- 藤江 正克 教授
- 早稲田大学
理工学部 機械工学科 藤江 正克(ふじえ・まさかつ)教授
1945年、神奈川県生まれ。71年早稲田大学大学院理工学研究科修士課程修了。同年、日立製作所に入り、一貫してロボット研究に従事。同社のロボット開発グループを率いる主任研究員となる。慣性力を利用して足を動かす新方式の発明者としても知られる。90年には、省エネ型4本足ロボットの開発に成功した。
藤江先生のHPはコチラhttp://www.fujie.mech.waseda.ac.jp/
ロボットの登場で劇的に変わる医療・福祉の現場

- 手術用ロボットを研究していた川村和也さん 写真手前にあるのがロボットのアーム
藤江正克先生の専門は、メディカルメカトロニクスである。この名前をはじめて聞く人も多いだろう。メカニクス(機械工学)とエレクトロニクス(電子工学)とメディカル(医療)が融合した複合技術を指すものだ。この分野のなかで先生がとくに力を入れているのが、医療や福祉で使うロボットの開発である。
同じ病気でも、個人の体質によって症例は変わってくる。介護の必要な老人なども、日によって状態が違う。このマニュアル化しくにくい医療や福祉の分野で、はたしてロボットを使うことができるのだろうか? そうした疑問に、先生はにこやかに答えてくれた。
「ロボットはあくまでも助手ですから、結論を下すのは人間です。助手のロボットが優秀になれば、人間の負担は軽くなります。たとえば手術用のロボットが開発されれば、高度な手術の前に行なう簡単な処置をロボットに任せることができます」
難しい手術ともなれば、10時間を超えることも少なくない。しかし、長時間の集中を持続することは医師にも大きな負担となる。それゆえ難しい執刀以外をロボットが代行できたなら、医師は最難関の手術だけに集中できる。
しかも現在のロボットは、一般人の常識をはるかに越える作業精度を誇っている。手術用のロボットなら10ミクロンの動きまで制御できるというのだ。髪の毛の太さが約100ミクロンなので、髪の毛を縦に10等分できる制度をもつことになる。
「10ミクロンは、だいたい人間の細胞ぐらいの大きさですから、がん細胞と正常な細胞を見分けられれば、がん細胞だけを切り取ることも可能になってきます」 と、先生は語る。
さらに手術にロボットを使うことで、医療記録を正確に残せるというメリットがあるという。どの医者がどんな指示を出し、患部がどのように処置されたのか、画像を含めてすべてのデータが残る。もちろんロボット自身のミスも、隠されることなく正確に記録される。
医療ミスやその後のデータ改ざんなどが問題となっているだけに、データが確実に残るロボットの導入は、患者に大きな安心感を与えるだろう。
こうした現状を聞くと、すぐにでもロボットを実用化してもらいたくなる。しかし、その開発は一筋縄では行かないようだ。
物理や数学の新しい理論構築がロボットに人間の感覚を与える

- 福祉用の歩行支援ロボットと研究室の黒子詩穂さん。歩きたい方向にかかる微妙な力を察知して動くすぐれものロボットだ
「医療や福祉のロボットが扱うのは機械部品ではありません。柔らかくて一人ひとり個体差があり、状況によって形状などが変化する人間です」
「実際の手術では、医者が患部を手で確認しながらメスを入れていきます。そのとき重要になってくるのが、しこりがあるとか、こりこりしているとか、ごろごろしているといった感覚です。ところが、そうした感覚をロボットに読み込ませるのが容易ではありません」
ロボットがコンピュータで制御されている以上、ロボットへの指示は計算式で表わさなければならない。人間同士で感覚を教えるなら、実物を見せればよい。しかし数式で示すとなると、問題がややこしくなる。
現在の物理学にも、人間の感覚を数式化できる基礎はあるという。たとえば、柔らかいバネと固いバネの違いを数式で示すバネ乗数などだ。摩擦を数式化した摩擦係数なども、その一例だという。
しかし時間や速度など物理的概念で組み立てられた数式と、実際の人間の感覚には大きなズレがある。そのため物理学が想定していない次元で数式化しなければならない。つまり物理学や数学で、新しい世界を切り開きつつ、ロボット開発を進めなければならないのである。
国際競争の最前線にいる研究室

- 機械系の研究室にしては珍しい、雑菌を入れないようにするクリーンベンチ。医療用ロボット開発のため、ブタの内臓なども保管されているという
そうした状況に直面している先生が不安に感じているのは、高校での教育内容だという。
「考えない暗記だけの勉強では、現在の研究に対応できる能力が育ちません。もちろん知識は必要ですが、それだけでは新しい技術を開発できません。考える力を身につけてほしいのです」
医療・福祉のロボット開発は、世界各国が将来の主導権を握るべくしのぎを削っている。将来、膨大な需要を見込めるこの分野で、どの研究チームが覇権を握るか、激しい国際競争が繰り広げられているからだ。
ただし現状は、各国が横一線。
工業用ロボットで世界最高水準を誇る日本も、もちろんその第一列にいる。そして日本の将来を担う研究として21世紀COEプログラムにも選ばれた藤江先生の研究室は、その最前列に立っている。
未来を大きな影響力を与えるだけに、ぜひともお勧めしたい研究室のひとつである。
こんな生徒に来てほしい
伸びてくれる学生、いまよりも先に期待できる学生がいいですね。いろんなことに興味をもち、まわりの人に惑わされないで熱中できる人でしょうか。自分のやりたい道に進むのは不安も多いでしょう。しかし、不安があっても夢中になれる学生は研究の分野でも伸びていくと思います。

