- 金井 景子 教授
- 早稲田大学
教育学部 国語国文学科 金井 景子(かない けいこ)
1957年大阪生まれ。89年早稲田大学大学院文学研究科博士課程後期満期退学。以後、小学生向け塾をはじめ、中学・高校・専門学校・短期大学・進学塾・社会人向け講座などで国語と文学を教える。97年亜細亜大学教養学部助教授。99年早稲田大学教育学部助教授。2003年より現職。主な著作に『真夜中の彼女たち』(筑摩書房)、『ジェンダー・フリー教材の試み』(学文社)などがある。
研究目的は、ジェンダーからの解放

- 研究室内にて
今回紹介する早稲田大学・教育学部教授の金井景子先生は、プロフィールからもわかるように、これまで小学校を除くあらゆる教育機会の場で教える経験をしてきた先生で、まさに教育学部で教えるにふさわしい先生といえよう。
金井先生は国語国文学科の所属で、専門は日本近代文学である。それと同時に、ジェンダー研究者としても知られている。まず、ジェンダー研究について説明してもらった。
「人が生まれてから受ける躾とか教育のなかには、"男らしく"とか"女らしく"というのが不断に入ってきます。その人が本来もっているものとは別に、社会規範などによって作られていくものがジェンダーです。男性であれ女性であれ、その人が希望していることを"男らしくない"あるいは"女らしくない"などと否定したり、阻害することをジェンダーといいます」
金井先生は、そのジェンダーからの解放をめざすジェンダーフリー推進者の役目も担っている。しかし、何が何でもジェンダーはいけないという全否定ではないとも語る。
「ジェンダーが全くなくなって、男であるのか女であるのかわからない画一的な状態になるように推進しているわけではありません。ジェンダーフリーというのは、一人ひとりの希望する選択を認め、"それぞれの人が、それぞれにある"ことを大切にすることなのです」
そのいい例として、映画「スター・ウォーズ」の惑星ステーションのシーンを挙げてくれた。様々な姿形をした宇宙人が自然に集まって、互いに認め合い、行き交うあの情景である。
ジェンダーの観点から日本近代文学を読み解く

- 金井研究室のある16号館
金井先生の専門は日本近代文学だが、これをジェンダーの観点から、とくに明治30年代の作家や作品を通して研究している。
「明治30年代というのは良妻賢母という考え方がつくられ、女子教育が盛んになっていく時代です。つまり、日本の女性たちがジェンダーに囲い込まれていく時代ともいえます。この時代に活躍した歌人・作家である正岡子規・樋口一葉・与謝野晶子の3人について研究しています」
子規は、病床にあって身の回りの世話を妹にみてもらうことで、当時のシャドーワーク(家事に代表される賃金を伴わない労働)について考えている。一葉は、学費を稼ぐために働くことで、この時代の上流から下層までの女性の種々相を観察している。また晶子は、それまで良妻賢母の習い事であった短歌を自らの表現手段として体得することで、奔放なまでの人生を歩むことになる。金井先生は、3人の作品を通して、この時代のジェンダー観を読み解こうとしている。
国語教師は「文学の届け方」のプロ

- 新入生のクラブ・サークル勧誘でにぎわう早稲田キャンパス
教育学部で学んでいる学生は、人文系・理系・社会科学系と様々な分野の専門をベースに教職をめざしている。その中で国語の教師をめざす人は、「文学の届け方のプロであってほしい」というのが金井先生の持論だ。
「すぐれた文学作品であっても、届け方によっては相手が受け取りにくかったり、誤解して受け取ることにもなります。いまの学校教育のシステムではまだまだ、児童・生徒たちは机に釘付けにされて教師の教えを聞くことが多い。ですから、どういう届け方をすれば、作品のメッセージが豊かに伝わるのかを考えないといけません。同じ文学研究であっても、文学部と教育学部の国語国文学科との差異は、そこにあるのですね」 そのため、金井先生の学部の講義では、様々な工夫がなされる。文学作品をテキストにするのは当然だが、ほかに映画をテキストにしたり、ゲストスピーカーによる講義、教育演劇のワークショップなどまであり、非常に内容が豊富なのだ。
「一人の人間でも頭と心・身体などいろんな側面があって、それぞれに疎密・遅速があります。それらを自覚化するためには、いろんな角度から揺さぶりをかける必要があります。文学あるいはジェンダーも含めて、座学で学んでもわかった気にはなります。でもわかったつもりでいても、大切なことを"聞き逃し""見逃し"ている場合が多いのです。ですから、たとえ同じテーマでもいろんな角度から繰り返し学んでもらうようにしています」
早大教育学部のゼミが始まるのは3年次からで、金井ゼミでは3年次の学生の研究は前・後期に分かれる。前期は、金井先生が選ぶ文学2作品についてジェンダーを含めた作品分析や作品の届け方をグループ研究する。後期は、前期に触発された問題意識を発展させてそれぞれの個人研究になる。この個人研究では、自分がどうしても届けたいと思う作品であれば、近代文学以外から選んでもいいという。なお、4年次のゼミは一年間かけて卒論研究に充てられる。
こうしたゼミ、あるいは学部の講義では、学生たちと話し合って学生の意見を参考にしながら進めているそうだ。学生とともにゼミや講義を構築していく姿勢だが、「学生たちから見ると、なんか私のことが心配らしく、それで意見を出してくれるようです」と笑う。学生がたくさん意見を寄せるというのも、先生が気さくで明るくて親しみやすい人柄だからだろう。
金井先生は、またエネルギッシュな人でもある。本来の学生指導やジェンダーフリー推進活動のほか、朗読会なども主催している。隔週1回ランチタイムに学内の教室で開いている「よむよむ座」と、年1回学外のホールで開かれる「声の劇場」の2つで、プロの演者による朗読や弾き語りなどによる「文学の届け方」を学ぶ機会を無料で開放している。
さて、小学校を除くあらゆる教壇に立ってきたという教育のプロである金井先生だが、その先生から教職をめざしている高校生諸君へのアドバイスがある。
「自分がドキドキ・ワクワクしたことを、そのまま生徒に伝えることが大切ですね。読んだばかりの小説のことでも、きのう観た映画のことでも、"ねえ、ねえ、聞いて"と人に伝えたいと思っている人は、全員先生になる資格があります。逆に、自分でドキドキ・ワクワクするものがない人は、教職に就いても長くは続かないと思いますよ」
こんな生徒に来てほしい
語弊があるかもしれませんが、私はどんな人が来てくれてもいいです。出会いの縁があったら、その人が私の生徒だと思っています。これまでいろんなところで教えてきましたが、最初からこういう生徒は困るという出会いなどありませんでした。縁はなるべく多く結びたいのがモットーですから、どんどん気楽に来てくれたらいいですね

