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Good Professor

船曳 建夫

船曳 建夫 教授
東京大学
大学院 総合文化研究科

船曳 建夫(ふなびき・たけお)教授
1948年東京生まれ。72年東京大学教養学部教養学科卒。77年同大学院社会学研究科文化人類学専門博士課程単位取得退学。82年英ケンブリッジ大学大学院考古・人類学部社会人類学科博士号取得修了。83年東京大学教養学部講師。85年同助教授。94年より現職。

主な著作に『知の技法』(共編著・東京大学出版会)、『新たな人間の発見』(共著・岩波書店)などがある。

文化人類学の手法で世界を読み解く

船曳研究室がある駒場キャンパス14号館
船曳研究室がある駒場キャンパス14号館

東京大学大学院の船曳建夫教授は、テレビ報道番組のコメンテーターや教養番組の講師としてもおなじみの先生だ。著作も多く、大学生のバイブルともいうべき共編著の『知のシリーズ』4部作は総計で100万部に迫るベストセラーだという。マルチな才能を生かして大活躍の船曳先生だが、ここでは本来の大学教授としての姿を紹介してみたい。船曳先生の専門は「文化人類学」である。

「人間の文化と社会の仕組みを考えるのが文化人類学です。個人の生活を中心とした小さな世界から、人類全体の大きな世界までの社会と文化を研究するものですね」

文化人類学研究にはフィールドワークが伴う。これまでに先生自身も、日本国内(山形県)はもとよりポリネシア(ハワイ・タヒチ)やメラネシア(パプアニューギニア・バヌアツ)・東アジア(中国・韓国)など世界を舞台に現地調査を行ってきた。

コミュニティーと個人のあり方を探る

駒場キャンパス正門
駒場キャンパス正門

「私の調査はコミュニティー・スタディーというフィールドワークになります。それぞれのコミュニティーにおける人間関係や約束ごと・取り決めなどを実地調査して、どのようにして社会やコミュニティーが成立し、そのなかで個人がどのようにして生活しているのかを分析研究していくことになります」

このほか人類に普遍的なテーマである「儀礼(祭り)」や「演劇」についての研究、農業文明から産業文明への転換の研究、幼児の味覚はいかに獲得されているかの研究なども先生のテーマとなる。

「儀礼や演劇では人間の表現行為について研究しています。農業文明から産業文明への転換過程については、日本では少子化問題がいちばん顕著な例だろうと考えています。また、幼児の味覚の獲得については私のこれからの研究課題になります」

非常に広範にわたる研究テーマの数々だが、先生にとっては興味深く関連するテーマだという。民俗学や社会科学、あるいは発達心理学などにも通じる研究課題ばかりともいえよう。ただ、船曳先生はあくまでも文化人類学の手法でそれらを読み解きたいとする。

「悲しいかな、文化人類学による方法しか知らないのです」

こう笑顔で船曳先生は〝釈明〟した。先生ほどの人物にして、新たな研究テーマに向かう姿勢はひたむきそのものなのだ。

専門課程の講義そのものがゼミ演習

駒場キャンパスのイチョウ並木
駒場キャンパスのイチョウ並木

東京大学の教員は原則的に大学院に所属し、大学院生への指導とともに系列学部の講義やゼミ受けもつスタイルをとっている。船曳先生も総合文化研究科の超域文化科学専攻所属というのが正式の肩書きだが、わかりやすくいえば教養学部教授ということになる。

東京大学の全学生は前期2年間を駒場キャンパスの教養学部で学ぶ。そして後期3・4年次の2年間は本郷キャンパスなどの各学部に分かれ、それぞれの専門課程を学ぶ。しかし実は教養学部にも専門課程6学科が用意されていて、3・4年次も引き続き教養学部で学ぶ学生もいる。

教養学部専門課程における船曳先生は、超域文化科学科の文化人類学分科の講座を受けもつ。この教養学部専門課程だが、たとえば文化人類学の講座では、所属の教員が10人なのに対して学生定員は6人。なんと、教員の数より学生の数のほうが少ない。

「ここでも3年次からゼミを取ることになっていますが、いわゆる特定の先生の元に何人かの学生が集まる形式のゼミはありません。学生が6人では無理ですし、講義そのものがゼミのように行なわれているともいえます」

さすがに東京大学は違うといったらいいか。ただ、いくら東京大学でもこれが全学に及ぶわけではない。これは教養学部専門課程6学科に限った特例である。ちなみに、船曳先生も教養学部専門課程の卒業生である。

「遊びのゼミ」こそが教育の真骨頂

新装された東京大学駒場図書館

これとは別に教養学部には1・2年次の学生を対象にした「全学自由ゼミ」というものがある。船曳先生もこちらでひとつのゼミを主宰していて、すでに20年以上続く人気ゼミになっている。

「自由ゼミのほうは何の枠もないゼミで、学生も学部に関係なく自由に参加できますから、いろんな学生が集まってきます。わたしのゼミは『儀礼と演劇ゼミ』といいますが、儀礼や演劇を本格的に研究しようというものではありません。まぁ遊びですね。いろんなことをして遊ぶゼミです。それでも単位に認定されますからね」

船曳ゼミの特徴はOB・OGの参加も許されていること。3・4年次の学生はもちろん、すでに東大を卒業した社会人もゼミの日にやってくることがあるそうだ。

「ですから、ゼミというよりは私塾といったほうが良いかもしれません。みんなで演劇を鑑賞し、旅行に行き、祭りを見物し、スポーツ観戦をします。要するに文字情報でないものを実体験して、そうしたことを通してありとあらゆるテーマについて徹底した議論を行います」

ゼミ生たちとっては、この議論がいい刺激になっているようだ。この「遊びのゼミ」こそが大学教育の真骨頂であるとも船曳先生は語る。

「このゼミは、自分の生涯を懸けてものを考えていこうという人たちのためのものです。大学に入って法律や医学など技術を学ぶ人もいてもちろん良いわけですが、大学で本当になすべきは自分の意見を総合することです。その意味で私のゼミは大学教育の基層をなしていると思います」

ゼミメンバーは各学期15人の定員で、先生自身が選抜する。最後まで残るのは半数くらいだそうで、ときには「破門」もあるらしい。遊びのゼミといいながらも内実はシビアだ。遊び半分のかかわりなど許されず、本気で遊ぶことこそが求められているのだろう。

「つくづく教育というのは不思議なもので、よくできる学生には教える必要がほとんどありませんが、できない学生に無理矢理に教えてもできるようにはなりません。我々がしてあげられることは、自ら学ぶ学生たちを見守ることだけです。学生の不安や悩みに『それはいい』『それはダメ』と言ってあげるくらいのことですね」

こんな生徒に来てほしい

疑問をいろいろ抱えながら大学に来てほしいですね。自分の疑問の幼稚さに耐えられなくなって大抵の人は自らの疑問を捨ててしまうものです。そうした幼稚で素朴な疑問、すぐには答えの出ないような疑問――それらを持ちつづけることこそが、文化人類学を学問として本気でやっていこうという人には重要になります。

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