- 芋生 憲司 助教授
- 東京大学
大学院 農学生命科学研究科 芋生 憲司(いもう・けんじ)助教授
1958年和歌山県生まれ。82年三重大学農学部農業機械学科卒。86年東京大学大学院農学系研究科博士課程退学。86年同大学農学部助手。91年宇都宮大学農学部講師。94年同助教授。97年より現職。
著作に『生物生産のための制御工学』(共著・朝倉書店)がある。
究極のアイガモ型農業機械への果てしなき夢

- 芋生研究室がある農学部7号室

- 東京大学農学部の正門
東京大学農学部のキャンパスには、歴史を感じさせる重厚な建物が多い。そんな中にあって農学部7号館はひと際明るい近代的なビルで、このなかに今回紹介するグッドプロフェッサー・芋生憲司先生の研究室がある。
先生の専門は「生物機械工学」。わかりやすくいえば農業機械の研究開発である。
「農業機械といいますと、トラクタですとかコンバインなどを連想されると思います。以前のそうした農業機械は作業効率のいいものを作るということで開発目的は単純でした。しかし、最近は環境への配慮、人体への影響、食の安全の問題などがあって、研究開発も非常に幅が広がっているといえます」
農業機械の開発も単に生産性や効率だけでなく、さまざまな要因が絡み合って複雑になっているという。それだけ難しくなっているわけだが、またやりがいのある分野だとも語る。
子どものころから機械いじりが好きだったという芋生先生だが、これまでに農業機械の開発で4つの特許を取得している。そのひとつに「ドップラー式対地速度計」の開発がある。
「これはトラクタなどの農業用車両の速度計にドップラー効果を応用したもので、車両から超音波を発してその反射波をとらえて正確な速度を計測するものです。なぜ、農業用車両にそんな速度計が必要かといいますと、農薬散布などを無人車両で行なうときにナビゲーションする必要があるからです」
従来のナビゲーション・システムはGPS(汎地球測位システム)を利用していたため、一式数百万円もして高額であった。それが、芋生先生のドップラー方式による開発で大幅なコストダウンが図られる可能性が出てきた。この研究開発によって、先生は02年のCIGR(国際農業工学会)論文賞と03年の農業機械学会学術賞のダブル受賞という栄に輝いている。
芋生先生が特許を取得しているものには、ほかに収穫作業車や変調光による距離測定装置などがある。また現在は、車両の走行制御のための画像処理やウォータージェットによる除草などの研究に取り組んでいるという。
独創的なアイデアは方程式から生まれない

- 晩秋の東大本郷キャンパス
東大農学部といっても、そこで学んでいる学生の大半は農作業の実体験がないという。そこで芋生先生の学部での講義では、農作業をビジュアルに体験できる授業を心がけていると語る。
「やはり農学部の学生ですから、米のつくり方くらいは知っていてほしいと思います。本当は実習するのがいいのですが、そうはいきませんからビデオや映画を多用してバーチャル体験してもらっています。古い農業機械などが出てくると、学生たちも関心を示して反応もいいですよ」
最近の農業機械はハイテク化が進んで、原理や構造が見えにくくなっている。昔の機械はそうしたものが一目瞭然なだけに、いまの若い学生もつい惹きつけられるようだ。
芋生先生は力学と数学も教えているが、こちらの学習で大切なのはイメージをどこまで膨らませられるかだという。
「たとえば微分方程式もそれを解くだけではなくて、その意味するところをイメージできないといけません。機械を開発するときのアイデアは、そうしたイメージからわくもので、方程式からは生まれてきません」
どうしたら学生の目からうろこを落とせるのか、それを考えながら授業ではさまざまな工夫を凝らしているそうだ。
芋生先生の趣味はスポーツカイトにラジコングライダー、それに料理。いずれも工夫を凝らして愉しむものばかりだが、それは学生に対するときも変わらないようだ。何とか学生の心に届く授業にしたいと考え、常に工夫し腐心しているのである。
物に触れる実践から始まる生物機械工学

- 研究室ゼミ生たちと芋生先生
芋生先生が教えている東大農学部6類でゼミが取れるのは4年次の学生だけで、この1年間を各研究室に所属して卒業研究に充てることになる。芋生先生の研究室でも例年4~5人のゼミ生を受け入れている。
「ゼミというのは研究する場ですから、それまでの授業のように、教えられたことを吸収・消化すればいいというわけにはいきません。自分から主体的にテーマを見つけて研究しなければなりません。ただ、最近の学生にはそういうことに慣れていないのか、戸惑う人が多いようですね」
そうした学生に対して、芋生先生はまずやらせてみるという指導をしている。
「先輩の大学院生たちがやっていることを手伝わせるなり、コンピュータのプログラムを組ませてみるなり、まず物に触れてみることからしてもらっています。そうした実践のなかから自分のテーマを見つけ、アイデアが出てくればと思っています」
先の芋生先生の話にもあったが、最近の農業機械の研究開発は作業効率性ばかりでなく、環境や人体などへの影響にも配慮しなければならない。また農業や土壌についての知識も必要になるし、機械自体のハイテク化も進んでいる。そのためか、研究室にはいろんな才能が集まることになる。
「研究室には生物の好きな人はもちろん、機械が好きな人、コンピュータが好きな人、環境問題に興味がある人など、それぞれ得意分野の違う人が集まっています。そういう人たちがディスカッションしながら、これまでにないもので、しかも有用なものを一緒になって作りあげていく。これが、みんなのいい経験になっているようですね」
いま芋生先生が取り組んでいるもののひとつに、なんとアイガモ型ロボットの研究開発がある。
「田んぼのなかをアイガモのように自由に動き回りながら、除草作業をするロボットの研究です。もう何年も前から取りかかっていますが、失敗ばかりしています(笑)。ほとんど先の見えない研究ですが、その完成が私の夢ですね」
そう言って笑う芋生先生。笑顔のやさしい先生である。
こんな生徒に来てほしい
我々の研究分野は非常に幅の広い学際的な研究で、ただ機械について知るだけでなく、食料・人口問題などさまざまな問題が絡んできます。ですから、物事を多面的に見られる人がいいですね。機械についてはマニアックに好きである必要はないですし、ハードルはそれほど高くないと思いますよ。ただ、東大に入ってくるという前提はありますが……。

