- 川喜多 喬 教授
- 法政大学
キャリアデザイン学部 川喜多 喬(かわきた・たかし)
1948年、大阪市生まれ。1971年、東京大学文学部社会学科を卒業。1976年には、同大学院社会学研究科博士課程単位修得。同年より茨城大学人文学部講師、のち助教授。1983年から東京外国語大学外国語学部助教授。1988年7月~1989年3月コーネル大学に遊学。1990年に法政大学経営学部教授・大学院経営学専攻(ビジネススク-ル)教授。
~最低でも毎週1社調査する。週に1度は知らない人に会う。

- 市ヶ谷キャンパスのシンボル「パアソナード・タワー」。マルチメディアスタジオや、パソコンを50台も設置した情報実習室なども置かれている
こんな目標を25年以上続けてきた人がいる。そう、今回紹介する川喜多喬先生である。
「私の研究は、経営社会学なのです。つまり、経営を社会学の方法で捉えようとしています。だから調査は欠かせません。"調査なくして理論なし"ですよ。これまで1500社以上の会社を調査しましたから」
先生は、中小企業を中心に、組織において人の育つ仕組みを研究している。例えば、業績の伸びている会社が、どのように人を育てているのかを調査・分析するのである。といっても、人の育成マニュアルを作っているわけではない。
「人の育て方は千差万別。共通のやり方はありません。どこにでも通用するベストな指導方法があるといった発想が、思考停止を生んでしまいますから」と、先生は語る。多様な現実を調査し続けてきたからこそ、こうした言葉には重みがある。塾生も自分の体験に照らしてみれば、先生の話に納得できるだろう。
例えば、クラブ活動。先輩が強くなったのとまったく同じ方法を守っているだけでは、チームは強くなるだろうか?各人の個性もあれば、時代の変化もある。状況に応じた柔軟な姿勢がなければ、人を育てる組織にはならないのだ。しかし先生は、会社内における人材育成のヒントを一つ教えてくれた。
自分らしい生き方を設計するのがキャリアデザイン学部

- パアソナード・タワーの1階にある学生ホール「ヘリオス」。16面大型マルチビジョンなども置かれている
「一緒に飲みに行って、会社や上司や同僚、それに世間の悪口ばかり話されても面白くないでしょ(笑)。男性だったら、自分と食事に行った女性が、こんな話しかしない場合を考えてみてください。仕事のことにしか頭の行かない人が会社を潰すのです。仕事に夢中になれることは大切ですが、仕事だけではダメなのですね。広い世間を知っている人材を社内でどう育てていくかが、これからの問題でしょう」
このように企業と人の関係を研究し続けてきた先生が中心となって、法政大学ではキャリアデザイン学部という新学部を2000年4月に開設した。
「世界では、問題意識を持って大学に進学するのは当たり前です。自分の将来設計を考えて大学に進学し、関連する職業に就いていきます。4年生になってから、初めて進みたい進路を考え始める日本とは違う。こんな意識では、激しい国際競争には勝てません。
企業の人事担当者の意識も変わってきていますよ。キャリア意識のハッキリした人材がほしい、と言っていますから」
不況は深刻化している。3週間に2社の割合で上場企業が潰れる時代となった。ただ名前の通った企業に就職すればいい、という時代は過ぎ去ったのである。自分が何をしたいのかを考え、自分の幸福の形を自分で設計していく。そうした"技能"が、ようやく日本でも求められるようになったといえよう。
目標を持って人生を歩むにはキャリアデザインが不可欠
法政大学に入学した翌月には、全教員と全学生で合宿に行きます。そこでどういう人生を歩み、そのために何を勉強したら良いのかを、みんなで討論します。自分と他人を理解し、それを表現することから勉強が始まりますから」
このような合宿だけではなく、キャリアデザイン学部は、これまでにない試みに満ちている。スペシャリストとして高い知能・技能を持つ人々を、毎回招いて講演してもらう「キャリアモデル・ケーススタディ」。自分がどのような方向に進みたいのかを相談できる、専属の学習アドバイザーなども学内に配置するという。
実は政府も、キャリアデザインに強い関心を示している。今後5年間で5万人のキャリアカウンセラーを養成すると発表しているほどだ。終身雇用制が崩れるなかで、就職や再就職に専門知識を持った人材が必要になってきたのも時代の流れだろう。
「現場でピカイチの技術を持った方に話を聞くと、チャラチャラしていないのです。モノを仕上げる喜びのなかで暮らしていますが、みんな仕事三昧の時期があって苦労しているのですよ。ただ、人生の目標なしに苦労するのはバカらしいじゃないですか。だからキャリアデザインが必要なのです。
『ヤング、ヤングとおだてられ、やがて世間の根無し草』という言葉があります(笑)。これじゃあいかんのですよ」
先生は調査について「相手の意見に異を唱え自己主張するのでは調査になりません。他人の人生に感動するのが調査なんですよ」と教えてくれた。
年間50社もの調査に飛び回り、分析を続け、膨大な量の論文を発表する。そうした多忙な日々に、先生がデザインした幸福の形があるのを感じた瞬間だった。
そんな先生に学び、新学部で自分の人生について真剣に考えてみるのもいいなあと、心底感じた取材だった。
こんな生徒に来てほしい
「いらない学生の例を集めた方がわかりやすいですね(笑)。
大企業に入ればエスカレーターに乗った気分で、人生が平穏に終わると思っている学生は要らない。人生に悩んだことのない学生も要らない。周りの大人を見て、『もっと良い生き方があるのに』と思ったことのない学生も要らない。今の世の中を見て、何かおかしいと思ったことのない学生も要りません。
やはり問題意識が大切なのですよ。とはいえ、どういう人生を送ったらよいのか、じつはよくわからないと思っている人は、大歓迎です。一緒に考えましょう」

