- 真壁 利明 教授
- 慶應義塾大学
大学院 理工学研究科 総合デザイン工学専攻 真壁 利明(まかべ・としあき)教授
1947年神奈川県生まれ。75年慶應義塾大学大学院電気工学専攻博士課程修了。84年慶應義塾大学工学部電気工学科助教授。91年同教授。96年より現職。2000年POSTECH(韓国)客員教授。主な著作に『Advances in Low Temperature RF Plasmas』『Gaseous Electronics and Its Applications』(ともにオランダの出版社より刊行)、『プラズマエレクトロニクス』(培風館)などがある。
真壁先生のHPは、http://www.mkbe.elec.keio.ac.jp/
または、http://www.COEe.keio.ac.jp/
プラズマによる電子デバイス技術研究の第一人者

- 真壁研究室のある理工学部25棟

- 初春の慶應義塾大学矢上キャンパス
「私の学生指導はかなりきびしいことで評判なんですよ」
慶應義塾大学理工部学電子工学科教授の真壁利明先生は、開口一番にそう語った。失礼ながらその風貌からして、その逆鱗にふれるとちょっと怖そうな先生ではある。取材も緊張の中やや及び腰で始まった。
「学生の資質を引き出し、十分な力をつけるためには、中途半端な接し方ではいけませんからね。自分から進んで学習する気構えを育ててやりたい。学生のほうもきびしさを覚悟して私の講義に出て、研究室に入ってくるようです」
真壁先生の専門は、プラズマによる電子デバイス加工技術の研究で、この分野の第一人者である。
「プラズマにも種類がありまして、私の場合は非平衝プラズマによる半導体(超LSI)の微細加工(ナノスケール)について、ボルツマン方程式を基礎にして研究しています」
いま半導体の加工(デザイン)は超微細な領域に入っている。真壁先生は、そのプラズマと加工用CAD(VicAddress)の開発で世界を先導している人なのだ。
「これは、原子・分子物理の基礎から電磁気学とボルツマン方程式までを使って、自然にプラズマプロセスがデザインできるツールです。LSIのデバイス要素はナノスケールの世界に入っていますから、この要素が微細加工時に破壊される電気的・熱的問題を抱えています。そのダメージからフリーで、エッチング加工までができる知的なCADといっていいかと思います」
現在VicAddressは産業界に技術移転(テクノロジートランスファー)され、これをツールに、次世代技術開発が進められているところだ。
21世紀COEプログラムの拠点リーダー

- 真壁研究室のWEBページの一こま
真壁先生には「21世紀COEプログラム」の拠点リーダーという肩書きもある。COEプログラムというのは大学の優れた研究教育拠点を文部科学省が支援する制度で、真壁先生がリーダーを務めるのは「アクセス網高度化光・電子デバイス技術」プログラムである。
「20世紀は原子分子の世紀として誕生し、学問分野の専門細分化が進みました。21世紀はこれら知的資産を学際的に連携融合させて、新たな相乗効果を生み出す時代ではないかと思います。このプログラムはデバイス技術と通信ネットワーク技術を連携融合させた世界的に見て稀有な研究教育拠点で、慶應義塾大学・理工学研究科の情報・電気・電子分野にまたがる世界的な研究者が動員されています」
30名近くの博士課程学生もCOE研究員として雇用され、海外拠点大学から頻繁に研究者が訪れる環境のなかで、世界を先導する最先端の研究プロジェクトが行なわれている。
「研究拠点のプロジェクトは大きく3つあります。まず1つは超LSIの無線配線。現在の超LSIのネックはシグナル伝達の遅さですが、すでにチップ加工は物理的限界に来ていますので、この解決を図るためには信号を電波で飛ばすしかありません。つまり、超LSIを無線で配線しようという試みです」
「2つ目は通信分野の研究で、大口径高速プラスチック光ファイバー、あるいは次世代の照明といわれているLED(固体発光素子)を使った通信網の開発研究です。これが完成しますと、東京にいながら九州にある病院でロボット手術(遠隔操作)などが可能になります。リアルタイムに情報の受け渡しができるようになるからですね」
「3つ目は光デバイスの研究。現在のLSIはシリコンでつくられていて、電子デバイスの時代といわれています。これに代わるのが光デバイスで、その光デバイスとネットワークについての研究開発です。この3つを重点プロジェクトにしています」
LSIの無線配線やロボットの遠隔操作など素人には夢のような話だが、まさに時代を先取りする研究の数々である。
大学院生の国際会議出席はほとんど義務化
真壁先生自身も慶應義塾大学理工学部(当時は工学部)の出身だが、同学部には非常に多様な学びのスタイルがある。それこそがほかの大学や学部にはない魅力だと語る。
「最近の学生は非常に多様になっています。この学部ではそれに合わせて多様な学び方のスタイルが用意されています。学部には飛び級の制度がありますし、学部4年次から大学院の講義が受講できて単位に認定されます」
「さらに、大学院(理工学研究科)は修士課程を1~1・5年で修了し、最短3年で博士号が取得できるようにもなっています。それぞれの学生が自分で学ぶスタイルをデザインできるわけです」
理工学部に用意されている学科は11ある。どの学科も定員を100人前後に押さえ、すべての学生に教員の目が届くようにという配慮がなされ、それも大きな特徴だという。
同学部では4年生に進級すると同時に、各教員の研究室に所属して卒業研究に励む。真壁研究室でも例年4~5人の学生を受け入れている。
「最近は大半の学生が大学院まで進みます。私の研究室は博士課程学生5名、修士課程学生10名の総勢20名程度で運営しています。4年生にはプラズマ分野の基礎をじっくり学んでもらうことにしています。本格的な個々の研究は大学院に入ってからになります」
「大学院生には、国際会議で研究発表するなど海外に出る機会を多くつくるようにしています。費用はもちろん私が用意します。我々がやっている学際的・先端的な研究は海外との競い合いですから、井のなかの蛙になってはいけませんからね」
大学院生の国際会議出席はほとんど恒常化しているそうだ。
ところで、冒頭で真壁先生は怖そうな先生だと書いた。取材を進めていくうちに、その見かけとは裏腹に非常に誠実かつ熱心な人柄であることがわかってきた。学生にはきびしいというのも、教育的熱情の表れのようだ。
「私は、毎朝なるべく早く研究室に出るようにしています。始業前の短い時間ですが、学生たちと談笑するのが日課です。研究室のメンバーはもちろんですが、学部の学生でも愉しみに来てくれる人がいます」朝の一時、教授を囲んで研究や人生について語り合う学生たち……。いい情景である。
これまでに真壁研究室から16人もの博士が誕生しているというが、そんな朝の語らいからも誕生につながっているのだろう。まさしく名伯楽でもある。
こんな生徒に来てほしい
いまの時代「学生たるものこうでなければいけない」というものはありません。柔軟で前向きな人であればいいと思います。なにも知らなくてもいいですから、前向きであること。それに、私がパートナーにしてみたいと思わせるような人がいてくれたら、さらに嬉しいですね。私は常にこんな学生たちから学んで、ともに学び合うパートナーシップを築いています。

