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Good Professor

久野 雅樹

久野 雅樹 教授
電気通信大学
電気通信学部 人間コミュニケーション学科

久野雅樹(ひさの・まさき)
1964年栃木県生まれ。 87年東京大学教育学部卒業。95年同大学院教育学研究科博士課程単位取得修了。96年電気通信大学講師。00年より現職。主な著作に「ヴァーチャルインファント」(共著・北大路書房)「文章理解の心理学」(共著・北大路書房)「認知神経心理学」(共訳・白水社)などがある。

文系理系を超えて人の心を理解する

久野研究室のある東1号館は、正門にも近い。キャンパス内は増改築工事が進んでおり、新しい校舎も多い。
久野研究室のある東1号館は、正門にも近い。キャンパス内は増改築工事が進んでおり、新しい校舎も多い。

電気通信大学は電気通信学部だけの1学部制を敷く、国立大としては非常にユニークな大学である。

同大学に人間コミュニケーション学科が開設されたのは99年。来春その1回目の卒業生が送り出される新しい学科である。ここで学べるのは、マルチメディアや、電子技術、社会情報など、高度コミュニュケーションに関連する今日的でホットな分野である。

「人間コミュニケーション学科といいますと、名前だけからは具体的なイメージがつかみにくいかもしれませんが、いろんな面白いことのできる、あるいは学べる学科です」

そう語るのは同学科で心理学、認知心理学、認知科学の教鞭を執っている久野雅樹先生。この学科は面白いと語る先生だが、それを聞く前に理系の大学に心理学の講義がある不思議から伺った。

「この学科は文理融合を理念に謳っていますが、心理学や認知科学は、まさに文理をこえて人の心を理解しようとしている学問です。普通、心理学は文系の学問分野と考えられがちですが、実際に研究してみると数式は頻繁に出てきますし、実験もやればプログラミングもやるし、そもそも理系的な要素の多い学問なんです」

久野先生の専門は認知心理学。心理学のなかでも比較的新しい研究領域で、人間の知性・知識などについて研究する分野である。つまり、見る、聞く、考える、学ぶ、話す、記憶するなど、人間の脳内のシステムを探求する学問分野だ。  

そして人間の心や知性について理解するのに、心理学的な研究だけでなく、言語学や哲学、人工知能や脳科学などのアプローチも総合しようとする試みが近年盛んで、これが認知科学と呼ばれているものである。まさしく文理融合の典型的な科目だが、久野先生はこれも教えている。

「学問というのはその発展過程で細分化されていくものですが、それを認知科学では学際的にもう一度まとめてみようとしています。知性の問題にがっぷりと取り組んだギリシャ哲学の現代版といったらいいでしょうか。学際という面から見ますと、ロボットと子どもの発達、人工知能と脳のはたらきなど、一見、別の領域と見える問題でもつながりをもつものが多い。いろいろ面白いことができて、将来的な広がりも大きいですね」

学部卒業後の進路も豊富で、コンピュータや電気の専門を生かした各種技術者をはじめ、メディア・映像制作、マスコミ、金融・社会サービス関連などと多様だ。同大学は産業界との太いパイプがあって、この不況下でも就職状況はすこぶる好調だという。大学院に進む学生も少なくはないものの、「他大学への進学も含めて、もっと大学院で学んでほしい気がします」と久野先生は笑う。

認知心理学を専門にしている久野先生だが、その研究テーマは言語である。

「私の研究は単語レベルの研究が中心です。人間は万単位の単語を脳内に持っています。これを"心内辞書"と呼び、この辞書を操りながら、言葉として話し理解しているわけです。例えば私たちは"話す"と"放す"のように、同じ発音で意味の違う単語を自然に使い分けて理解しています。これは考えてみればたいへん不思議なことで、この仕組みを解明するための実験や調査を行っています」

このほか言語獲得をシュミレートするシステムの構築をめざした認知科学の実験、単語の使用頻度を計量化して、言語の体系性を解析する調査、さらに、言葉という「心の窓」を通してパーソナリティ(性格)を考える研究なども行っている。

自分の「成り立ち」を書くレポートも

言語獲得過程をシュミレートするなど先生の研究にはコンピュータも欠かせない。
言語獲得過程をシュミレートするなど先生の研究にはコンピュータも欠かせない。

取材中の久野先生はもの静かな口調で淡々として語られた。だが、その先生が教壇に立つと、一転してきびしい先生に変わるらしい。

「与えられた課題を受け身でやっているだけではダメですから。自分で頭を使い、自分で動くようにと学生には求めています。私の授業では毎回必ずレポートを提出させているんですが、学生にはやかましい教師だと思われているようですね(笑)」  

また、心理学の授業では、自分の「成り立ち」を3000字以上のレポートにして提出するよう義務づけてもいる。

「たいへんなエネルギーを要する課題ですが、こういう問題について考える機会はなかなかありませんからね。20歳前後のこの時期に、自らのことをていねいに考えてみるのはいいことだと思います。その昔でしたら、親のあとを継ぐなりして、決まった仕事や役割の枠の中で一生を送るという人生のサイクルがかなりはっきりとありましたが、現在は自分の人生は自分でドライブしていかないといけませんし、人生もずいぶんと長くなりましたから」  

自分の心の成長の過程をレポートにまとめることによって、自分が何者であるかが客体化される。つまり、アイデンティティの確立が図られる。大学の授業でここまで面倒をみてくれるのは他ではないだろう。いずれのレポートも学生たちにとっては苦しい作業になるようだが、あとになって「レポートがためになった」という学生が多いと久野先生は語る。

さて、人間コミュニケーション学科は文理融合を謳っているだけに、理系の専門科目はもちろんのこと、文系の科目も本格的に学ばなくてはならない。

「文理融合という観点から、英語を中心にした語学、それに法律や政治・経済などに関わる社会系の科目にも力を入れています。またこの学科に限らず、大学では日本語能力がとても重要になります。それが不十分なために留年するケースもありますから、理系の大学だからといって文系的な基礎を安易に考えないほうがいいですね」

面白い研究と将来性の学部だからこそ、学生には厳しさを求めてくる。それが電気通信大学の特徴でもある。ここで学ぶためには、それだけの覚悟が必要なのだ。  

「10年前にくらべて教育環境は非常に整っています。選択肢も豊富です。いまの大学はいろんなことができるようになっています。ですから、単純に学部名や学科名だけで進学先を選択しないほうがいいと思います」  

久野先生から受験生へのアドバイスである。

こんな生徒に来てほしい

まずは好奇心とやる気ですね。専門的な予備知識は必要ありません。偏った先入観があると、かえって大学に入ってからのリハビリが大変だったりするくらいです。むしろ、高校では基礎的な知識、数学、英語、国語などをしっかり身につけてきてほしいですね。そのほうが大学の専門課程に進んでからも楽だと思います。

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