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Good Professor

高橋 則夫

高橋 則夫 教授
早稲田大学
法学部 法科大学院

高橋 則夫(たかはし・のりお)教授
1951年東京生まれ。75年早稲田大学法学部卒。84年同大学院法学研究科博士後期課程単位取得修了。84年東洋大学法学部専任講師、以後、助教授・教授を歴任。その間89~90年マックス・プランク外国・国際刑法研究所(ドイツ)留学。96年早稲田大学法学部教授。04年早稲田大学大学院法務研究科・法学部教授。

『共犯体系と共犯理論』『刑法における損害回復の思想』『修復的司法の探求』(いずれも成文堂)など著書多数。高橋研究室および学部ゼミのWebアドレスはhttp://members.my.home.ne.jp/norio-waseda/

修復的司法(正義)のパイオニア的研究

高橋先生の研究室のある本部1号館
高橋先生の研究室のある本部1号館

2004年4月、全国の主要大学で法科大学院(ロースクール)が発足した。約6000人の法科大学院生が誕生し、3年間の修学をスタートさせた。早稲田大学の法科大学院でも300人ほどの大学院生を迎え、法曹界などへの新たな人材育成をめざした教育が始まった。

早稲田大学教授の高橋則夫先生は法学部教授であると同時に、早稲田大学大学院法務研究科の教授でもある。まず、いま注目の法科大学院について聞いた。

「法科大学院ができたことで、法学部の学生が落ち着くのではないかと期待しています。これまでの早稲田法学部の学生の多くは、入学すると同時に司法試験をめざして予備校に通うという実情もありましたが、これで法学部本来の勉強をゆっくり学べるようになるのではないでしょうか」

法科大学院が始まったことで、法学部のカリキュラムや制度にも変更が加えられ、学部学生が腰をすえて法学に取り組む体制が整えられたという。一方、法科大学院が始まって1ヵ月の印象については次のように語る。

「熱心な院生が多くて非常に活発です。たぶん院生がいろんな世代で構成されているからですね。20代から50代までの人がいますから、たがいに影響し合って授業が活発になっています。3年後に送り出す人材には期待大ですね」

司法制度の不備をうめる修復的司法研究

多くのゼミ生に囲まれる高橋先生
多くのゼミ生に囲まれる高橋先生

法科大学院まずは上々の滑り出しということだ。さて、高橋先生自身の専門は「刑法」である。いま研究テーマとしているのは「犯罪論の基礎理論」と「修復的司法」。まず、犯罪論の基礎理論のほうから説明してもらおう。

「いろいろな行為について、それがどんな犯罪に該当するかを具体的に研究していきます。法曹の現場ではとくに検察官や裁判官がしている仕事ですが、それに刑法学から判断基準を与えようとする学問です。犯罪をいくつかのカテゴリーに分類して、体系を組み立てる研究ということになります」

この研究分野は古くからあり、じつは研究者数も多い。高橋先生の研究のもうひとつの柱は修復的司法であり、この分野での日本における第一人者なのだ。修復的司法とは、分かりやすくいえば犯罪に関わる被害者・加害者・コミュニティの再生の問題のことを指す。

「80代末にドイツの研究所に留学しているときに、この問題に遭遇しました。当時のドイツでは、犯罪被害者の問題について盛んに論じられ研究されていました。私もそれに興味を覚えて研究しました。ちょうど日本に帰ってきたらこの問題が浮上して、社会的な関心を呼ぶようになってきたのです」

犯罪被害者そして犯罪者の人権をどう保護するか

キャンパス内にある大隈庭園でくつろぐ学生たち
キャンパス内にある大隈庭園でくつろぐ学生たち

以来、高橋先生は修復的司法のパイオニアとして、日本でのこの研究分野の先頭に立つことになる。

不況型の都市型犯罪や外国人による犯罪などでこの国の世情は騒々しいが、じつは凶悪犯罪の件数自体は減少傾向にある。しかし、一部カルト団体や未成年者による昨今の凶悪犯罪をめぐり、加害者の人権保障と犯罪被害者の人権をめぐる議論はいま最も関心呼ぶ話題となっている。

