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Good Professor

渡辺 敏行

渡辺 敏行 教授
東京農工大学
工学部 有機材料化学科 大学院 共生科学技術研究院

渡辺 敏行(わたなべ・としゆき)教授
1988年 東京農工大学工学研究科材料システム工学専攻修了。88年より東京農工大学工学部助手、97年同大大学院生物システム応用科学研究科助手。97年より同大大学院生物システム応用科学研究科助教授。98年インテリジェント材料フォーラム高木賞を受賞。00年9月東京農工大学工学部助教授に就任。02年 武田テクノアントレプレナー賞を受賞。03年より独立行政法人産業技術総合研究所主任研究員を併任。04年同大学大学院共生科学技術研究部教授に就任。

つねに卒論研究で求めるのは「世界最高水準」

髪の毛よりも小さな鎖や肝細胞培養のための特殊な培地を作製する「3次元光造形装置」
髪の毛よりも小さな鎖や肝細胞培養のための特殊な培地を作製する「3次元光造形装置」

そのモノクロの写真に写っていたのは紛れもなく「鎖」だった。グッチなど高級ブランドのバッグに使われるような角張った美しい形をしている。

「これは特殊な顕微鏡を使わないと見えません。髪の毛1本より細い鎖ですから。もちろん鎖の輪1つひとつが独立していて、揺らせば個々に揺れますよ」

こうして渡辺先生の研究室で説明を受ける人はかなり驚かされることになる。人工臓器やガン治療・液晶ディスプレー・光ファイバーなど幅広い研究テーマもさることながら、ここ以外ではお目にかかれないような研究成果が次々に飛び出してくる。まるでビックリ箱だ。

そのうえ卒業研究に関しては「3つの研究要素=哲学(概念)・材料・測定法=の内のいずれかにおいて、世界最高水準に到達することを目指してもらいます」

と先生は明言する。いくら渡辺研究室のレベルが高いとしても「世界最高水準」はそう容易なものではない。その点を素朴に尋ねると、意外にも「じつは世界レベルにとらわれる必要なんてないんですよ」とにこやかに答える。

「そもそも卒論は世界で初めてのことしか手掛けません。少なくとも私たちの研究室では誰も研究していないことに取り組むようにしています」

なるほど。たしかに世界でだれも手掛けていない領域を研究すれば、たとえ学部生でも世界最高水準の研究が可能となり得る。

卒業研究に取り組む時期が近づくと、学生は渡辺先生からテーマの候補を示される。学生数の倍近く提示されるテーマ内容は大きく2つに分かれるという。ひとつは過去に先輩たちが研究してきた内容をさらに発展させるもの、もうひとつはゼロから研究をスタートするものだ。

「学生にはリスクとインパクトを説明します。先輩たちの研究を続けると成功率は高いけれど、成功のインパクトは弱い。一方うまくいくはずと私が予想するとはいえ、ゼロからの出発となる研究は成功まで厳しい道のりが待っています。ただし、成功したときのインパクトは強い。こうした説明を受けたうえで研究テーマを選ばせるようにすると、学生自身が研究に責任を持つようになるんですね」

これまでのところ「ゼロからの研究」にチャレンジする学生のほうが多いという。渡辺研究室に所属する大学院生たちがインパクトの強い研究を次々と成功させ、国際学会で活躍していく姿を目の当たりにしている影響も大きいのだろう。

モーター・歯車なしで動く高分子材料が「ナノテク」を変えた

都心から20分程度の距離なのにキャンパスが広いのもうれしい
都心から20分程度の距離なのにキャンパスが広いのもうれしい

もともと渡辺先生自身の専門は「高分子材料」だった。とくに高分子に「機能」をもたせる研究に力を注いできたという。

そうした研究から生み出されたものの1つに、光で形の変わる分子を組み込んだ新材料がある。この高分子材料を棒状に整え、光の種類によって「棒」が曲がったり伸びたりする実験に成功した。この棒を大量に林立させて倒したり立てたりすれば、微生物などに見られる「繊毛運動」や食道に見られる「ぜん動運動」を再現できるようになる。

「この新材料のポイントは離れたところから動きをコントロールできることと、その動きが分子に組み込まれていることです。ギアなど機械部品を小さくしても、通常は摩擦が大きくなって動かなくなります。また、これまでの機械はモーターやバッテリーなどの動力源がどうしても必要でした。しかし分子そのものが動けば、サイズをどんどん小さくしていくことが可能になるわけです」

こうした材料研究が「ナノテク」の技術を一気に推し進めていくことは間違いないだろう。さらに、先述した髪の毛より細い「鎖」については「近赤外光」に反応する分子の開発によって可能になったという。近赤外光のエネルギーが弱いため、反応する新分子の開発はかなり難航したという。しかし、その分ピンポイントで反応を引き起こせるようになった。

実はこの微細な造形技術を利用した面白い研究もすでに始まっている。培養できない細胞の代表ともされる肝細胞の増殖実験がそれだ。細胞は拡大すると、アメーバのように「脚」を出している。実はこの脚の触れている部分に置かれる小さな「柱」が細胞増殖の成否を握っているのだという。肝細胞が「気持ちいい」と思うような柱がなければ増殖はしない。渡辺先生は微細な柱の強度をいろいろ変えて作り、肝細胞の「好み」を割り出してその細胞分裂についに成功した。

こうした研究のほか、近赤外光が人体を透過する性質を利用して血管を通ってがん細胞にたどり着かせて、近赤外光をあてて「抗がん剤を放出するカプセル」の研究開発なども行なわれているという。

「世界初研究」になにより重要なのは「勇気」

渡辺研究室がある東京農工大学4号館
渡辺研究室がある東京農工大学4号館

実はこれだけの研究成果を紹介しても、まだまだ渡辺先生の研究の一部でしかない。どうすればハイレベルな研究をここまで並べられ得るのだろう?

「簡単に『そんなことはできないでしょう』などと結論づける研究者が多いんですね。でも、できないことを理論的に詰めているわけではない。まず常識を疑うことです。そして何より研究者にとって重要なのは、人と同じ研究など止めて自分独自の研究を始める勇気です」

世界のだれもが手を付けていない研究テーマを常に追い求める渡辺研究室は、まったく別分野の研究者からも注目されることになる。そのため、国内はもちろんのことメキシコやアメリカなど有名大学の研究室から数々の共同研究が持ち込まれる。その結果として、さらに世界初の研究成果が生み出されることにもなっていく。

子どものころマンガやSF小説に登場した科学者は、世界中どこにもないドキドキするような新発明を次々と生み出す「希望の存在」だったはず。ついに、そんなあこがれの科学者に近づける研究室を東京農工大学に見つけた。

こんな生徒に来てほしい

何にでも興味のある学生、何か楽しいものを作りたいと思っている学生にぜひ来てもらいたいですね。新しいことを研究するにあたっては、高校までの教育と違って「答え」など用意されていません。それどころか問題がどこにあるのかも分からないものばかり。そのため失敗も大いにあり得るし、成功までの時間もかかります。それらに耐えられるタフさも兼ね備える人だとさらに嬉しいです。

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