- 矢作 裕司 教授
- 芝浦工業大学
工学部 機械工学科 矢作 裕司(やはぎ・ゆうじ)助教授
1965年東京生まれ。87年明星大学理工学部卒。94年慶應義塾大学大学院理工学研究科博士課程修了。94年芝浦工業大学工学部専任講師。03年米・南カリフォルニア大学客員教授。04年より現職。
主な著作に『Dynamics of Heterogeneous Combustion and Reacting Systems』『Turbulence and Molecular Processes in Combustion』(いずれも共著・米国で出版)がある。
機械工学研究は超凝り性人間の天職

- 矢作研究室のある南西校舎
芝浦工業大学はJR田町駅から徒歩3分という好立地にあって、学校創立が1927年という私立工業大学の伝統校として知られている。
矢作裕司先生は1年間の米国大学での客員教授の任務を終え、2004年4月から芝浦工大に復帰した。工学部機械工学科で教える気鋭の助教授で、しかもスポーツ万能。まさに都会派のスマートな先生だ。矢作先生の専門は「熱工学」「燃焼工学」「航空宇宙工学」「流体工学」「伝熱工学」と幅広い。いま研究の中核にしているのは反応性流体力学だという。
「私がいま研究しているのは、燃焼によって動力エネルギーを得る基礎的研究になります。研究の柱にしているのは希薄乱流混合火炎についてで、自動車に代表される直噴エンジン内の燃焼(予混合燃焼)のメカニズムを調べています。自動車のエンジンなどをつくるための基礎データになる研究ですね」
たとえば熱効率を保ちながら燃料をどこまで希薄にできるのか、あるいは有害排出ガスをどこまで低減できるかなど。それらの研究データは、いま注目の省エネ環境型エンジンなどに応用されていくことになる。
省エネ環境型エンジンが地球を救う

- 田街キャンパスの全景
「地球に埋蔵されている化石燃料のうち、すでに約半分は人類によって使われてしまっています。このままのスピードでエネルギー消費が進めば、化石燃料が枯渇するのは時間の問題です。我々は次の世代の人々に対して、このままでいいのかという認識が必要です」
「人間1人が消費するエネルギーの量は、太古の恐竜に置き換えると体重40トンの恐竜にも匹敵するというデータもあります。ほかの生物にくらべて、人間がいかに地球環境に負荷をかけているのかが分かるでしょう。まず今やらなければならないのはエネルギー消費量のダイエットなのです」
矢作先生は自らの研究のバックボーンについて熱っぽい口調で語ってくれた。より燃費効率のいい燃焼メカニズム、そして排ガスをよりクリーンにするシステム――それらは地球上に生息する全生物の存亡を懸けた研究ということにもなるのだ。
現在先生が手がけている研究のひとつにコンバインドサイクルの研究がある。これは1次燃焼によって排出されたガスを2次燃焼の燃料に用いて、さらにその排ガスを3次燃焼に用いるという燃焼を循環させる新システムの研究だ。 このコンバインドサイクル方式によると、従来の熱効率約20%だったものが50%以上にまで引き上げられ、しかも排出ガスのクリーン化も大幅に図られるという一石二鳥の画期的なシステムである。すでに高層ビルや大規模な集合住宅において一部実用化が始められているともいう。
また予混合燃焼の研究のほうでは、無重力空間つまり宇宙空間での燃焼実験にも入っている。03年度の米国大学客員教授赴任もこの研究もまさにこれが中心であった。
ただし、こちらの研究のほうは将来どういう分野に応用されるのか、先生自身もまだよく分からないといって笑う。時代を超えて、はるかに先を行く研究なのかもしれない。
研究室に入ったら教員も学生もない

- 芝浦工大本館校舎の正面
芝浦工業大学で学生が各教員の研究室に配属になるのは、3年次の後期からである。矢作研究室においては、3年次の学生はエンジン模型の組み立てなどベーシックな理解から始めて、4年次から予混合燃焼を中心にそれぞれのテーマを立てて卒業研究に向かう。
「学生にはまず好きにやらせてみることを第一にしています。そのために100万円以上もする実験装置が壊されたこともありますよ(笑)。しかし、それを恐れていては学生たちが成長しませんからね。失敗から学ぶことも多いと考えて自由にやらせています」
多少とも機械工学の実験には危険が伴う。そのリスクについては、徹底した周知を図っているという。いまだに1件の人身事故も起こしていないのが矢作研究室の自慢でもある。
芝浦工大の学生には総じてまじめで素直な人が多いという矢作先生だが、そんな学生たちへの指導方針については次のように語る。
「研究室に入ったら教員も学生もないというのが私の考えです。学生との違いは、僕のほうが多少経験と知識があるくらいで、研究のアイデアを出す機会は公平だと思っています。ですから学生の発言には真剣に耳を傾けますし、説明を求められれば本人が納得するまで説明してあげるようにしています」
もうひとつ、矢作研究室の特徴として外国語の習得に力を入れていることがある。これからの機械工学では外国語とくに英語は必須のスキルというのが先生の持論だ。
「英語は、コンピュータが使えるのと同じくらい当たり前のリテラシーになっていますから」
先生はこうキッパリ語った。矢作研究室の学生はかなり鍛えられることは間違いなさそうだ。
ひとつずつ壁をクリアしていく楽しさ

- 矢作研究室のゼミ生菅原君
見るからにシティ派の矢作先生は、また非常な多趣味の人でもある。得意な料理からはじまって、スカッシュ・スキー・スノーボード、そしてとくに腕に覚えありというスポーツドライブまでとにかく多彩だ。そのどれもが教室などには通わずに独習で身につけたそうで、要するに凝り性なのであろう。
その性格が機械工学への道も開いたようだ。高校生のときには壊れたバイクを買ってきて、半年かけて英語のマニュアルと首っ引きでバラバラにして直してしまう。 そんな超凝り性の矢作先生が語る機械工学の魅力とは――。
「機械工学でやっていることは単純なことです。とても単純なんですが、また矛盾もいっぱい抱えています。そこが面白いですね。計算上では単純なことでも、実際に実験をしてみると計算どおりにはいかない問題点がいくつか出てきます。その壁をひとつずつクリアしていくのを楽しめるかどうか。そんな問題点のなかに思わぬ発見があって、それが新たな研究につながったりもします。それも面白いところですね」
いかにも機械工学研究や実験が楽しくて仕方ないというオーラにあふれている矢作先生。学生の意見に真剣に耳を傾け、納得するまで説明するという姿勢と相まって、頼りになる兄貴という感じのグッドプロフェッサーだ。
こんな生徒に来てほしい
高校生のあいだはバランスのいい勉強を心掛けてほしいですね。理工系を志望している人は、ともすれば人文社会系の学科をおろそかにしがちです。しかし理工系の学部に進んでも、研究計画を説明したり研究論文を書いたりする力が決定的に必要になってきます。
それに今という時間を大切にしてほしい。若いときの1時間は30代・40代の1時間とは意味が違います。現役で失敗しても浪人すればいいと簡単に考えないで、何が何でも現役合格するんだという気構えで受験したほうがいい。若いときの時間は貴重です。

