- 杉山 伸也 教授
- 慶應義塾大学
経済学部 杉山 伸也(すぎやま・しんや)教授
(慶應義塾ITC所長)
1949年静岡県生まれ。72年早稲田大学政治経済学部卒。75年同大学院経済学研究科修士課程修了。81年英ロンドン大学大学院博士課程修了。81年ロンドン大学(LSE)専任研究員。84年慶應義塾大学経済学部助教授。91年より現職。主な著作に『Japan's industrialization in the world economy 1859~1899』(イギリスで出版 日経経済図書文化賞受賞)、『明治維新とイギリス商人―トマス・グラバーの生涯』(岩波新書)、『日英交流史』(共編・東京大学出版会)などがある。
【Webサイト】http://www.econ.keio.ac.jp/staff/sugiyama/index-jp.html
ITツールで迫る近代日本の貿易史研究

- 杉山研究室のある慶應三田キャンパス研究室棟
慶應義塾大学経済学部といえば、学部学生だけでも5000人近くを擁し、日本屈指のマンモス学部としても知られる。
「これだけ大きな学部になりますと教員の数も多く、その研究テーマも非常に多様になります。経済学本来の研究のほかに隣接する分野を研究している教員もいますから、いろいろな視点から経済を学ぶことができます。その一方で、学生数が多いために教員の目が届きにくい傾向も出てきます。ですから、学生たち自身が意識的にがんばらないと埋もれてしまうことにもなりかねませんね」
そう語るのは慶應経済学部教授の杉山伸也先生。マンモス学部では明確な目的意識をもって学ぶことが大事と説く先生の専門は「経済史」。 「経済史のなかでも日本経済史、そのうちでも特に近代以降の日本の貿易史を中心に研究しています。幕末以降ほかの国々と貿易をするようになったことが日本経済発展の歴史にどう影響したのかを調べています」
日本の近代経済史といえば、これまでは明治維新以降が研究対象にされることが多かった。しかし近年、維新よりさらに前の江戸時代までを視野に入れないと本当の意味での近代経済史の研究にならない――そうした考え方が主流になりつつある。もちろん杉山先生もこうした視点に立つ。
「江戸時代に存在した社会構造が近代以降の日本の経済発展の基盤になっているという考え方です。日本独特といわれてきたいろいろ複雑な経済構造や流通システムですが、鎖国をしていた江戸時代にすでに準備されていたものが大半です。明治維新以降に劇的な経済発展を遂げる日本ですが、それも江戸時代にすでに基盤があって下地が整えられていたからなのですね」
CGによる3次元可視研究ツールづくりに挑戦中

- 慶應三田キャンパスの晩秋夕暮れの一風景
これまで杉山先生は「日英経済関係史」「日本とアジア地域の流通経済史」などの研究を手がけてきた。その後戦後日本の炭鉱労働市場の分析に入ったが、いつしかそれから派生する炭鉱労働者のコミュニティーや生活の場をコンピュータCGで3次元に再現する作業にのめり込んで夢中だという。研究の本業のほうでも、貿易統計データのCGによる三次元可視システムに挑戦中だ。
「たとえば日本とイギリス2国間の貿易統計を2次元でグラフ化した研究ならすでに存在します。それに加えて「日本―米国」「日本―中国」「英国―米国」の統計データも同時に立体的に見られるものを開発したいのです。こういうものを一覧で視覚化させることで、見逃されていた経済問題の発見につながる可能性もきっとあるはずです」
これが完成すれば世界初の研究ツールともなる。いまは貿易統計の処理を終え、ひとつずつデータをCGに乗せる段階に来ているそうだ。1日も早い完成が待たれる。
「慶應義塾ITC」プロジェクト構築の責任者

- 明治45年竣工の伝統を誇る慶応義塾大学図書館旧館
経済学部教授の肩書きのほか、杉山先生はもうひとつ「慶應義塾ITC」(Information Technology Center)所長という肩書きをもつ。慶應義塾ITCとは、慶應幼稚舎から中学・高校それに大学までの全慶應のコンピュータ・システムを一元的に管理・運用するところ。現在、現役塾生はもちろん卒業生までもがコンピュータ情報サービスを漏れなく享受できるようにするという壮大なプロジェクトが進行中だ。あまたいる理系の先生たちを差し置き、この慶應義塾ITCの所長に文系の杉山先生が抜擢された。いかにコンピュータ・システム開発に造詣深いかがうかがえよう。ご本人は笑いながらこう語った。
「コンピュータは好きで関心がありますが、理系の先生たちの技術力に適うわけがありません。私が所長に選ばれたのは、ユーザーの視点からすばやい決断を期待されたかららしいですよ」
04年7月、慶應義塾ITCは全慶應のコンピュータ認証システムの準備をほぼ完了した。今後は、現役大学生を皮切りに全塾生や全卒業生に順次IDの割り振りが行なわれていく。その数30万人分というから膨大な話だ。
「慶應義塾関係者にとっては非常に便利なシステムですが、情報の漏えいや不正アクセスに対する防止対策も最大限考慮して、情報の安全性の確保を第一に考えています」
8割の学生にAランク評価を与える講義をめざす

- 慶應の象徴である図書館旧館の尖塔ポールにクローズアップ
そうした仕上げのシステムづくりが目下の急務だという。コンピュータに精通している杉山先生が講義でも大いに活用しているのはいうまでもない。そのひとつが日本経済史の授業で、講義のレジュメと講義のビデオを事前にWeb上で公開している。
「学生たちはWeb上で配信される講義を見たうえで出席していますから、私が説明のために一方的に話す無駄が省けます。授業開始と同時に学生をグループ分けして、テーマに沿った討議をしてもらいます。その結果をみんなの前で発表し、互いの評価も学生同士でします。授業が非常に活発になって、学生のアンケートでも達成感を感じると答えてくれる人が多いようです」
じつは事前公開しているWeb講義をどの学生がどのくらい(アクセス時間)みているのかは、先生のパソコンから一目瞭然に表示されるのだそうだ。
「落ちこぼれそうな学生のアクセス時間が短いようだと、私のほうから直接メールを送って励ましたりします。せっかく授業を取ってくれた学生ですから、1人の落ちこぼれも出したくありませんからね(笑)」
同時に、やる気のある学生の意欲を引き出すためにIT技術を駆使したビジュアルあふれる授業への工夫もしているという。
「学生たちのやる気をどんどん引き出して、できれば8割以上の学生にAランク評価が与えられるような授業をめざしています。そのためにも、できるだけ板書も使わずにプレゼンテーションソフトなどを多用したデジタル画像を見せて、視覚に訴える授業で学生たちを伸ばせないかと考えているわけです」
あくまでも学生たちに理解して満足してもらうのが理想とする杉山先生。その理想に向けて腐心を重ねる情熱の日々に頭が下がる思いがした。
こんな生徒に来てほしい
経済について学ぼうというからには、世界あるいは日本の時事問題くらいは関心をもって来てほしいです。それにマスメディアやインターネットから得る受け身の情報がいかに一面的なものであるかは知っておいてほしい。また、最近の学生のリポートを見ていると引用の出典を明らかにしないものが目立ち過ぎます。著作権を大切にすることを生活上の習慣にしておくべきでしょう。

