができないからですね。大変な状況にあっても訴えることができません。誰かが代弁しなくてはならない。そうした児童の声を聞いて代弁してあげる人を育てるのが、私の使命でありテーマだと思っています」 なかなか先の見えないニッポン社会だが、この国の未来を切り拓いていくのは、君たちそしてさらに若い子ども達の力以外にありえない。大学そして就職といろいろ進路に迷うようなら、児童福祉・社会福祉の強い大学を視野に入れておいてまず間違いはない。
こんな生徒に来てほしい
社会福祉のことなど知らなくていいです。将来、社会福祉の仕事に就こうと決める必要もありません。大切なのは、社会的に弱い人たちの存在に気づいて社会福祉に関心をもてること。大学に入ったなら、主体的に自分から勉強して"お客さん"でいないこと。そして、その熱意を私たち教員にアピールできること。そうすれば、社会福祉の学問や仕事の面白さは自ずとわかってきますよ。

