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Good Professor

浅島 誠

浅島 誠 教授
東京大学
教養学部

教養学部長

浅島 誠(あさしま まこと)
1944年新潟県生まれ。72年東京大学大学院理学研究科動物学専攻博士課程修了。72年ベルリン自由大学分子生物学研究所研究員。75年横浜市立大学文理学部教授。93年東京大学教養学部教授。96年同大学院総合文化研究科長。

主な著作に『発生のしくみが見えてきた』(岩波書店)、『新しい発生生物学』(講談社)などがある。

まさに信念の勝利!器官分化促す誘導物質を探し当てた

イモリ・カエル採取現場で学生たちとの記念撮影
イモリ・カエル採取現場で学生たちとの記念撮影

東京大学・教養学部学部長でもある浅島誠教授は発生生物学の世界的な権威である。  

動物の未分化細胞が心臓や筋肉などの器官に分化していく発生過程には、それぞれの器官に分化を促す誘導物質がある。その存在が知られたのは、1920年代であった。以来、世界中の研究者たちは、その誘導物質の発見に血眼になっていた。しかし、その後50年間を経た70年代に入っても発見に至らず、大勢は「誘導物質は存在しないのかもしれない」という意見に傾きかけていた。浅島先生がこの研究に着手したのは、ちょうどそんな時期であった。  

周囲の「今からそんな研究なんかしても無駄」といった声もあるなかで、先生は来る日も来る日も誘導物質の発見に努めた。助手もつかないような孤独な探求の日々は15年にも及び、その間100種類以上の物質について濃度を変え、組合せを変えてという地道な作業が積み重ねられた。  

「発生生物学にとってオーガナイザー(形成体)の研究は、最も基礎的で避けて通れない問題です。これが解けないと先に進めないという思いと、誘導物質は確実にあるという信念からでしたね。たとえ僕の世代で発見できなくても、といった気持ちもありました」  

当時をそう振り返る浅島先生だが、「捨て石」になることも辞さない覚悟での研究だった。ついに研究を始めてから15年目のある日、未分化細胞を脊索(細胞に生じる形づくりの中心となるセンター)に導く物質「アクチビン」を発見する。浅島先生の執念ともいえる粘りでその誘導物質を探し当てたのだ。  

その後1年ほどかけて先生自ら追試験をして検証し、89年にオランダの国際会議で発表。先生の発表を受けて、世界中の研究者が追試験を行い、アクチビンが誘導物質であることが世界的に実証された。  「そのとき、科学の世界はいいなぁと思いましたね。僕の研究発表について、国や地域を超えた世界中の学者が追試をして、正しいことを証明してくれたのですからね」

生科学や器官形成学・移植医療にも道を拓く

浅島研究室のある東京大学教養学部15号館
浅島研究室のある東京大学教養学部15号館

アクチビンの発見によって発生生物学会は沸き返ったようになり、世界中の多くの研究者がこぞって研究に参入してくる。それに分子生物学会まで巻き込んで、研究は一気に長足の進歩を遂げることになる。  

いまもこの研究分野では世界の先陣を行く先生だが、浅島研究室ではアクチビンとほかの物質を組合せることで、試験管のなかで両生類(イモリ・カエル)の器官や心臓をはじめ、肝臓・腎臓・膵臓など16種類に及ぶ人工器官形成に成功している。しかも、それら試験管で形成された器官を生体に移植しても正常に機能することが確認されてきているという。

「こうした研究から、どういう遺伝子が次々に発現してそれぞれの器官ができるのか、あるいは分子レベルでの解明がされていきます。器官を形成する遺伝子については、両生類と他のマウスなどの脊椎動物もほぼ同じですので、今後は脊椎動物の再生科学や器官形成学などにも道を拓くことになると思います」  さらに倫理的な問題などを別にすれば、将来はヒトの細胞から人工的に器官・臓器をつくったり、移植医療への応用も考えられると語る。

「我々の学問は自然から学ばせてもらっている」

ジュッカーズあこがれの東大駒場キャンパス正門
ジュッカーズあこがれの東大駒場キャンパス正門

浅島先生が学生指導にあたるときは、次のような思いでいるという。  「地球上には、約1000万種の生物が存在するといわれています。それぞれの種のヒストリーと多様性を知ることによって、ヒトとはどういうものかを知ることになります。我々の基礎的な研究は地味なものですが、目標をもって地道に継続させること。特に時代の流行に流されないで、確実な技術をもって、自分が本当にやりたいことは何かを見極めることが大切だと指導しています」  

浅島研究室では毎年春と秋の2回、研究に使うイモリとカエルの採取に出かける。浅島先生自ら長靴姿になり、率先してジャブジャブと野山や田圃に入って採取しているのだ。  
「30年間同じ場所で採取しています。そのときは学生も連れていきますが、そこで自然のなかに生きている生物の姿、カエルの求愛行動とか、イモリが固まってつくるイモリ玉などの現象を観察してもらいます。そうやって自然をじっと観察することで、新しい生命感が養われればいいという思いからですね」  

それで、研究を終えたイモリやカエルたちは、また元の同じ場所に返しに行くという。生物に学ばせてもらっているという真摯な浅島先生ならではの研究だ。  

「首都圏では特にイモリが激減していますしね。研究のためという名目で、採取だけしてあとは知らないというのは許されません。我々の学問は自然から学ばせてもらっているわけですから、自然の摂理を壊してしまうことはできません。学生たちにも、生命をもつものたちの大切さを知ってほしいですから」  人と自然に限りなくやさしい浅島先生だが、その人柄がよくあらわれた話ではないか。

融合科学創成ステーションCOE統括責任者として

東大駒場キャンパスに映える新緑のイチョウ並木

さて最後になったが、浅島先生には東京大学のCOEプログラム拠点リーダーという仕事もある。これは文部科学省が各大学の国際的な研究教育拠点を支援助成する「21世紀COEプログラム」によって、同大学に立ち上げられたプロジェクトのひとつ「融合科学創成ステーション」の統括責任者としての仕事である。  

「これまでの科学研究は細かく専門化していくばかりでした。そうした細分化された要素から、逆に全体を見ていこうという研究です。それに、これまで縦割りでつながりのあまりなかった物理・化学・数学・生物など各分野の研究者が学際的に集められ、生命現象のシステムについて共同で研究していこうというプロジェクトなのです」  

融合科学創成ステーションがスタートしたのは2002年秋からで、学際的な研究によって人間と自然環境の調和を考え、従来にない学問の総合体系を打ち立てられる。  

このプロジェクトに参加できるのは大学院生からで、塾生諸君には少し先の話になる。しかし、東大そして大学院総合文化研究科へと進むと、将来こうした道が拓かれていることを知っておくのもいいだろう。

こんな生徒に来てほしい

科学研究というのはいわば冒険ですから、積極的なチャレンジ精神が必要です。科学者に必要なのは知的好奇心の目をもつこと。その目さえ持ち続けていれば、生物のほうから現象を見せてくれます。またそうした現象を見逃さない目を養って感性を磨くことも大切です。発生生物学にかぎらず、生物科学の分野にはまだまだ残された重要な研究テーマがあります。ぜひ新たな知的冒険にチャレンジしてほしいですね。

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