- 石塚 良次 教授
- 専修大学
経済学部 石塚 良次(いしづか・りょうじ)教授
1984年専修大学大学院博士後期課程単位取得修了。進化経済学会・社会思想史学会などに所属。専門分野は経済原論と現代資本主義論。
著書に『経済思想史』(共著、名古屋大学出版会)『哲学・思想辞典』(共著、岩波書店)など多数。
ディスカッションで考える「日本経済の現状と未来」

- 取材当日のゼミ風景。2~4年生が入り交じってさかんにディスカッションが行なわれていた
30畳ほどの広さの教室のなか大きく四角形に並べられた机を囲むのは25人ほどの学生たち。ゼミ演習の時間に記者が訪れたとき、学生たちが話し合っていたのは夏のゼミ合宿で行なわれるディベートのテーマについてだった。 いくつかのテーマの候補がホワイトボードに挙げられている。
NPO 少子化問題 イラク自衛隊派遣 ライブドア 郵政民営化プロ野球交流戦
――ざっと見ただけでは、どこの学部のどんなゼミ内容なのかも分かりづらいかもしれない。 今回訪れたのは専修大学の石塚良次先生。ここは経済学部のゼミだ。しばらくゼミの様子を見させていただいたところ、ディベートのテーマについて学生達からさまざまな意見が飛び交う。四角形に並んだ机の角に座って学生たちの発言を黙って聞いていた石塚先生がおもむろに学生たちに言った。
「これから毎時間、何人かにスピーチをしてもらうことにしようかな」
「えぇー、本当ですかぁ」 困惑を隠そうとしない学生がいる一方で、「なんか面白そうじゃない」と受けて立つ意気込みを見せる女子学生もいる。こうして終わりまで、学生たちが積極的に発言するのびのびした雰囲気は変わらなかった。専修大学経済学部では2年次からゼミ演習が始まるが、1年次にはゼミに備えて「入門ゼミナール」があり、石塚先生もそれを担当している。
「経済学を勉強していくうえでの基本的なリテラシーやノウハウを学ぶのがこの入門ゼミです。図書館の使い方や情報検索の仕方にはじまり、ワード・エクセルなどPCソフトの使い方やプレゼンテーションのさわりですね。それぞれの学生がそれこそいろんな所から集まってきているわけですけど、まずこの段階でこれから必要な知識を得てもらいます。『畑を耕す』といったところですね」
入門ゼミのあと、1年の秋にはいよいよゼミ選考ということになる。その選考の仕方は先生によって違うが、05年から石塚先生は学生に短いプレゼンをしてもらうつもりだという。
「いままでは論文と面接とで選考をやってきました。プレゼンという形をとろうと思ったのは、わたしのゼミが教科書を読んで知識を蓄えるといったものでなく、ディスカッションをしながらお互いに問題意識を高めていくという形式で皆で議論することができるような人を採りたいということがあるからです」
「進化するシステム」として経済をとらえる進化経済学

- 初夏のある日の専修大学生田キャンパス
石塚ゼミの現在の共通テーマはズバリ「日本経済の現状と未来」。全体を4つの班に分け、それぞれの班が問題を立てて調査し、月に1度のペースで発表していく。このサイクルを1年間続けていく。
「『日本経済の現状と未来』と聞くとテーマが広すぎるように思うかも知れませんが、学生の関心と時事問題となるとテーマは自ずと決まってくるものです」
ただ最近の学生の特徴として、社会に対する興味や関心が薄れてきていることへの慨嘆もたしかにあるという。
「まず、本は読まないし新聞も読まない(笑)。そして、自分と友だちの中だけの小さな世界に閉じこもりがちで、その外に広がる世界になかなか目を向けようとしない傾向にありますね。こういったコミュニケーション力が衰退していく中では、ディベートをして問題意識を高めていくということが以前よりももっと大きな意味を持ち始めているのではないでしょうか」
経済の理論や特定の専門分野についてはそれぞれが授業で学び、それらを応用しながらゼミで議論し合うことが理想だという。
「コミュニケーション力衰退」の時代だからこそ
じつは、石塚先生自身もはじめから経済学に対するストレートな興味があったわけではない。もともとは哲学や思想のほうに興味があったのだという。
「わたしとしては人間とは社会とはといった関心がまずあり、それらを深く知ろうとしたときに経済の仕組みを学び研究していくというのも有効なアプローチだと気づいたわけです。ですから経済の原理的な部分にとくに興味がありますね。貨幣でモノが買えるのはなぜなのか。そもそも貨幣とは何なのか。もちろん、それらを知るには現代資本主義の構造も視野に入れなくてはなりません」
いうまでもなく経済とは非常に複雑なシステムである。だからこそ、経済全体いわば社会全体を目で見ることはできない。しかし経済学の概念や理論を知ることでより、全体を見渡すことができるようになるはず――。このあたり石塚先生に簡単にガイダンスをしてもらうとこうなる。
「普段は意識していない社会の仕組みやおぼろげにしか掴めていなかった現象をとらえることができるようになること――これこそが経済学の面白さのひとつです。初めのうちそのことが分からなくても、ディスカッションを通して議論を重ねながらその面白さに気づいてくれればと思いますね」
経済を把握する新しい視点である「進化経済学」の研究をいま石塚先生は進めている。まだ学会自体が生まれて10年と経っていない新しい領域だ。
「複雑なシステムである経済を〝進化するシステム〟として理解していくという考えです。経済の構造が物体のように動かない静態的なものではなく、生物のように進化・発展していくものとしてとらえる。そして、それがどういうエネルギーによって進化していくのかということに注目することになります」
経済を進化するシステムとしてとらえる進化経済学――。哲学や思想を動機として経済学に立ち向かう石塚先生にふさわしい研究内容とも思える。
より経済学を理解してもらうための取り組み
このように経済学の深い部分に入り込む石塚先生だが、経済学が何となく敷居が高いのももっともだということを感じてしまうこともままあるという。高校課程では「政治・経済」でひとつの科目であり、しかも受験科目になりにくい影響もあって、経済がじっくり学習されているかというとかなり疑問だ、そういう寂しいニッポン的状況があってのことなのかも知れない。
専修大学には経済・経営・商学の3学部があるが、受験生の立場から見てこの3つの違いがどういうものなのか分かりづらいのではないか?
こうした議論が各学部間でなされ、3学部の立場を広く理解してもらうために、専修大学から協定校や地域校に向けて高大連携のシンポジウムが行なわれてきた。
コンビニエンス・ストアを例にあげて、それぞれの学部の立場からコンビニをどうとらえるのかという独創的な切り口でそれぞれの特徴を説明するという試みもなされている。少しでも学部内容を知ってもらおうという専修大ならではの取り組みだ。
「そうですね、たしかに外から見れば経済学がとっつきにくそうだというのは分かります。なにか難しそうだとかね。ただ実際には、入り口の基本的なところで躓いているだけの学生のほうが多いのです。経済学は体系的な学問ですから、導入の部分でしっかり理解してしまえば、あとは独学で進めていくことも可能な学問でもあるんです。まぁ本人次第ですよ」
こんな生徒に来てほしい
現実の経済や世の中に興味がある学生がいいですね。人の意見の受け売りではなく、自分で問題意識をもって取り組むという姿勢を評価したいです。

