- 大月 敏雄 助教授
- 東京理科大学
工学部 建築学科 大月 敏雄(おおつき としお)
1967年福岡県生まれ。91年東京大学・工学部建築学科卒業。96年同大学院・工学系研究科建築学専攻博士課程単位取得退学。96年横浜国立大学・工学部建築学科助手。99年より東京理科大学・工学部建築学科専任講師。主な著作に『同潤会のアパートメントとその時代』(共著・鹿島出版会)、『アジア建築研究』(共著・INAX出版)などがある。
建築計画とは、建築物の不具合を新たな設計に活かすこと

- 大月先生ゼミ生たち
「東京理科大は昔から進級がきびしい校風で有名ですが、いまでもその精神は貫かれています。また建築学科はきわめて濃密なカリキュラムでして、1~3年次にかけては計画分野や構造分野・環境分野の基礎的なことを徹底的に鍛えられます」
東京理科大学工学部建築学科で助教授をしている大月敏雄先生は、開口一番にそう語った。学生にきびしい校風と徹底した基礎教育は、先生の目に自らの母校をもしのぐものとして映じたようだ。
東京理科大学工学部建築学科が学生を鍛えあげることは産業界にもよく知られていて、いまの大学生の就職難がいわれる時代にあって、就職希望者のほぼ100%が就職を達成しているという。しかも、ゼネコンや設計事務所・住宅メーカーなど大手企業への就職が多く、産業界が同学科に寄せている厚い信頼が窺えるといえよう。
さて、大月先生の専門は「建築計画」である。塾生のなかにも大学の建築学科受験をめざしている人も多かろうが、あるいは建築計画という言葉は耳慣れないかもしれない。そこでそのあたりから説明してもらった。
「私たちが日常利用している建築物というのは、暮らしているうちにいろんな不具合が生じてきます。そうした問題について、暮らしている人や設計者・建築会社などに調査・取材して問題の所在を明確にし、それを新たな設計に盛り込んで提案をしていく。それが建築計画の基本的な考え方になります」
この建築計画の提案は、間取りや建築材料のハード面はもちろん、周辺環境や近隣とのコミュニケーションの問題などソフト面までが含まれるという。
よりよい住環境は人と人が手をつなぎ合って造られる

- 大月研究室のある東京理科大学7号館
建築計画のための人間関係形成はどうあるべきかという観点から、大月先生は研究している。先生が着目しているのが、同潤会などに代表される日本の古い集合住宅、あるいは東南アジアのスラム地域である。東京の下町にある同潤会アパートは戦災に遭っている。建物の器だけが残った状態のところに、戦後になって人が住むようになった。
「そういう状態で人が住みはじめますと、足りないものをみんなで補いはじめるのですね。共同で炊事場をつくり、ドラム缶の風呂を用意し、近所の工場から電気を引くなどの工夫をして環境が整えられていきます。同じことが現在のアジアのスラムでも見られます。人と人が手をつなぎ合って環境にはたらきかけることで改善され、よりよい環境が得られます。いまの日本のマンションなど集合住宅は、財産価値を下げないための財産保全の管理が主流です。しかし同潤会では、いまでも利用価値の意味、いまある資産をどう性能を上げて使っていくかということが考えられています。日本ではきわめて稀な例で、ここでの合理的な活用方法には学ぶところが多いですね」
古い集合住宅やスラム地域での住環境の工夫に学びながら、これからの住宅のあり方について、コミュニティや人間コミュニケーションの問題までを含めて研究している。大月先生は静かな語り口で淡々と語ってくれたが、もの静かな中にも内に秘めたものには熱いものがあるようだ。
同大建築学科でのゼミは、4年次からである。3年次前期まで建築の基礎的な学習を積み、同後期からそれぞれの専門分野に分かれ、さらに4年次からは研究室ごとのゼミに細かく分かれて卒業研究に向かう。
「同潤会、アジアのスラム、街づくり――など、私が個人的に興味のあることをテーマにして私のゼミの学生には研究してもらっています。実は"その他"という項目も設けてあって、多少枠から外れたテーマの研究でも認めることにしています。ただし、私を納得させるだけのものを提出しないといけませんが(笑)」
大月ゼミの特長は徹底したフィールドワーク

- 神楽坂キャンパスの昼休み
大月ゼミの特長は、徹底したフィールドワークにあるという。
「とにかく足を使って、"聞きに行く゚ "見に行く゚ "調べに行く゚ことを追究しています。人に直接会って話を聞くこと、実際の建物や町並みを見ること、それに国勢調査・都市計画調査や町内会レベルの調査データを調べ上げます。そうした個別かつ具体的なものから、いかに普遍の論考にまとめ上げていくかが大切だということですね」 昨年度のゼミ生のなかには、東京23区内に残っている戦前に建てられた集合住宅のすべてを調べてまわった学生がいたそうだ。
「非常に時間のかかるフィールドワークでした。はじめのうちはその学生も何のために調査しているのか、自分でもわからなくなったみたいです。調べを続けていくと、そこに住んでいる人から昔の話が聞けるわけです。すると、その建物の来歴であるとか、建物が長く使われてきた工夫、いまもって残っている事情などがわかってきます。いま建築計画の大きなテーマは時間の概念をどう折り込むかということですが、その基礎的な資料として、貴重な研究であることがわかってきたのですね」
こうした調査研究には、建築に関する知識だけでなく、日本の近現代史や借地借家法などの歴史・法律知識なども不可欠になる。理工系にかぎらず、幅広い知識を学ぶ必要があると大月先生はいう。
街の将来ビジョンを示してあげるのが“水先案内人”の使命
最後にこれからの建築計画研究に求められるものについて聞いた。
「近代日本のこれまでは、よいものをカネを出して買い、古くなったら捨てるという考え方でした。もう、そういう時代は終わりました。21世紀はいまあるものを磨いていき、時間とともに性能が上るような工夫を凝らさなければなりません。そうしたことを同潤会に学び、スラムに学んで、将来はこうなるというビジョンを示してあげるのが、水先案内人として建築計画に携わる者の使命だと思っています」
バブル崩壊後の地価下落が続く中で、ややもして方向性を失っているこの国の街、そして家々の寒々しい姿。温故知新。古いもののなかに未来を見出そうとする大月先生の研究姿勢には、並々ならぬ熱さを感じた。
こんな生徒に来てほしい
建築の勉強をするのに、有名な建築家に憧れて、それをモチベーションにするのもいいと思います。ただ、いまの建築やデザインが正しく行われているとは思いません。そうしたものを整理して、秩序立てるのも建築家の仕事です。何かを変えてみたい、何かが気になる―そうした自分ならではの問題意識を、堂々と言える人が来てくれたらうれしいですね。

