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Good Professor

御厨 貴

御厨 貴 教授
東京大学
先端科学技術研究センター

御厨 貴(みくりや・たかし)教授
1951年東京生まれ。75年東京大学法学部卒。75年東京大学法学部助手。78年東京都立大学法学部助教授。88年同教授。89年米ハーバード大学客員研究員。97年政策研究大学院大学客員教授。99年同教授。同年東京都立大学名誉教授。02年より現職。

著作は『政策の総合と権力 日本政治の戦前と戦後』(東京大学出版会)『日本の近代3 明治国家の完成』(中央公論新社)、『オーラル・ヒストリー』(中公新書)など多数。

日本政治史に新たな史実とストーリーを

今回紹介する御厨貴先生は、現役バリバリの東京大学教授にして、48歳の若さにして東京都立大学から「名誉教授」の称号を授かったほどの学才を誇る。さらに遡れば、東大学部卒業と同時に法学部助手に迎えられた異例の経歴を持つじつにまれにみる逸材なのだ。

御厨先生の専門は「日本政治史」。多くの歴史学者たちが限られた特定の時代の政治史研究をするなか、先生は明治から大正・昭和までの近現代政治の流れを通観し、そこから歴史のストーリーを紡ぎ出すという新しい道を開いてきた。

「歴史の研究というのはジグソーパズルを解くようなものだと思っています。歴史上の事実を発見することも大事ですが、すでに発見されている事実を結びつけて歴史的な文脈や論理を組み立てるほうが重要で、またより面白いのです」 そうなると、歴史も一種のエンターテインメントとなり得る。パズルを解きストーリーを創造する楽しみが歴史にもっとあって良いとも語る。いま御厨先生が取り組んでいるのは、明治・大正・昭和の歴代天皇が統治にどう関与してきたかという問題だ。

「明治天皇は、通常いわれているより政治に深く関与していました。このことについては拙著(『日本の近代3 明治国家の完成』)にも書きましたが、この視点をさらに発展させて、明治から昭和天皇までの長い射程距離での皇室の存在と権力統治への関わりについて研究しています。2005年中には研究成果を出版発表できるはずです」

これまであまり語られることのなかった近代における歴代天皇の政治関与だが、今ようやく御厨先生の手で光が当てられようとしている。

「オーラル・ヒストリー」で迫る日本近現代史の秘密

御厨研究室のある先端科学技術研究センター
御厨研究室のある先端科学技術研究センター

いま御厨先生が所属するのは東京大学駒場Ⅱキャンパスにある「東京大学先端科学技術研究センター」(先端研)で、02年に就任した。ここは先端的な科学技術の学際的研究を目的にしたもので、先生自身は情報文化社会を担当している。この先端研でいくつもの研究プロジェクトを展開している御厨先生だが、もっとも力を入れているのが「オーラル・ヒストリープロジェクト」だ。

「オーラル・ヒストリーというのは、当事者が口頭で語った歴史的事実を文章化して史料として残すことをいいます。私のプロジェクトでは、政治家や官僚などかつて公職にあった人たちを中心にその経験を語ってもらい、それを記録として残す作業をしています。従来の政治史研究では当事者の残した書簡が歴史を読み解く手がかりになりました。ところが現代は電話やメールに代わってしまい、史料として残らない可能性が高い。ですから、歴史の現場を知る当事者の声の収集は今後の歴史研究の貴重な史料になるはずです」

御厨研究室では、歴代の首相経験者や最高裁長官・法制局長官クラスの人々からの聞き取り調査をほぼ終えているという。多方面からのオーラル・ヒストリーを重ねることで、その時々の政策決定の経緯などに迫れると先生は楽しそうに目を輝かせる。

さらに先端研で御厨先生が主宰しているプロジェクトに「安全・安心と科学技術人材養成」がある。先端研が標榜する文・理を融合させた学際的な研究プロジェクトのひとつで、従来の安全工学に「安心」という心理面の要素も加味して考察しようという新たな試みだ。

この研究自体は本職の政治史とは無縁なのだが、説明する先生はじつに喜々としている。あるいは政治史を語る以上の熱弁である。本人いわく「何事にも好奇心が旺盛な質なんです」と笑う。日本政治史の泰斗だが、屈託なく親しみやすい人柄の一面もふと垣間見せてくれた。

史料や文献は漠然と「読む」のではなく「読み破る」

新旧建物が混在する東大駒場Ⅱキャンパス
新旧建物が混在する東大駒場Ⅱキャンパス

東京大学の1・2年次の学生は全員が駒場キャンパスに通って教養課程を学ぶ。この学生を対象にした「全学自由研究ゼミナール」という単位に認定されるゼミ演習がある。御厨先生もここで「政治学を読み破る」と「文理の壁を読み破る」の2つのゼミを開講している。

「前者の『政治学……』のゼミは、私が挙げる課題図書を毎週1冊ずつ読破し、各自書評に書いて提出しゼミで合評するスタイルで進めています。後者の『文理の壁……』のゼミのほうは、教養学部の先生といっしょにやっていますが、こちらは自然科学系の図書を全員で講読して、その著者を招いてディスカッションするというスタイルをとっています」

2つのゼミに共通することは、専門課程に進んで専門のことで手いっぱいになる前の教養課程にいるうちに、幅広い内容の本を多読して教養を深めてほしいということだ。当然ながら2つのゼミともに人気があり、わざわざ本郷キャンパスから駆けつける3年次・4年次の学生すら存在する。

「どちらのゼミもとにかく本を読むことがテーマとなります。ただ漠然と読むのではなく“読み破って”ほしい。つまり著者の主張を鵜呑みにするのではなく、主体的に読んできちんと文章に書いてまとめること。それにディスカッションのときに恥ずかしがらずに積極的に発言すること。この2つさえできれば、専門課程に進んでも社会人になってからでも十分に通用するはず」

この2点だけが、ゼミを通して学生たちの習得してほしいことだとのこと。そして話はふたたび政治史のことに戻り、歴史を学び研究することの楽しさについて話してくれた。

「歴史の研究をしていると、あたかも自分がその現場に立ち合っている雰囲気に襲われることがあります。この〝現場感覚〟に包まれたときが一番楽しいときですね。これは誰でも経験できるはずです。高校生の諸君でしたら、ゲームに熱中しているときの感覚に近いかな。あのような感覚で歴史書のなかを泳いでもらえば、歴史の楽しさが経験できるはずです」

まさに博覧強記の御厨貴先生――もし東京大学に進学できたなら、ぜひ御厨ゼミを選んで〝歴史の海〟の中を泳ぐのはどうだろう?

こんな生徒に来てほしい

高校生諸君には、世の中でいわれていることを鵜呑みにしないで、常に疑問をもってほしい。ただ、その前提として最低限の事柄を知っている必要はあります。それらを知ったうえなら、自由に論じ展開してかまいません。また歴史を学ぶというのは、すでに確定している事実をただ暗記するだけではないことも知っていてほしいですね。

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