- 川口 裕司 教授
- 東京外国語大学
外国語学部 川口 裕司(かわぐち ゆうじ)
1958年和歌山県生まれ。87年東京外国語大学大学院修了。90年静岡大学助教授、95年東京外国語大学助教授をへて、2000年から現職。著書に『パリのフランス語入門』『言語関係論』『世界のことば100語辞典』(共著)など
自由に外国語を学ぶことができる時代に

- 頭文字TUFSをあしらったオブジェのある東京外大正面入り口
東京外国語大学では、現在「TUFS言語モジュール」というプロジェクトが進められている(TUFSとは東京外語大学=Tokyo University of Foreign Studiesの頭文字をとったもの)。2002年10月に文部科学省から「21世紀COEプログラム」として「言語運用を基盤とする言語情報学拠点」の認定を受けた。COEはCenter Of Exellenceの略で、「卓越した研究拠点」という意味だ。世界最高水準の研究教育レベルを達成するために、国家予算を使って重点的に補助していく新しい制度だ。まさに国家的プロジェクトなのである。東京外国大学の教員と大学院生およそ150人がこのプロジェクトに携わっている。
このプロジェクトのリーダーが川口裕司教授なのだ。このTUFS言語モジュールについて川口先生は「簡単にいえば、インターネットを活用したe-Learnningです。語学研究や外国語教育にコンピュータサイエンスを応用した分野を私たちは言語情報学と呼んでいます」と説明してくれた。
「TUFS言語モジュール」COEリーダーとして

- 東京外国語大学の新キャンパスは開放的な雰囲気が特徴的だ
このTUFS言語モジュールをごく分かりやすくいうと、インターネットで外国語の語学教材を学習することについての研究だ。英語をはじめ、ドイツ語・フランス語・スペイン語・ポルトガル語・ロシア語・中国語・朝鮮語・モンゴル語・インドネシア語・フィリピノ語・ラオス語・カンボジア語・ベトナム語・アラビア語・トルコ語・日本語の17言語を学習することが目標となる。
従来の語学学習が文法や発音を一体的に学ぶのに対して、TUFS言語モジュールでは会話・語彙(単語)・文法・発音の4項目に分類されていることが最大のポイントだ。それぞれ個別に学習できるようになっているのだ。
さらに、それぞれの項目ごとにレベルが設定される予定だ。例えば発音なら、初級段階がサバイバルのために最低限必要なレベル、次が円滑なコミュニケーションのレベル……といった具合にレベルアップしていく。
このように項目別・段階別に教材が用意されていることをモジュール化という。各教材はインターネットで広く一般にも公開される(2003年6月から順次公開の予定とのこと)。ブロードバンド環境さえあれば、誰でも自由に外国語を学ぶことができる時代がすぐそこに来ているのだ。
このモジュールを使うと、難しい文法などに煩わされずに、各人の必要に応じて会話なら会話だけで学んでいくことができる。ある程度の語彙を身につけてから会話できるようになりたいという人やとにかく単語をおぼえたい人は、語彙のモジュールだけを取り出して勉強すればいい。あるいは発音に磨きをかけたかったら、発音のモジュールがピッタリだ。
各項目は相互にリンクを貼ってあるので、インターネット上でスムーズに移動できる。会話の学習の途中で文法を学びたくなったのなら、文法のモジュールにアクセスすればいい。そのレベルに応じた文法事項を理解することができる。単語の学習と同時に発音を学ぶことなどももちろん可能だという。
TUFS言語モジュールのもうひとつのポイントは、授業を受けなくても在宅で学べることだ。家にいながらにして外国語を学ぶことができる。また英語やフランス語ほどメジャーではない外国語は地方では学ぶことが難しいのが実情だが、このモジュールがあればそうした問題も解消される。
いま流行りの言葉でいえば、これは外国語教育における「ユビキタス」(普遍性、いつでもどこでもというような意味)であろう。川口先生は、TUFS言語モジュールが本格的に活用されるようになると、遠からず「日本の学生たちのマルチリンガル化(複数の外国語を使いこなす)」が進むだろうとみている。
「大事なのはこのモジュールが商売ではないことです。もちろんお金を払って語学を学ぶのも結構なことですが、それは資金がなければできませんから、社会の底辺にまで広がっていきません。それに対してTUFS言語モジュールは、経済性を要求されずに外国語を学ぶことができる。これこそが"開かれた大学"であり、大学でつくる意味もここにあるんです」
語学力を身につけるだけでなく何に生かすかが問われる

- 川口研究室のある研究棟
ところで、川口先生の専門はフランス語。それも中世フランス語が専門だという。ただし、以前にフランス語の教科書を2冊執筆したことがあり、中世フランス語の専門研究者としてだけではなく、フランス語の教育者としても熱心に取り組んでおり、外国語教育学会の副会長を務める。まさにTUFS言語モジュールのプロジェクトリーダーに就任したのもそのためだ。
川口先生自身の講義では、フランス語の表現力を重視している。例えば2年生では、あるテーマに基づいて、学生たちにフランス語のテキストを見つけさせて、レポートを作成させる。さらに、それをフランス語で発表させる。ちなみに2003年のテーマは「フランス語の世界、世界のフランス語」だという。
「自分の考えを説得できる能力や言語能力を重視しています。コミュニケーションにおいて、話している人の話し方や雰囲気はきわめて重要な要素です。日本語が説得的でない学生は、なおのことフランス語でも説得力がありませんね」 いちばん大事なのは語学力を身につけて何をするかなんです――川口先生はこう強調する。学生たちにフランス語で発表させてパフォーマンスの力を身につけさせるのも、そうした一環なのだ。
「外語大で学べば語学力が身につくのは当たり前。その語学力を何に生かすかという専門性が必要なんです」
こんな生徒に来てほしい
個人的には、フランスやベルギーなどフランス語を話している地域に関心のある学生に来てほしいと思います。フランス語は、そうした地域への関心のとっかかりとなるものです。
また高校での歴史教育が十分ではないため、言語や歴史を大学で研究する場合に非常に大きな問題となっています。ぜひ世界史は学んでから大学に来てほしいと思います










