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Good Professor

植田 利久

植田 利久 教授
慶應義塾大学
理工学部 機械工学科 先端科学技術研究センター

植田 利久(うえだ・としひさ)教授
1953年福岡県生まれ。76年慶應義塾大学工学部機械工学科卒業。81年同大学大学院工学研究科(機械工学専攻)博士課程単位取得退学。82年工学博士。86年同大学理工学部機械工学科専任講師。88年米国プリンストン大学招聘研究員。91年慶應義塾大学理工学部機械工学科助教授。98年より現職。

主な著作に『反応系の流体力学』(コロナ社)がある。

機械工学の視点・技術の出番はこれから

慶應矢上キャンパス正面に建つ14棟創想館
慶應矢上キャンパス正面に建つ14棟創想館

慶應義塾大学の矢上キャンパス(横浜市)は、理工学部3・4年次の学生と大学院生だけが学び研究しているキャンパスである。そのためか、落ち着いた静かな佇まいのなかにある。

ここで教鞭を執る植田利久教授は機械工学が専門。その研究課題にしているのは「反応系の熱流体力学」である。

「そのまま文字どおりの研究内容で、化学反応が生じたときに同時に起こる熱と流れの現象を解明して、それを開発につなげる学問になります。典型的な例としては自動車のエンジン内の現象ですね。エンジンは空気と燃料を取り込んで化学反応すなわち燃焼を起こします。このときエネルギー(熱)と排気(流体)が同時に発生していますが、そうした現象について研究しているわけです」

機械工学科というと上下つなぎの作業衣を着て、油まみれになりながらマシンに取り組むといったイメージもあるいはあるかも知れない。しかし、植田先生の研究は実体的なモノを扱うのではなく、そのモノの内部で起こる現象についての工学研究ということになる。

「ですから私の研究室の研究は,エンジンばかりにではなく、食品製造の機械や人工臓器、あるいは巨大な化学プラントシステム、環境やエネルギー問題にも適用できることになります」

さまざまな分野に応用される非常に汎用性の高い研究とのこと。自身の研究内容について噛んで含めるように説明する植田先生の姿には実に折り目正しい人柄が伝わってくる。

発想を個々に展開できる人材を育てる

機械工学科というのは理工学部の基幹をなす学科で、それだけに各大学の特徴があらわれやすいと植田先生は語る。

「慶應大学の機械工学科では、柔軟な発想をもち,それを合理的に展開できる人材を育てようとしています。その発想のためには基礎知識が必要ですから、学部ではそれをみっちり学んでもらいます。そのうえで学生1人ひとりが課題を見つけ、それぞれで実験・解析をしていきます。ですから、同じ機械工学科で学んでも、学生は多様な個性をもったエンジニアとして育てられます。それが大きな特徴ではないでしょうか」

機械工学科の学生が各教員の研究室に振り分けられるのは4年次になってから。その1年間を研究室に所属して、各自の卒業研究に打ち込むことになる。その4年次の学生募集の植田研究室のホームページには 「どの研究テーマも探索的で世界初のものばかり」 と書かれている。

「これは私の研究室ばかりでなくて、慶大機械工学科の研究室はどこでも世界初のものを目指しています。ですから、学科全体の特徴だといえます。世界初のためには柔軟な発想が必要です。他に前例がないことを研究するわけですから、人に習うことはできません。すべて自らで解決していく意欲と実力が求められます」

それだけに基礎的な知識の蓄積がことさらに重要になるわけだ。

学部学生が特許出願するという快挙

第4回慶應科学技術展会場で。右の2人が特許を出願した学部生
第4回慶應科学技術展会場で。右の2人が特許を出願した学部生

学生たちへの指導方針について聞くと、植田先生は即座に「チャレンジング」と返してきた。

「新しいことにチャレンジしていく人を育てたいと思っています。こと研究に関しては、教授も学生もないというのが私の考え方です。対等の立場ですね。ただ、そのぶん学生だからこの程度でいいというのは認めません。それが学部の学生であろうと院生であろうと、私といっしょに研究するからには徹底して追究してもらいます」


やさしい語調のなかに厳しさもチラリとほの見える。

ちなみに超氷河期ともいわれるこの就職難の時代にあって、卒業生の就職状況はまずまず好調らしい。植田研究室の卒業生は、機械・機器メーカーはじめ自動車・情報機器・航空会社など非常に広範な企業に及んでいるという。

「私の研究室では特定の機械や機器を研究しているのではなく、現象を扱っています。だからでしょうか、多様な研究内容や企業環境に応じられる人が多いように思います」 そう植田先生は分析してくれた。

2002年、植田研究室所属の学生が特許を出願するという快挙もあった。それも大学院生ではなく、なんと学部4年次の現役学生2人が共同でやった卒業研究が出願されたのだ。

「これは、混合しにくい物質の混合を促進する装置の開発研究です。混合が速くなれば、化学反応も速くなるという利点につながります。最初この装置の基本的なアイデアは私が出したのですが、ややアイデアが先行して結果の予測がむずかしかったのです。そんな中で、この2人はよく本装置の特徴を示す成果を出してくれました」


慶應大学では特許を出願するときには、教員とともにそれにかかわった学生も共同発明者として名前を連ねて申請されることが多い。今回の出願でも、植田先生の名前といっしょに2人の学生の名前も明記されることになった。学生のみんなにとって、これほどの励みもない。くだんの2人は2003年度から大学院生になって、さらに同装置の発展・改良にそれぞれの発想をもって取り組んでいるという。「機械工学の研究をしていて幸せを感じるのは、新しい発想がわいたり、新しい現象を目にしたときですね。それはごく些細なことがきっかけになることが多くて、それを見逃さずにつかまえた瞬間がいちばんの喜びになります。そうしたものを見逃さないためには、基本を知っていることが大事になります。発想の展開についても同じことがいえます」

そして、植田先生はこう付け加えて話を終えた。

「機械工学というと、高校生のみなさんにはすでに確立された分野だと思われる方も多いかもしれません。機械工学の本質は力学の論理をきちんと展開すること、さまざまな発想を実体のある機械やものにどう作り上げていくかということです。今まさに必要とされている人工臓器やマイクロマシンあるいは環境問題にも、機械工学の視点や技術が求められています。機械工学が貢献できる可能性は、これまで機械工学とは一見関係がないと思われていた分野にまで広がっているのです」

こんな生徒に来てほしい

やはりチャレンジング。新しいことに目を向けて、新しいことを考えていく姿勢ですね。ただ工学一般に重要なのは、どんな考え方にも合理的な裏付けが必要だということです。自分の発想や考え方の合理性を自分で検証するためには、その分野の基本的な知識を知らなければなりません。その知識をまず学び、新たなチャレンジをしていくところが大学となるわけですね。

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