「現行の日本の刑事裁判制度の特徴を簡単にいえば、加害者を国が罰するだけの応報的司法です。これは国と加害者の二者の関係だけで成り立ち、被害者やコミュニティの問題は無視されてしまいます」

「さらに刑期を終えてからの社会復帰の問題、その加害者が戻ってくるコミュニティの問題などはほとんど手付かずのままです。この、被害者・加害者・コミュニティという3者の問題をきちんと解決しなければ、犯罪が本当に解決したとはいえないのではないか。そうしたことを考えるのが修復的司法となります」

高橋先生は、そのための制度づくりのため模索しつづける。修復的司法の先進国といわれる各国の例を参考にしながら、日本の国民感情になじむ理想的なかたちを求めて研究に励んでいる。

「犯罪にかかわったすべての人で解決を図るのが修復的司法制度の理想です。実際にそれを制度化している国もあります。しかし、犯罪者を糾弾するだけのリンチの場になりかねない要素も含んでしまいます。日本ではどう展開するべきか、非常にむずかしい問題です」

修復的司法の第一の意義は犯罪被害者をどう保護するかにある。国民的関心も高まりつつあり、それを軸に早急に展開していきたいと語る。

刑務所の現実からスタートする刑法研究

高橋先生は法学部の教授でもあり、学部のゼミも担当している。対象は3・4年次の学部学生で、高橋ゼミでは毎年40人もの学生の参加があるという。ゼミの運営進行は学生に任され、年間スケジュールから毎回の討議テーマまでが学生たちで決められる。

「私は見ているだけなんですよ」

そう言いながら、先生は楽しそうに微笑んだ。犯罪論・死刑問題などこの国の刑法をめぐる危急の諸テーマ全般にわたるその自由な討議は、毎回非常に活発らしい。また高橋ゼミの特徴として、毎年刑務所の実地見学をしていることがある。この刑務所見学は学生たちに強烈なインパクトとなって残るようだ。

「はじめて入った刑務所の現実にたいていの学生はまずショックを受けますね。ふだん教室で犯罪だ刑罰だと盛んに論じていても、実際の受刑者にはほとんど接したことがないわけですから。生身の受刑者の姿を目の当たりにして、畏れのようなものも感じるようです」

実際の学生たちの反応はさまざまだ。いまの刑務所の環境で本当に更生・社会復帰できるのか、もっと厳しい処遇が必要ではないのか、出所後の社会生活につながる訓練をもっと施すべきだ――など感想は百出するという。

いずれにしても生身の受刑者に接することで、ほとんどの学生が「人を裁く」ことの重さを実感することになる。学生たちには本当に貴重な経験になっているようだ。

「刑務所の見学を経験して、それまで抽象的だった刑罰への観念が具体的なものに変わるのでしょうね。あらためて法律・刑法を学ぶことに目覚めるというか、そういう感想をもつ学生は実際多いですよ」

最後に、刑法を研究することの意義について高橋先生は次のように語ってくれた。

「刑法というのは生の犯罪事件を扱います。ある意味では、ドロドロとした生身の人間性が出てきます。それが民法や商法の研究にはない面白いところです。犯罪に対するとき人はまず自分の感情から入りますから、非常に身近なものに感じられます。その感情を根底に置きつつも、その上に理論を積み上げていくわけです。ですから、どこまでも興味の尽きない研究分野なんですね」

刑法学者というと威厳高く厳めしいイメージがあるが、高橋先生はいかにも優しくて温かい人柄とお見受けした。

その人間的なやさしさは、この国の司法制度の最大の弱点ともいえる修復的司法に深い関心を寄せることにもつながっているのだろう。犯罪被害者はもちろん、犯罪を犯してしまった者にすら優しいその視線は向けられているように感じた。

こんな生徒に来てほしい

高校生のみなさんには、「何になりたいか」より「何が好きか」を考えてほしい。あまり早い時期から「自分は弁護士になる」などと決めつけるのは感心しませんね。そんなことは、大学という環境のなかで自分を見極めてから決めればいいことです。

さらにいえば、自分で考え抜く習慣を身につけてほしいですね。自分で考える前に他人の意見ばかり求める学生が多すぎるような気がします。自分で考えて自分で決めていく。そのほうが楽しいじゃないですか。

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