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Good Professor

鹿児島 誠一

鹿児島 誠一 教授
東京大学
大学院 総合文化研究科 広域科学専攻相関基礎科学系

鹿児島 誠一(かごしま・せいいち)教授
1945年大阪生まれ。68年東京大学理学部卒。73年同大学大学院理学系研究科物理学専門課程博士課程修了。73年工業技術院電子技術総合研究所研究員。79年より現職。

主な著作に『低次元電子の不思議』(丸善)、『低次元導体』(裳華房)などがある。

目からウロコの本物の物理学を伝えたい

鹿児島研究室のある教養学部16号館
鹿児島研究室のある教養学部16号館

東京都目黒区にある東京大学駒場キャンパス。東京大学に入学した学生は、まずこのキャンパスの教養学部で基礎課程を2年間学ぶ。そののち3、4年次に本郷キャンパスなどに移って専門課程を学ぶというコースをとる。
この教養学部で「物理学」を教えているのが、今回紹介する鹿児島誠一先生である。
「大学に入ったばかりの学生には、物理学を誤解している人が多いようですね。物理学はカッチリとした数式で体系立てられた完成された世界だと思われがちですが、自然界には厳密な数式であらわされる現象など実は少ないんですよ。たとえば、F=kxであらわされるフックの法則。バネばかりを2倍の力で引くと2倍伸びるという定番の物理法則ですが、実際にやってみると、そうはなりません。そうならないのが「物の理」つまり物理であって、物理の「数式」というのは近似でしかないのです」

新入学の学生たちに対し、鹿児島先生はそれらを実験して見せることから始める。ほとんどの学生がショックを受けるそうだ。

「物理学というのは、あらゆる現象について『なぜだろう』と考え、それを知っていく学問です。目の前の自然現象を直観的に把握するために簡単化したものが法則なり数式なのであって、それ自体が物理学そのものであるわけではありません」

「現象を探りながら簡単にしていく過程が物理学になります。多くの学生たちは法則がなにか先にあって、自然界がそれに従っているような錯覚に陥っているんですね。まず、そうした誤解を壊すことから教えていきます」

この講義で目からウロコを落とす学生は多く、やる気が与えられて物理学に目を開く人も多いようだ。

枠にとらわれない学際的研究が生む新発見

鹿児島先生の専門領域は超伝導などの「電気伝導」の分野で、有機導体の低次元電子の研究をしている。研究テーマは大きく2つあって、電気伝導と新物質の開発である。

「原子でできている銅やアルミニウムの電気伝導についてはよく知られていますが、70年代に入って分子化合物(有機導体)も電気を通すことがわかってきました。電線の絶縁体に使われているプラスチックも電気を通すという発見は驚きだったわけです。それで、私もこの研究に入り込むことになりました」

「私が主に研究しているのは分子化合物のなかの電子の流れ方についてです。電子というのは、電圧をかけた方向によって流れ方が決まってきます。ところが、電子の流れの方向が抵抗によって違う物質として略称TTF-TCNQという分子化合物があります。この物質の特徴として、絶対温度53度(マイナス 220℃)まで下げていくと超伝導を思わせるような良導体になり、そのあとは絶縁体に変わるという性質があります。それがなぜなのかを解きあかそうとしたわけです」

TTF-TCNQのなぞは分子のブロックの並び方(結晶)の変化にあった。このなぞに挑んだ世界中の物理学者で、何が起こっているかをはっきりさせたのは鹿児島先生とフランスのある学者の2人だけだった。
先生のもうひとつの研究テーマは、新物質の開発である。

「分子の形状は、球体ではなくブロックのような形をしています。これを積み重ねていくと物質になります。化学の世界では、プラスチックをはじめペイントや接着剤・高分子ポリマーなど次々に製品化されました。物理学の世界で扱うようになったのは、分子化合物が電気を通すことがわかってからです。私の研究室でも分子のブロックの積み方をいろいろ工夫して、新物質の探索開発を進めています」

実際に先生の研究室のスタッフのなかには、有機分子による超伝導体の合成に成功した人がいる。これは世界初の合成で、しかも物理学の研究室が新物質の合成に成功した画期的な例になった。

「そのスタッフは物理工学を学んできた人ですが、一時期かれは化学の研究室に行って化学の知識も身に付けています。こうした新物質合成のような研究には、物理学に化学の知識が加わってなし得ることを再確認しました」

この例に学んで、これからは狭い物理学の枠にとらわれないで、化学をはじめ生物学・農学・薬学などほかの学問領域にも通じる必要があると説く。

『なぜ』を探し解きあかしていく研究力こそが

東大駒場キャンパス教養学部1号館
東大駒場キャンパス教養学部1号館

自身の研究について非常にていねいな説明をしてくれる鹿児島先生だが、ふだんは寡黙な先生で学生たちには怖い先生と思われている向きもあるようだ。じつは先生の頭のなかは常に研究のことでいっぱいのため口数が少なくなるというのが真相のようで、本当はとても温和な先生というのが研究室の学生たちの評である。

最近の学生たちの印象について、鹿児島先生は次のようにも述べる。

「あまりにでき過ぎた用意周到な環境で育ってきた学生しか入学できなくなったということなのか、かなり優秀な人でも次に自分は何をしていいのか分からず、こちらがおぜん立てをしてあげないと前に進めないことが多くなってきた気がします。高校生のみなさんも、自分たちはそういう育ち方をしたんだということくらいは自覚したうえで大学に来てほしいですね」

そして、いま物理学を学ぶことの意義については次のように話してくれた。

「私たちの身の回りのことから宇宙の果てまで、この世界について人類が理解したと思っているのはほんの一部にすぎません。とくに分子の世界はほとんど手が付いていませんから、無限の可能性があるといえます。その『なぜ』を解き証していく興味は尽きません。これまでに人類が手にした物質はまだほんのわずかなものでしかありません。これからも材料化学の分野もふくめ、新しい物質が次々に設計され合成されていくと思われます」

ところで冒頭で、東大の学生は3、4年次になると本郷キャンパスなどに移って専門課程を学ぶと書いた。じつは駒場キャンパスにも教養学部の理科系の3学科があって、そのまま同キャンパスにとどまり3、4年次そして大学院までの専門課程が学べる。その定員は約100人。学生は4年次後期から各研究室の配属になって、卒業研究に励むこともできる。

したがって鹿児島先生の研究室でも4年次の学生が毎年配属になるのだが、その定員は上限2人だという。非常に狭き門だが、だれかこの難関に挑んでみないか……。

こんな生徒に来てほしい

なぜ”という疑問のもてる人を大歓迎します。これが物理学を学ぶ基本的精神になります。それに自分の特徴をもっている人ですね。頭脳と馬力、それに伝達能力――この3つのうちのどれか1つでいいですから、自分の特徴を自覚している人は物理学の研究に向いていると思いますね。

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