- 橋本 裕之 教授
- 千葉大学
文学部 橋本 裕之(はしもと・ひろゆき)
1961年大阪生まれ。85年早稲田大学第一文学部(演劇専修)卒業。87年同大学大学院博士課程中退。88年国立歴史民俗博物館助手。97年同助教授。98年ミシガン大学日本研究センター客員教授。98年より千葉大学文学部助教授。05年より現職。05年、NHK大河ドラマ 『義経』の芸能考証を担当する。主な著作に『王の舞の民俗学的研究』(ひつじ書房)、『目からウロコの民俗学』(編著・PHP)、『演技の精神史――中世芸能の言説と身体』(岩波書店)、『心をそだてる子ども歳時記12か月』(監修・講談社)などがある。
演劇学・民族学・文化人類学を押しつけない


- 千葉大学文学部校舎の全景
とにかく熱い先生だ。千葉大学・文学部教授の橋本裕之先生は、学生指導に懸ける滾るような思いを3時間にもわたり滔々と語ってくださった。倦むこと知らずに語る姿から熱き思いが伝わってくる。橋本先生は文学部・日本文化学科で、日本文化論講座を教えておられる。専門は演劇学・民俗学そして文化人類学である。
「ぼくの専門を英語でいえば、パフォーマンス・スタディーズ。"見る""見られる" という関係の中での、身体のあり方に非常に興味があります。研究しているテーマは、中世芸能の精神史、民俗芸能・大衆芸能の民俗誌的研究、マーシャル諸島の芸能に関する歴史人類学的研究などになります。ただ、これはぼくが個人的に興味があって研究していることであって、いまの学生に "面白いから研究しなさい" とは押しつけられませんけどね」 と橋本先生。
そこでゼミの学生たちは、それぞれが興味の赴くテーマに沿って研究することになる。それが橋本先生の専門外のことであっても構わないというスタンスである。見せてもらった卒業論文のタイトルには、麻雀からマンガ・アニメ・宝塚・忍者・妖怪・北野武さらにnonno――など卒論らしからぬ文字列が踊る。「面白そう」 と身を乗り出す塾生がいそうだ。
そのうえ、橋本ゼミの卒業生は文学部でありながら(?)就職率がすこぶる良い。しかも就職先は、大手出版社・新聞社などのマスコミやアート・エンターテイメント系が多いのだという。こう書くと、ますますもって身を乗り出す塾生がいそうだ。だが、これは大学というアカデミックな場での研究である。サークル活動程度のノリでは許されるはずもない。
「結果的にいわゆるサブカルチャーといわれる分野の研究が多くなりますが、ぼくはそれでも構わないと思っています。ただし、指導はかなりハードボイルドですよ。ぼくはわりとしつこい性格なので、学生にはできるだけあがいて、もがいてもらうようにしています(笑)」
サブカルチャーの研究といえば、アカデミックな学問的立場からは一段低いものと見られがちである。それを学術的な領域まで引き上げるのは、生半可なことではない。
「こういう分野は同時代の現象を対象として扱うわけですから、従来からある学問の手口そのままでは使えません。手口のないところで研究を仕上げるほうが、はるかに大変なことなのです。学問というのは思いつきをただ書いても成立しません。学生の論文であっても、学問のルールにのっとってやらなければならない。ぼくはルールと形式についてはメチャクチャに厳しく指導しています。でなかったら、ただの感想文になってしまいますからね」
研究テーマは学生の自由とはいうものの、単なる思いつき程度のものでは許さないという。
「学生たちには自分自身に突き刺っているもので、それがないと自分の輪郭が崩壊してしまうような事柄をテーマとして考えなさいと言っています。生まれてこの方、気になっていること、自分にとって決定的に重要なこと、人間には必ずそれがあるわけです。ぼくであればパフォーマンスであり、中世芸能・民俗芸能になります。そうした、これだけは人に譲り渡せないというものを研究テーマに選びなさいということですね」
千葉大名物!演劇的“闘論”ゼミ

