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Good Professor

永井 均

永井 均 教授
千葉大学
文学部

永井 均(ながい ひとし)
1951年生まれ。慶應義塾大学・文学部卒。同大学院文学研究科博士課程単位取得。専攻は哲学・倫理学。

主な著作に『翔太とネコのインサイトの夏休み』(ナカニシヤ出版)、『これがニーチェだ』(講談社現代新書)、『マンガは哲学する』(講談社)、『〈私〉のメタフィジックス』(勁草書房)など多数。

科学では捉えられない世界を根本から捉え直す哲学研究

『〈子ども〉のための哲学』は、永井先生の哲学のエッセンスが平易に書かれている。道徳と自分の存在について、考えてもいなかった視点で答えが導き出される不思議な本だ。
『〈子ども〉のための哲学』は、永井先生の哲学のエッセンスが平易に書かれている。道徳と自分の存在について、考えてもいなかった視点で答えが導き出される不思議な本だ。

今回は、あらかじめ断っておいた方がよいだろう。なぜなら、この永井均先生の紹介は、ごく限られた一部の塾生へのメッセージになってしまうかもしれないからだ。

永井先生が哲学の研究者になったキッカケは、小学生時代に抱いた一つの疑問だったという。

――僕はどうして存在するのか―― すべては、そこから始まった。
「人間が一人ひとり生まれてくるのはわかります。でも、その人間がどうして私なのかに疑問を感じました」

これは壮大な問いかけである。自分が隣に座る友人であっていいはずもないが、なぜ自分が自分なのかは誰も説明してくれない。そこで先生は、この疑問を自ら解決しようとした。

結果として、この疑問から発展し、何冊もの著作を記すようになるのだからすごい。現在でも、先生が最初に感じた疑問と同じ形式の問題まで研究対象に加えているという。

「例えば、『今』『現在』という問題があります。なぜこの時点が『現在』なのかは、物理学的には問題にすらなりません。物理学の問題は、無時制的に発生していますから。いくつかの『時点』を想定できても、ココが『今』であるという根拠を諸科学では問えません。だから、科学ではとらえられないある意味で根本的なところから、世界をとらえ直すことができるのが哲学なのです」

では、どう「とらえ直す」ことができるのだろうか?

「普通の世界像というのは、宇宙があって、地球があって、そのなかの生物が進化して人間になって、そのなかの一人が自分なわけです。でも逆転して考えれば、こういった話は全て私から始まっています。宇宙に地球があるという知識を私が教わり、私がそう考えるところから始まっているのですから」

少しわかりにくいかもしれないが、自分が世界の大勢の一人ではなく、そもそも世界は自分が認識するところから始まっているという考え方に、興奮する人もいるだろう。少なくとも取材者にはとても素敵な"ニュース"だった。自分が自分であることのかけがえのなさを、先生の説明から感じたからである。

自分が自分として実存することのかけがえのなさ

JR西千葉駅から徒歩1分で千葉大学キャンパスに。
JR西千葉駅から徒歩1分で千葉大学キャンパスに。

さらに先生は理解の遅い取材者のために、もっと易しい例でも説明してくれた。  

例えば、「お酒を飲み過ぎないようにしよう」と考えたとする。それは、いわば未来の自分との道徳的契約だ。たしかにそうだ。未来の自分が健康でいるために、自分で道徳規範をつくりあげたのだから。  

ところが「未来」が、そもそも「今」という時点からの予測であり、願望でしかないと考えれば、自分で作った立派な道徳規範は、「今のなかで考慮すべき要素」に過ぎなくなってしまう。しかもよく考えれば、こうした道徳の捉え方こそ真実だともいえる。極端な話、道徳を守って一年後にお酒を買うお金さえなくなれば、飲み過ぎなど「考慮すべき要素」ではなくなるからだ。

では、自分たちが日々信じている道徳って何だ? そんな疑問も湧いてくるだろう。逆に「だから何?」と思う塾生もいるかもしれない。実は、そうした感想も間違っているわけではない。

「こういう話を切り出した途端、その考え方を理解して受け入れてしまう人もいるし、全然理解できない人もいます。また理解したから何なのだ、という考え方もあるでしょう。

これらは哲学の特徴です。理論が心に響いて『わかる』かどうかは、そもそもどういう種類の人かということに依存してしまいます。偶然と言いますかね。一応、私は教師なので、様々な哲学を説明できますが、全てが本当に心に響く、あるいは本当に『わかっている』わけではありません。このあたり、自然科学者の『わかる』と少し意味合いが違いますね」

難しい哲学書を読み、哲学者の考えを理解することだけが「哲学」だと考えている人は、永井先生の「哲学」のあり方に驚くかもしれない。先にも書いた通り、先生自身は、自分の疑問を解決するために考え続けてきた。その過程で、哲学者の本を読んだにすぎない。しかも子どものころに感じた疑問は、すべて解消されたわけでもないという。

「最初の疑問は解決しても、そこから二重、三重、四重に、新しい疑問が出てきましたから……。そもそも人生哲学というのは、そういうふうに増殖してしまう学問なんじゃないですかね」  

どうやら問題は完全には解決しないらしい。「わかる」人も限られている。それなら、どうして哲学を学ぶのか? 答えは、きっと「知りたいから」だろう。他人のためどころか、自分のためですらない。しかし答えを知りたいなら、学問の世界に飛び込んでいくしかあるまい。

この文章が、すべての塾生の興味を引くとは思っていない。ただ少しでも気になる部分があったなら、ぜひ先生の本を読んでみてほしい。あなたにとって、とても重要なヒントに出会うかもしれない。

こんな生徒に来てほしい

僕の考えてきた問題と違っていても構いません。自分が疑問に思っていたことを解決したくて哲学を勉強する、そんな学生には面白いかもしれません。あるいは僕が研究してきた『私』の問題、道徳や倫理に関わる問題を学びたい学生にも、ぜひ学んでほしいですね。

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