- 中村 正久 教授
- 早稲田大学
教育学部 理学科 大学院 理工学研究科 生命理工学専攻 中村 正久(なかむら・まさひさ)教授
1946年兵庫県生まれ。
75年早稲田大学大学院理工学研究科物理学及応用物理学専攻博士課程修了(理学博士)。
75年米国カリフォルニア大学博士研究員。
79年帝京大学医学部助手。
88年帝京短期大学生活科学科講師
91年同助教授。
93年広島大学理学部助教授。
95年同教授。
00年より現職。主な著作に『爬虫類と両生類の性決定』(共立出版)、『Expression of P450 aromatase protein in developing and in sex-reversed gonads of the XX/XY type of the frog Rana rugosa』(オランダで刊行)などがある。
分子生物学を通して「生物の本質」に迫る

- 研究生たちを見守る中村正久先生
早稲田大学「教育学部」は、前身母体の高等師範部の創設から100年を超え、私立大学の教育学部としては最も古い歴史を誇る伝統的な学部だ。今回紹介する中村正久先生は、同学部理学科生物学専修で教鞭を執る先生だ。まず同専修の特徴から聞いた。
「前任の国立大に比べここには教員は教授7名・助手3名しかおらず、施設の規模も正直小さいですが、教員のレベルと施設の内容では世界的な域に達しています。生物学専修は設立当初から理学部の生物学教室と同じ教育・研究を行なうことをいつも心掛けておりますので、他大学の理学部と比べても遜色がありません。教育学部でありながら研究に重点が置かれ、これが他の教育学部にはない特徴といえると思います」
そう自負する中村先生の専門は「分子生物学」。両生類(とくにカエル)の性決定と性分化についての分子メカニズムでの研究では世界トップリーダーとされる。
「日本でも世界でもこの分野の研究者が少ないからですよ」 そう笑う中村先生だが、肩ひじ張らない非常に気さくな先生だ。
奇形カエルの大量発生は環境悪化への警鐘

- 中村研究室のある16号館教育学部棟
「分子生物学というのは、生物の本質を解き明かすためのひとつの分野にすぎません。細胞・組織学的および分子生物学的手法を使って、両生類の性の決定(オスかメスかを決定するメカニズム)と、その性決定に続く性分化(精巣と卵巣が形成されていく仕組み)についての研究をしています」
動物の性がどのように決定され分化していくのかは興味深いが、そのメカニズムはまだまだ解明されていない。じつは両生類どころか、哺乳類のヒト・マウスや魚類のメダカあるいはショウジョウバエ・線虫以外の動物については、ほとんど手付かずの状態なのだという。
「ただ03年でヒトゲノムがすべて解読され、これからは他の生物のゲノム解読が進むものと思われます。両生類のゲノムが解読されるようになれば、コンピュータを使った検索でそのメカニズム解明に拍車が掛かるでしょう」
そう語り、さらなるゲノム解読に期待を寄せる中村先生だ。また最近は、奇形のカエルの発生についての調査研究も行なっている。
「奇形カエルが発生するようになった原因については、農薬や内分泌撹乱物質(環境ホルモン)の影響、あるいはエサや水などの環境変化などが考えられます。私たちは関東地方一円の調査研究をしていますが、年間50?60例の奇形カエルの報告があります。明らかに発生頻度の高い地域があり、それらの地域の自然環境には何らかの問題がある可能性が高いと思います。しかし現段階では、そうしたデータについて詳しくは公表できないのですよ」
奇形カエルの発生と特定の物質や環境との因果関係が現時点では科学的に証明されていないこと、さらに特定地域を公表することでその地域で暮らす人々の権利を侵害する懸念もあって公表できないのだという。奇形カエルの発生は、カエルが身をもって環境の悪化を知らせてくれる警鐘ともいえる。それらを公表できないもどかしさを隠せない中村先生でもある。
実験動物の命を慈しむのは生物学研究者の義務

- 錦秋の木々に囲まれた大隅講堂
4年次になると、早稲田大学教育学部生物学専修の学生は各教員の研究室に配属になる。そして、学部最後の1年間をそれぞれの卒業研究に充てる。
「私の研究室では例年7~8人の研究生を受け入れています。研究室に入ってまず習得してもらうのが、分子生物学の研究に対する考え方と手法です。あわせて多くの論文を読んで分子生物学の全体像を理解してもらいます」
そうしながら、各自の卒業研究のテーマを見つけていくという段取りとなる。卒研テーマの選定では、とくに分子生物学に固執しなくていいというのが中村先生のスタンスだという。
「基本的に生物の性決定・性分化を研究テーマにするのであれば、分子レベルでも細胞・個体レベルの研究でも構わないというのが私の方針です。それぞれ興味あるものを選べばいいわけで、結局そういうテーマこそが研究が長続きすることにもなります」
学生たちへの指導で心掛けていることについても、とくに研究上でのノルマなどは設けないことにしていると語る。
「学部学生を1年間の短期間だけ指導するわけですから、研究の基本的な考えと手法を身に付けてくれればいい。社会に出てからも、その理屈と研究手法を忘れないでくれればいいと思っています」
研究上でのノルマは設けないという中村先生だが、生物学とくにカエルを研究する者としての義務は全研究生に課す。
「実験材料として使うカエルの飼育ですね。オタマジャクシが変態してカエルになるまで毎日エサをあげて飼育する。これを、学部学生の研究生全員の義務として当番を交替してやってもらいます。実験に使わせてもらう動物の命の尊さ、その命を育て上げる大切さ、それらをカエル飼育を通して身をもって感じてほしいということです」
中村研究室では約300匹のカエルが実験用に飼育されている。毎年人工受精によって2000匹以上のオタマジャクシを育てその命をつないでいる。野生のカエルの採取は年間20匹程度におさえ、自然生態系にも配慮する中村先生だ。
「夢をもち、それを追いかけてください」
さて、教育学部の目的といえば教職者の養成もあげられよう。しかしまた近年、たとえ早大出身にしても教職者の採用事情が非常に厳しいというのも現実だ。
「教職者になる道が完全に閉ざされているわけではありません。しかし、かなり難しい道であるという実情を認識してこの学部で学んでほしいですね」
そのうえで中村先生は「夢」を持つことの大切さを説く。
「若い人たちには『夢をもち、それを追いかけてください』と申し上げたい。この年齢になった私でも、まだ夢を追いかけています。人間には必ずくじけそうになる時がありますが、それを乗り越えるためには夢を持っているかどうかが大きく関わってきます。夢をもつことは人間だけに与えられた特権であると同時に、すべての人に平等に与えられている権利でもあるのです」
中村先生は最後に、それぞれの夢をかなえるためのひとつのステップとして大学受験をとらえてほしいとも語った。
こんな生徒に来てほしい
まず、動物が好きな人ですね。それに本当に勉強したい人。好きなことや夢のある人。貧乏をしてでも生物や動物に関わっていきたい人。無我夢中で研究に没頭して時間すら忘れるくらいなら、なお素晴らしいですね。生物学の分野には解決されていない部分が思いのほかたくさんあって、若い研究者が活躍できる大きく開かれた研究分野だと思いますよ。










