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Good Professor

井桁 貞義

井桁 貞義 教授
早稲田大学
文学部

井桁 貞義(いげた・さだよし)教授
1948年神奈川県生まれ。72年早稲田大学第一文学部ロシア文学科卒。77年同大学大学院文学研究科ロシア文学専攻博士課程修了。80年早稲田大学文学部助教授。85年より現職。

著作は『ドストエフスキー・言葉の生命』(群像社)、『コンサイス露和辞典・第5版』(三省堂)、『初めて学ぶロシア文学史』(共著・ミネルヴァ書房)など多数。

ドストエフスキーから見えてくる「同時代」

井桁研究室のある39号館第二研究棟
井桁研究室のある39号館第二研究棟

早稲田大学文学部教授の井桁貞義先生は、ロシア文学研究、とくにドストエフスキー研究における日本の権威として有名だ。

「ドストエフスキーといえば19世紀のロシアの文学者ですが、いつの時代に読んでも同時代的なリアリティーがあります。たとえば『罪と罰』のラスコーリニコフは他者とのコミュニケーションがうまく取れず、肥大化した自我にとらわれて極端な行動に走ってしまいます。この若者像と現代日本の若者像があまりに似ていることに驚かされます」

「私がはじめてドストエフスキーの作品に出会ったのは高校生のときでしたが、この作家の作品には私の考えていることがすべて書かれていると思いました。もし私が小説を書くことになれば、同じことを書くだろうと思わせる作家でした」

ドストエフスキーの小説の魅力を井桁先生はそう語る。権威といわれる先生だが、決して偉ぶるところもなく実にていねいに説明してくれた。

このほか先生の研究分野としては、現代ロシア文化・比較文化・異文化コミュニケーション論・メディア論など多岐にわたる。いずれも原点はドストエフスキーで、そこから派生したものだという。このうち、異文化コミュニケーション論については次のように語る。

「異文化コミュニケーションは国際的なコミュニケーションの重要なテーマであると同時に、隣に座る学生も異文化を持っています。あるいは昨日の自分と今日の自分も異文化であるとさえいえます。そうしたことに自覚的であれということですね」

「授業ではアップデートなテーマについて学生間でディスカッションをすることが多いです。現在では日本の小学生に英語を教える必要はあるか、日本は移民政策に踏み込むべきか、安楽死を容認すべきか――などですね」

この徹底したディスカッションで鍛えられるせいか、卒業生にはマスコミ関係に就職する人も多いという。

文学とコンピュータをつなぐオンデマンド授業

秋雨けぶる早稲田大学戸山キャンパス
秋雨けぶる早稲田大学戸山キャンパス

井桁先生は早い時期から研究および授業にコンピュータを取り入れており、実はこの分野でも第一人者なのだ。

「ドストエフスキーの小説など、聖書のモチーフが各所に散りばめられています。こうした異文化を学生たちに理解してもらうには、同じモチーフで描かれた欧州の絵画を見てもらうのが分かりやすいんですね。私のドストエフスキー論をインターネットに載せ、同時に欧州の絵画のURLにもリンクを張ることで、理解の援助になるようにしてあります」

99年秋には早稲田大学と全国8大学をネットワークで結び、早稲田大学から発信する「バーチャル講義」を9大学の学生が同時に受講して、双方向で意見の交換を行なうという実験授業が行なわれた。このコンピュータ授業の究極は「オンデマンド授業」ともなろう。学生が任意の場所から授業システムにアクセスして、講義(動画・音声・文字による)を受講する新しい形の授業形態で、早稲田大学文学部が全国に先駆けて01年からスタートさせた。これらのシステム立ち上げの中心になったのも井桁先生なのだ。

「いつでもどこからでも授業を受講できるのがオンデマンド授業で、これは社会人の学生に大きな福音になります。こうした遠隔授業は01年の大学設置基準改正によって単位として認められるようになっています。この授業システムの利点としては理解できるまで繰り返し視聴できること、教員への質問が気軽にできること、BBSを利用することで学生間の意見交換が非常に活発になることなどが挙げられます」

現在、井桁先生が担当しているオンデマンド授業は「文学理論への招待」と「異文化コミュニケーション」の2つで、それぞれ60人と130人の学生が受講する。さらにコンピュータのメリットを生かして、教員と学生がより緊密に結ばれるような新たな授業の試みにも挑みたいと意欲を語る。

ドストエフスキー4長編の完訳への壮大な旅

早稲田大学文学部のゼミ演習は、現在のところ4年次の学生を対象にした卒業論文ゼミが中心になっている。当然というか井桁先生のゼミは人気があって、ゼミ生が30人・40人までになることもあった。

「私のゼミは人文専修でして、研究の基本になるのはマスコミ論・メディア論・比較文化論などになります。ほかにも、スポーツとメディアの関係やファンタジーの比較研究などもできます。若い人に人気のある分野の研究ができますので、多数のゼミ生が集まってくれると思いますね」

最近の卒論で成功した例としては、ギリシャ哲学からポストモダンまでの相対主義について考察した原稿用紙500枚を超える労作と、自らの留学経験をベースにしてカナダの多文化主義について考察した2つをあげる。

最後に学生たちへの指導方針については次のように語る。

「自己表現ができる人、コミュニケーション能力がある人を育てたいと思っています。それで私は授業に3つの目標を掲げています。第1に文化の担い手である表現者や伝達者を育てること。第2に文化の奥深くまで立ち入って、多層的に享受できるような人を育てること。第3に人生とは砂を噛むような辛いものである可能性もありますが、そんな人生にも耐えて生き抜く力を育てることです。そのために果たす文化の役割の大きさをぜひ教えたいと考えています」

いま井桁先生は『罪と罰』の新訳に取りかかっている。

それに引き続いて『白痴』『悪霊』『カラマーゾフの兄弟』のドストエフスキー4長編の完訳に挑みたいという。いつとも見えない長途の旅でもあろうが、その壮大な旅に後半生を懸けて踏み出した先生なのだ――。

こんな生徒に来てほしい

文化に対する好奇心のある人、できるだけ偏見をもたない人、自分中心に固まることのない人ですね。それには、同時代の文化に敏感に反応することです。少なくとも、同世代の人とのコミュニケーションができる能力はつけておく必要があります。世界にはまだ知らないことがたくさんあるということを分かっていることも大切です。新しいことに驚きをもって、みんなで一緒に取り組んでいってほしいですね。

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