- 澤田 康幸 助教授
- 東京大学
大学院 経済学研究科 現代経済専攻 澤田 康幸(さわだ・やすゆき)助教授
1967年兵庫県生まれ。90年慶応義塾大学経済学部卒。92年大阪大学大学院博士前期課程修了(経済学)。94年東京大学大学院修士課程修了(国際関係論)。99年米スタンフォード大学博士課程修了。99年東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻助教授。02年より現職。主な著作に『国際経済学』(新世社)がある。
開発経済学こそが貧困問題解決のための最強ツール

- 澤田研究室のある本郷キャンパス経済学部棟
東京大学経済学部。言うまでもなく、経済学の基礎理論から実証的探求までの学界のトップ学部だ。ここの教壇に立つ澤田康幸先生は、若き経済学者にして東大経済学部の人気ゼミを担当している。
澤田先生のいまの専門は「開発経済学」「応用ミクロ計量経済学」「応用マクロ経済学」。といっても、この3つの専門は分断されているわけではなく、自身の研究の中ではひとつのものだと語る。
「私の研究は開発経済学が中心です。これは発展途上国の経済を分析する研究分野で、こうした国々が貧困に陥っている社会構造を解明し、そのうえでそうした国々が経済発展を遂げるための有効な政策を考えるものです。その構造解明や政策研究に必要なのが、ミクロ計量経済学でありマクロ経済学の分野となるわけですね」
先生はそうした発展途上国に赴いて、フィールドワークでは実際の家庭の中にまで分け入って現地調査も行なう。
「これまで南アジアや東南アジアの国々、パキスタン・スリランカ・フィリピンなどで調査をしてきました。現地研究者の協力も得ながら、1軒1軒の家庭をまわって、その家計から教育状態・支出・栄養状態などを調べています。ひとつの調査地に2ヵ月くらい張りつくこともあって、人類学のフィールドワークにも近いところがあります」
途上国調査で見えてくる21世紀的貧困

- 97年にパキスタンの家庭を調査中の澤田先生
そう言いながら微笑む澤田先生。現代経済学の研究といえば難解な経済理論と数式を扱う抽象的世界ととかく考えがちだが、丹念に経済の現場を探っていくような研究分野もあるのだ。
こうした地道な現地調査で見えてくるのは、貧困が 21 世紀の子どもたちの上に影を落としている実態なのだという。ストリートチルドレン・児童労働・人身売買……。
「これに似た状況は、かつての日本や韓国など東アジアにもありました。しかし、いまや日本も韓国も目覚ましい経済発展を遂げました。その発展過程をモデルケースにして、途上国の政策に生かせないかと考えています。ただ日韓両国のケースは特異すぎて、そのまま現在の途上国に当てはめられないところもありますから、むずかしい問題でもあります」
今後も世界銀行など国際機関とも連携しながら、さらに世界中で現地調査を進めたいと抱負を語る。
他学部の東大生も聴講に来る人気ゼミ犯

- 東大のシンボル赤門。経済学部棟は入ってすぐのところ
取材中の先生は終始にこやかで、非常に親しみやすい人柄とお見受けした。それもあって、有意の東大生たちが集まってくるのだろう。学生たちへの指導方針については次のように語る。
「私の役割は、無味乾燥に一見みえる経済学の最新の理論や数式が現実の途上国の経済開発にも有効に使えることを伝えることにあると思っています。また、開発の問題に将来関わっていきたいという学生には、どのようなキャリアパスがあって、どのような学習をしていけばいいのか、私の経験もふくめてアドバイスしてあげることも必要だと考えています」
開発経済を研究する魅力については、机上の空論で終わらないところだと澤田先生は目を輝かせる。
「開発経済学を駆使するとき数理モデルを使って理論を立てますが、それが現実にどのくらい妥当性があるのかが常に統計的に検証されます。このように理論の実証分析が必ず行なわれ、机上の空論でまず終わらないところが開発経済学の最大の魅力でしょうね」
「現実の生きた社会問題を扱うわけで、なかには緊急に解決しなければならない問題もあって、精神的にも肉体的にもかなりの負担になります。でも、そこがまた面白いところでもあるんです」
あらゆる経済理論を動員するダイナミズム
開発経済学には、ありとあらゆる最新の経済理論が動員される。そのダイナミズムも魅力だという。
「一国の開発経済には貧困の削減や教育水準・衛生状態の改善といった問題のみならず、政府財政の健全化や対外債務返済・為替レート安定化・貿易促進・産業育成・都市人口集中などさまざまな問題が山積しています。それらの解決を図るためには、マクロ経済学をはじめミクロ経済学・ゲーム理論・情報の経済学・公共経済学・国際貿易論・国際金融論・産業組織論・金融論・農業経済論、さらに計量経済学までもが動員されることになります」
「これらの分野すべてに精通するのは相当に大変なことで、『広く浅く』やっていくか、あるいは『狭く深く』かというのが開発経済に携わる研究者のジレンマにもなっています。一方でチャレンジのしがいもあるわけで、それがやりがいにもなるわけですね」
実際、開発経済問題に関心を示す学生は多いが、経済学理論のすべてを学んでいくという困難さにためらう人もまた多いという。そこで、澤田先生はこう熱弁を語る。
「途上国問題といいますと、人気の国際関係学部とか国際協力学部などで学ぶ学生も多いと思いますが、経済学部で学ぶメリットも大きいといえます。たとえばアフリカでいま深刻なHIV/AIDSの問題の解決には、先進国の民間企業による既存の薬剤の特許をめぐる経済計算や新薬の開発の経済的動機づけが重要となりますので、経済学的な思考は不可欠です。途上国の貧困地域に援助物資を届けようとしても、そこには受け入れ国政府の政治家や役人、物資の受け手の経済的な計算が常にかかわって来ます。そうした現実的な問題の解決や折り合いのつけ方に最適なツールがまさに経済学なんですよ」
国際ボランティア・国際貢献・人道的援助――こうした耳ざわりのいいある種先進国的なスローガンをただ弄んでいるだけでは、なにも効果的な施策は実行されない。国際社会から尊敬される評価もなされない。ありがちな観念的な開発援助から脱却して足が地についた実行力のあるものにするには、経済学の視点をもつことが決定的に重要なのだ。
「すでに日本は、世界最大の援助国のひとつになっています。援助規模が大きいわりには、実務・研究レベルでの人材や能力の慢性的な不足も指摘されています。この分野で若い日本研究者や高度な知識をもつ専門家が活躍できる場は相当にありますよ」
まだまだ若い澤田先生だが、あとに続く若い仲間たちを待望している――。
こんな生徒に来てほしい
いまの日本は非常に豊かな面がある一方で、社会的な動脈硬化を起こしているという側面があります。そんな中いま何をすべきなのか迷っている高校生諸君も多いと思います。世界の貧困問題に関心があって、その解決に貢献したいんだけど、どうやっていいのかよく分からないという高校生には、ぜひ経済学を学んでほしいですね。いまも昔も貧困問題の解決こそが経済学の主要な課題であって、金もうけのための学問なんかでは全くないことをぜひ知ってほしいですね。

