- 青山 友紀 教授
- 東京大学
大学院 情報理工学系研究科 青山 友紀(あおやま・とものり)教授
1943年京都生まれ。69年東京大学大学院工学系研究科修士課程修了。69年日本電信電話公社(現NTT)入社。97年退職するまでに米マサチューセッツ工科大学客員研究員・NTT研究所所長などを歴任。97年東京大学大学院工学系研究科教授。01年より現職。主な著作に『FTTH教科書』(IDGジャパン)、『信号処理プロセッサ』(オーム社)、『光通信工学1』『光通信工学2』(コロナ社)、『ユビキタスネットワーク社会を進化させる』(偕成社)がある(いずれも共著)。
デジタル映画における世界標準規格の提唱者

- 青山(森川)研究室のある東大本郷キャンパス工学部3号館
世界的な研究者の多い東京大学にあって、大学院情報理工学系研究科教授の青山友紀先生もまぎれもなくそんな1人だ。04年10月に開催された東京国際映画祭でデジタル映画の新しい世界標準規格のデモンストレーション上映が行なわれた。この技術開発を指導し、世界標準への採用を先導したのがまさに青山先生なのだ。
「それまでアメリカ映画界ではジョージルーカス監督を筆頭にハイビジョンテレビの技術をベースとした200万画素(2K方式と呼ぶ)をデジタル映画の規格に採用する動きが主流でした。99年に公開された同監督の『スターウォーズ・エピソード1』なども2K規格です。しかし、映画館の大スクリーンに映し出す画像はもっときめ細かくなくてはならない。2Kの4倍の画素密度800万画素は必要というのが私たちの考えでした」
青山先生の目の前に課せられたのは、この考え方を理論的に追究するだけではなくシステムとして実用化することにあった。映画への実用化にあたって最大の問題は、規格をいったん変更すると撮影ばかりでなく編集や配信・上映でも規格が変わってしまうこと。そして、すべてが商業ベースの採算コストに見合うシステムでなければならない点だった。
国内メーカー数社による企業連合「ディジタルシネマ・コンソーシアム(DCCJ)」を組織した先生は、理事長として研究開発の陣頭指揮を執ってこの難題に挑んだ。そして、ついに世界で初めて800万画素の高品質を保ったデジタル映画システム「4K方式」のプロトタイプシステムを実現させた。研究に着手してから10年の道のりであった。その後02年からハリウッドはじめ欧米各地で4K方式の上映実験を繰り返し、そのきめ細かな画像は本場映画人たちをうならせてきた。そして、これがハリウッドがデジタル映画の世界標準として4K方式を採用する原動力となったのである。
2010年普及をめざすユビキタス・ネットワーク

- 深秋のある日昼休み時の東大安田講堂前
デジタル映画の世界標準技術の開発はもちろん素晴らしいが、青山先生の本領は情報通信ネットワークの研究にあり、この分野でも第一人者の地歩にある。そんな先生がいま取り組んでいるのはユビキタス・ネットワークだという。
「ユビキタスのそもそもの意味はラテン語で“神の偏在”という意味で使われてきました。この考え方をコンピュータや通信の世界に用いたのが“ユビキタス・コンピューティング”とか”ユビキタス・ネットワーク”というキーワードです。それらが普及した社会を“ユビキタス社会”を呼びます。つまり、いつでもどこでも自分に必要な情報が得られる便利で快適なネットワークサービスが受けられる社会のことをいうわけです」
ユビキタス・ネットワーク実現のポイントは「電子タグ」「センサー」そしてより「進化した携帯」の開発にあるという。この3つのデバイスを組み合わせつつ、膨大な数量のこれらデバイスを超高速ブロードバンドネットワークで結んで実現される世界こそがユビキタス社会なのだ。現在はまだ実証実験の段階だが、2010年ごろからはどんどん普及が進むらしい。
「たとえば牛肉に電子タグを埋め込んでおくと、読み取り機を近づけるだけで牛の出生地はじめ成育歴や流通ルート・品質・価格・賞味期限までたちどころに分かります。また自然界にセンサーを設置することで大気や水質の汚れをチェックしたり、地震や火山の噴火予知などへの利用も期待されます。ユビキタス・ネットワークはビジネスや企業・学校・自治体などの活動から家庭生活まで一変させることでしょう」
「正解のない世界」が研究対象だからこそ面白い
青山先生の学部教育科目は「情報通信工学」。その講義では電子情報工学科の3次の学生を教える。
大学院では「情報通信システム特論」を教える。大きな声での語り口調はゆったりとしていて、少々のことでは揺るがない先生らしい人柄をうかがわせる。自身の研究について話すときの楽しそうな表情がまたいいのである。
「電子情報工学科においては、電気工学・電子工学一般からはじまってコンピュータと情報通信の技術、コンピュータについてはソフトウエアのプログラム、情報通信の分野では携帯電話やインターネットについても学ぶことができます」
4年次になると学生は各研究室に分かれて、卒業論文のための実験や研究を行なう。青山先生の研究室(森川助教授との共同研究室)では例年5~7人の学生を受け入れるという。
「ほとんどの学生たちは研究室に入ってはじめて研究というものに触れます。小学校入学以来、勉強してきたことは常に正解があって、それを正しく答えることが要求されてきました。それが大学4年になってはじめて正解のない研究に触れる。答えが用意されていないテーマに取り組むことだから最初みんな悩みますね。でも、やっていくうちに新しいアイデアがどんどん浮かんだりして、その面白さにのめり込んでいきますよ。本当は高校生のときからこの楽しさを一度経験しておいてくれるといいんですが……(笑)」
上に立つ人と衝突するくらいではないと・・・
学生たちへの先生の指導方針はどのようなものかも伺った。
「研究や実験で新しいことを考え出すのはなかなか難しい。しかし高い山ほど征服したときの喜びは大きいもの。だからこそ、悩みながらもまだ未知の新しいことに取り組むのです。悩んで夜も眠れない時を過ごすうちに突然新しいアイデアも浮かんできます。むずかしい問題が解決したときの喜びは高い山を征服したときの喜びと変わりません。いつも学生にはそんなふうに言っています。そして、理論やシミュレーションだけで終わらせるのではなく、自分のアイデアを実際に実装しその有効性を実証してみることが大切とも教えています」
さらに青山先生は自らの研究所勤務の経験から、上司や先生と衝突するくらいの気概を持つべきとも。
「上司の言うことだけを聞いているだけでは新しいものは生まれてきません。ときには上司と衝突することも必要です。そんなことをするとイジメに遭うかもしれないが、それを乗り越えるくらいの気概がないと技術者としてリーダーにはなれません。新しい挑戦で成果を出せばたとえ上司と衝突しても認められます。上司や学校の先生など上に立つような人にはそれまでの技術のトレンドから離れてものを考えることはできないものです。技術革新とは過去の延長ではないところに生まれるのです。それは若い斬新なアイデアをもった若者がやり遂げることです。学生にはそれを期待しています」
身をもって第一線を体験し世界のデジタル界をリードする人のことばである。この青山先生の薫陶を受けるためには、立ちはだかる東大受験の高い壁を何としても乗り越えなければならない――。
こんな生徒に来てほしい
それぞれ人には得意な分野がいろいろありますから、自分の特長を伸ばすためにチャレンジしつづける気概のある人に来てもらいたいですね。昨今「理工離れ」がよくいわれますが、我々のやっている工学テクノロジーは新しいものを創設して世の中の人に使ってもらうことが喜びになります。ぜひ理工系の楽しさを理解して、多くの人に来てもらいたいですね。

