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Good Professor

多賀 厳太郎

多賀 厳太郎 助教授
東京大学
大学院 教育学研究科

多賀 厳太郎(たが・げんたろう)助教授
1965年東京生まれ。89年東京大学薬学部卒。94年同大学院薬学系研究科博士課程修了。博士(薬学)取得。95年東京大学教養学部基礎科学科第一助手。2000年同大学教育学研究科講師。04年より現職。

主な著作に『脳と身体の動的デザイン 運動・知覚の非線形力学と発達』(金子書房)がある。

発達脳科学の世界的パイオニア

多賀先生の研究室がある教育学部棟
多賀先生の研究室がある教育学部棟

大学の教育学部といえば、教員の養成を主眼にしているところが多い。だが、東京大学教育学部には教員養成の目的はない。教育問題全般に関する研究が同学部のテーマであり、教育学・比較教育社会学・教育心理学・臨床心理学・学校教育学・教育行政学・身体教育学――の1学科7コースから構成される。今回登場願う多賀厳太郎先生は、その身体教育学コースに所属する先生である。

「このコースでは、教育を考えるうえで根本になる“健やかな身体”や“脳の発達”などについて研究しています。そのために身体教育学・教育生理学・発達脳科学・健康教育学という4つの分野からアプローチしています」

こう語る多賀先生だが、このうち先生の専門は「発達脳科学」で、とくに「1歳未満の赤ちゃんの脳の活動」について研究している。「私が研究対象にしているのは、生まれてすぐから1歳までの赤ちゃんです。いろんな刺激に対して、脳のどこが反応して活動しているのかを調べ、ヒトの脳ができあがっていく過程の変化を研究しています。 毎日のように被験者の赤ちゃんに来て頂いています」

世界唯一の研究方法で脳機能の複雑さに挑む

赤ちゃんの脳の活動の様子を示すイラスト
赤ちゃんの脳の活動の様子を示すイラスト

ヒトの脳の発達過程といえば、すでに研究が尽くされているように思われるかもしれないが、実はこの分野は人類科学の未踏の領域なのだという。つまり、多賀先生の研究が世界での端緒を開いている。

「調査としては光トポグラフィーという装置を用いて、赤ちゃんの脳内を流れる血液中の酸素化・脱酸素化ヘモクロビンの相対的な変化量を調べ、それによって脳の活動の様子を見ています。こうした研究に光トポグラフィーを用いているのは私の研究室だけですね」

世界初の研究で、しかも研究方法も世界で唯一のもの。この研究に先生が着手して5年になる。データが集まれば集まるほど、ヒトの脳機能の複雑さにジャングルのなかで踏み迷っていくようだという。

「ヒトの脳の生物的機能は、生後1年くらいのあいだに獲得されます。これはすべてDNAによって決められているわけではなく、生まれてからの環境との相互作用も大きく影響してきます。また脳の仕組みは非常に複雑で、おびただしい数のニューロンから成り立っています。そのひとつについて調べても、脳全体の働きについては分からない構造になっています。その原理にたどり着くのは容易ではないですね」

壮大かつ遥遠なその研究はその緒についたばかり。多賀先生の生涯をかけたライフワークになりそうである。その成果に期待がかかる。

人類と自分自身の出自に迫っていく面白さ

脳の赤ちゃんの人形でデモンストレーション
脳の赤ちゃんの人形でデモンストレーション

東大教育学部身体教育コースでは、いわゆる研究室制をとっていない。したがってゼミ演習はない。学部学生は各研究室を自由に行き来して、非常に緩やかな体制のなかで学ぶ。4年次学生の卒論でも、まずそれぞれが研究テーマを決め、それに合わせて指導教官が選ばれる。ときには複数の教官がひとりの学生の指導にあたることもある。そこで多賀先生の学生指導方針だが、次のように語ってくれた。

「自分は何が好きで、何が得意なのかを発見してもらうことに重点を置いています。それは自分なりの哲学をもつということなので、なるべく早い時期に発見してほしいと思います。それさえ発見できれば後は志を高くすることで、進歩につながり、オリジナリティーも生まれてきます」

「研究テーマの選定をするときは、哲学の体系や世の中の状況などいろいろなレベルから検討してみるべきです。そのうえで、世界的にも重要なテーマという確信が得られたものでなければなりません。その確信が、研究で行き詰まったときなどの強い力になります。その自覚と自分の得意ワザをセットにして研究に向かうことが、いい成果につながるように思いますね」

これは、多賀先生自らが研究に向かうときの心構えであり、また日々学生にも説いていることだ。自身の研究の醍醐味については次のように語る。

「なんといっても人間が発達していくことの本質的な理解が得られるところでしょうね。脳がどのように認知して発達するのか、これは古代哲学の時代から人類がもち続けてきた疑問で、それが科学手法を用いて現に見られるわけです。このことは、自分自身の発達の過程や自分自身の成り立ちを見ていることにもなりますから」

文・理どちらでもチャレンジできる学問分野

東大本郷キャンパスの名物スポット「三四郎池」

この知的興奮こそが、先生を人間の脳の研究に駆り立ててやまない。この分野にはまだまだ研究課題が残されており、あとに続く若い研究者にも可能性は十分にあるという。そして、多賀先生は話題を変えた。

「いま受験生のみなさんは大学受験を控えて、文系進学か理系進学かで悩んでいる人も多いかと思います。実際の受験も文系と理系に分かれています。しかし、大学以降での研究には文理の区別もなく混じり合っているものが多い。私たちの研究もそうです。ですから、身体教育学コースでは文系・理系の双方から学生を採っています。従来、ヒトについての研究は文系の学問分野だとされてきました。ところが、現在では理系の素養のほうが求められるようになっています。文系・理系の古い枠にとらわれる時代ではありませんね」

そう語ってから、先生はさらにこう続ける。

「受験する大学を選ぶにあたって、大学の名前などで選ぶ時代は終わりつつあります。これからは、どこの大学で学んだのかより、大学で何を学んだのかが問われます。ですから、自分は何に関心があって、大学では何を学びたいかで進学先を選ぶべき時代です。そのためには、各大学なり学部・学科の情報をいかに多く集めるかが重要になってきます」

専門的な知識で勝負するスペシャリストの時代――今こそその到来だと語る多賀先生だ。

こんな生徒に来てほしい

得意で好きなことがあって、志の高い人がいいです。世の中で必要とされている諸問題や哲学的に深い問題、そうした背景を理解できる人。本当に好きで打ち込みたいものがある人、あるいはそれを発見しようと努力する人にぜひ来てほしいですね。

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