- ゼミ学生とのパーティーにて。中央が橋本先生
もうひとつ。橋本先生の指導の特徴は徹底したディスカッション。演習でのディスカッションは通常で3時間、ときには4時間近くに及ぶこともある。
「多くの日本人に欠けているのは対話・討論の能力、とくに論理的根拠を明示しながら批判を加えていくことに慣れていません。ですから、ぼくの演習では徹底してディスカッションの訓練をしています。ひとりが研究を30分間発表して、それについてコメンテーターが疑問・批判を提示し、全員でディスカッションをするスタイルです。そのときぼくはすごく褒めたりもしますが、威嚇したりすることもあります。場合によっては、学生のプライドをズタズタにしてしまいます。」
凄まじいまでの熱血指導ぶり。だが、どこか橋本先生の専門である演劇的なダイナミズムも感じる。じつは、橋本先生自身が子どものころに対人関係に苦しんでいたことがあって、高校で演劇に出会ってその解決が図れたという経験があるのだ。
「かなり演劇的です。ぼくが学生を威嚇したりするのもわざとやっているのですけどね。だけど、ぼくがイジワルするのも考えながらやっているつもりで、社会に出たらもっと意味のないイジワル・イチャモンはいくらでも待っていますからね。こういうスタンスが合わない学生は、先生は他にもいっぱいいるのだから、そちらに行けばいいんです」
まことにもってクールにして厳しい。逆にこの厳しい"闘論"をへた学生の成長ぶりには著しいものがあるようだ。就職試験のためにやっているわけではないとしながらも、文学部にあって橋本ゼミ生の就職率がいいのは、そうしたパフォーマンス力の結果だろうと橋本先生は分析する。
2001年2月、文学部日本文化学科の学生16人の企画・制作による三味線・和太鼓ライヴ 「ニホンノヒビキ」 が千葉市内のホールで盛大に開催された。これも橋本先生が指導した。
「大学から日本の伝統文化を発信していこうという試みですね。これもメチャクチャハードにやってもらいました。中心になってやった学生は、「終わったら橋本を殴ってやろう」なんて思っていたそうですよ。でも、途中からみんなの顔つきが変わりましたからね。近ごろの若者特有のだらしない表情が消えて、"人の顔" になっていました」。 公演は大成功裡に終わり、ついでにいえば関わった16人全員の就職・進学も希望がかなったという。 破天荒というか型破りというか、国立大学という古い体制のなかではことさら目立つ存在の橋本先生ではある。その指導はハードで、現代ニッポン学生たちへの教育にかける思いはひたすら熱い。大学4年間をこんな熱血先生の元で揉まれてみるのはどうだろうか。
こんな生徒に来てほしい
ディスカッションは、才能には関係なく誰にでもできます。そういう場は必ずしつらえますから、誰でもどこかしら居場所は見つけられるはずです。たとえ消極的な人でも排除はしません。相互交渉のなかに自分を放り込んでみたい人、ある種の過敏さと鈍感さを同居させている人なら向いているかな。さらに、中世・民俗芸能なんかに興味のある人が来てくれたら、ちょっと嬉しいかも(笑)。











投稿されたご意見・ご感想(1件)
神楽童子 さんのコメント
日々お世話様です。いつもHP拝見しております。昨年、念願叶って自費出版の運びとなりました。10月中旬より各書店にて販売してます。若き日の神楽師の物語でタイトルは「お神楽初恋巡演記」です。いち早く岩手県立美術館&図書館&博物館のライブラリー・書庫で配架になりました。また情報誌悠悠そしてFM岩手「岩手の本棚」でも紹介されました。昨年は新聞掲載はデーリー東北&盛岡タイムス&毎日新聞が取り上げくれました。今年は岩手日報&日本農業新聞&朝日新聞&観光経済新聞で掲載されました。詳しくはブログ神楽童子「お神楽初恋巡演記」(http://blog.goo.ne.jp/juriyo_1955)参照願います。神楽を愛する多くの皆様に読んで欲しいと思ってます。
投稿者: 神楽童子 | 2010年02月14日 20:24