- 秋光 純 教授
- 青山学院大学
理工学部 秋光 純(あきみつ・じゅん)
1939年、広島県生まれ。65年に東京大学・理学部卒業。70年には東京大学・大学院理学系研究科博士課程修了。70年~76年、東京大学・物性研究所中性子回折部門助手。76年に青山学院大学・理工学部物理学科助教授を経て、82年より現職。1998年に仁科記念賞、2001年に紫綬褒章、2002年に朝日賞を受賞。
大発見は自由な研究環境から生まれる

- 書く学生が管理する「釜」。中に送り込むガスも変えられる
2001年2月24日『朝日新聞』の夕刊一面トップは、秋光純教授の研究成果を報じた。「超伝導の新材料発見―金属では最高温27年ぶりに更新―」。その見出しの大きさが、研究の偉大さを物語っていた。
研究室の高いレベルにおののきながら、私が先生に挨拶を済ませたちょうどそのとき、学生が廊下から教授の研究室の様子を伺った。
「おっ、なんか用か?」
すかさず声を掛けたのは先生だった。
「先生、すみません。電卓を貸していただけませんか?」
「高級なのと頭が悪いのがあるけど、どっちがいいんだー?」
「じゃあ、高級な方で(笑)」
2人の笑い声が研究室に響いた。
「学問というのは、ある程度自由でなければダメなのです。何時に来て、何時に帰れ、なんて決めていませんよ。あまりメチャクチャだと困りますが、学生には自由に研究をやらせてやりたいのです」
研究室は、先生のおっしゃるとおりに運営されているようだ。伸び伸びと研究に打ち込める環境が整っていなければ、電卓を借りに学生が研究室を訪れるはずもない。実は世界が注目した昨年の大発見も、研究室の自由な雰囲気の一つの成果と関連があったそうだ。
超伝道とは?

- 圧力をかけて新物質を作る装置
先生の研究室で発見された超伝導の新物質「二ホウ化マグネシウム」は、39K(摂氏マイナス234度)で超伝導となる。超伝導とは、低温で電気抵抗がなくなる現象をいう。抵抗がないため、一度流した電気は永久に流れ続ける。超伝導物質は人体の断面を撮影できる医療器具「MRI」やリニアモーターカーなどで使われている。その特性を活かして電力損失の少ない送電線やジョセフソンコンピューターと呼ばれる次世代のコンピューターへの応用も期待されている。
ただしこれまでの超伝導物質は、大きな問題を抱えていた。従来の酸化物超伝導体は陶器のような物質「セラミック」でできており、合成・形成・加工が難しく、実用化がなかなか進まなかったのだ。一方、合成や加工に優れた金属の超伝導物質は23K(摂氏マイナス250度)と、超伝導になる温度が低すぎた。
「超伝導を説明するBCS理論では、金属の超伝導は30から40Kが限界と言われていました。つまり『二ホウ化マグネシウム』はBCS理論で説明できるギリギリのところなのです。人間でいえば、110歳まで生きられるのかを議論しているようなものですかね(笑)」
超伝導の実用化に大きく貢献した研究に、世界は湧きかえった。米物理学会では、「二ホウ化マグネシウム」をテーマにした緊急の研究発表会が開かれ、発表から1年半の間に書かれた関連する研究論文は1000を超えている。すでに実用化への試みも始まっている。
経験とアイデアのコンビネーションが新発見の秘訣

- EPMAと呼ばれる物質の解析装置
そんな大発見に関わった一人が、なんと大学4年生だったというのには驚きだ。 「私が与えたテーマから、学生がある物質を抜いたことで、偶然に発見されました。私たち研究者は規制概念に縛られます。一方の学生は、発想は自由ですが、全く意味のない実験で時間を空費してしまうことも多いのです。つまり、学生を放りっぱなしにしてもダメですし、『俺の言う通りにやれ』でもダメなのです。高いところに目標を設定し、学生の自由なアイデアを尊重しながら、今まで培った経験も教えるという両者のコンビネーションが大切なのです。そういう体制が研究室に確立していると思っています」
しかも秋光研究室では、これまでに発見された物質の研究と平行して、新発見に向けた取組みが継続的に行われている。
「新しいモノをつくり出すのは大変しんどい。でも、誰かがやらなければいけませんから。出なくても研究を続ける。そう腹をくくらないと大きな進歩はありません」
力むわけでもなく、先生は語った。
多くの研究は、巨大な発見の後を追いかけていく。様々な偶然が重なって飛び出す大発見を続けるのは、容易ではないからだ。しかし本来的な研究のロマンとは、大発見を目指したところにあるのではないだろうか。
これまでの研究成果、そして先生の研究姿勢は、今秋、文部科学省からもお墨付きをもらった。世界最高水準の中核的な研究教育拠点と期待される研究プロジェクトを国家が支援する「21世紀COE大学プログラム」に、秋光先生をリーダーとする研究が認定されたのだ。化学・材料科学分野には、全国71大学82件から申請があり、選ばれたのはわずか15大学21件のみ。しかも私立大学は、青山学院大学を含めて3校だけだった。
元々学生への指導で定評のあった青山学院大学・理工学部が、研究分野でもその実績が認められた何よりの証明である。今後の研究成果に目が放せない。
こんな生徒に来てほしい
「志を持っている学生。ある程度、継続的に地道な努力を続けられる学生に来てもらいたいと思っています。
私もそうでしたが、高校時代は偏差値の呪縛からなかなか逃れられないものです。でも学生が研究室で伸びるかどうかは、偏差値とはあまり関係ありません。面白いと学生が感じ、ちゃんとした目標を与えれば、みんな伸びていきます。そういう出逢いが、私の研究室であればと思っています」

