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Good Professor

米澤 宣行

米澤 宣行 教授
東京農工大学
工学部 有機材料化学科 大学院 工学系 応用化学専攻

米澤 宣行(よねざわ のりゆき)
1955年静岡県生まれ。83年東京大学大学院工学系研究科(合成化学)博士課程修了。同年同大学工学部助手。87年日本鋼管(株)中央研究所勤務。92年群馬大学工学部助手。94年同大学助教授。97年より現職。

主な著作に『高分子材料化学』(共著・三共出版)、『気軽に化学』(共著・上毛新聞社)などがある。

地球環境の息を吹き返させる負荷ゼロ有機材料化学とは?

東京農工大工学部キャンパス
東京農工大工学部キャンパス

東京農工大学の工学部には、有機材料化学科という学科がある。ここで研究されているのは、地球環境に負荷をかけない新しい有機材料の開発手法である。つまり、いま人類が抱える緊急の課題解決をめざして研究している学科ということになる。

同学科で有機反応化学および有機合成化学の研究をしているのが米澤宣行先生。まず、その専門についての話から聞いた。

「有機反応化学というのは有機物の物質変換に関する研究で、分子同士がどのように関わり、どのように接近することでどう変化するのかを見ていきます。非常に地味な研究分野ですが、これを知ることで物質と人間および生体との関係ですとか、この構造は生体に危険であるとか、逆に危険な構造のものを反応操作で無害化できることなどがわかるわけです。地味ではありますが、基本的かつ重要な工学研究分野であるといえます」  

一方、有機合成化学の方は未来に開かれた最先端の研究になる。  

「私の研究室での代表的な有機合成化学研究は、植物や生物が分解する過程で生じる乳酸やその仲間を原料とする合成化学です。乳酸は生分解性ポリエステルの合成の原料として使われていますが、私たちはもっと高性能で強度のあるプラスティックの合成をめざしています。ただ、現時点ではこうした生体原料だけで実現するのは困難ですので、半分は化石原料を用いています。まず、理想の50%をめざすことで、その一歩にしたいと考えています」  

もう一つ力を入れている研究が、炭素と水素・酸素のみからなる高性能の新材料の開発だという。  

「いま使われている高性能の材料の多くには窒素・硫黄などが含まれていて、廃棄処理に多くの費用がかかっています。このような材料が利用できるようになれば、燃料として再利用できることになります」。現在は実験室スケールでの研究を終え、フラスコスケールにアップした実験に入り、その詳細な性質を調べている段階だという。

「これらの化学を通して化石原料に依存しない物質循環が実現すれば、地球環境の息がまた吹き返すと期待しているのですが」。まさに環境への負荷ゼロをめざした人類待望の研究なのである。  

しかしまた、夢の実現にはパイオニアとしての苦労もつきまとう。米澤先生の思考行動のキーワードの一つは「試行錯誤」ならぬ「思考錯誤」だという。

「環境についての問題点だけを指摘するのでしたらかなり楽なのですけれどね。私たちの使命は解決への道をつけることですから、その模索は大変です。具体的な結果が出ないと、批判にもさらされかねません。しかし、だからといってやめてしまったらダメだと思います。前向きに挑戦していくしかないわけです」

第一歩は、きちんとコミュニケーションがとれること

実験室で学生たちと
実験室で学生たちと

東京農工大学・工学部のカリキュラムは1年次から3年次までは学部授業で教養・専門基礎・専門科目などを学び、4年次になると各研究室に振り分けられて卒業論文のための研究に入る。この研究室振り分けは各室に学生3~5人という少人数制で、非常にきめ細かな教育指導がなされるのが特徴だ。

米澤研究室でも例年3~5人の範囲で、4年次の学生を受け入れている。研究室には先輩の大学院生もいて、総勢は15人前後。米澤先生がとくに心を砕いているのは、研究室メンバーのコミュニケーションの問題である。

「現実問題として研究室ではいろいろな化学実験をしていますから、周りがどんな実験をしているのか知らないと危険です。それでメンバーの意思疎通を図るために、ミーティングを重要視しているのですが、最近の学生には世代の違う人との対話が苦手な人が多いようですね。ここで意見が出せないような人は、研究にも主体的に取り組めなくなってきます。まず、そうした殻を破ることが必要になってきました」  

研究室ミーティングでは、学生の発言機会を増やすようにしているとも語る。初対面でも親しみやすくざっくばらんな雰囲気の米澤先生だが、学生には直言をもって厳しく鍛えているらしい。

米澤研究室では、他大学との交流も盛んである。2002年度も、3つの大学の同じ有機反応化学系の研究室との合同研究会が3回開かれたという。  

「学生には、合同研究会は良い刺激になっているようです。ほぼ同じレベル・同じ世代の人たちとの研究会ですから、質問とかディスカッションがしやすいようですね。回を重ねるたびに他校の学生とも打ち解けて、自然とディスカッションも活発になっています。他校の研究分野を知ることで視野が広がり、話すことにも度胸がつくと学生たちには好評です」  

ここでも、自分の意見をしっかり発言することが求められる。きちんとしたコミュニケーションがとれること、それが社会人としての第一歩。米澤先生の持論でもある。

「技術革新学」ともいうべき新たな教養課程カリキュラムを

米沢研究室のある4号館
米沢研究室のある4号館

さて、現在の理科系の大学教育はややもすると隘路に陥っているといわれ、現状を改革しようという動きが始まっている。東京農工大学でも学制やカリキュラムの見直しが行われつつある。特に工学部では有機材料化学科が中心で、米澤先生もその推進役の一人だ。  

「専門家である前に一般常識をもった人間に育ってほしいということですね。10数年前から大学では教養課程が専門課程と一緒になっていますが、いまその弊害があらわれているような気がします。以前とは違う形での教養課程、すなわちサイエンスと技術・社会を柱にした技術革新学ともいうべきものを新しい教養課程として、カリキュラムに組入れる方向で検討しています」  

また、研究者養成が目的の大学院とは別に、化学物質のリスクを管理する専門家を養成するための「専門職大学院」の構想も検討されているという。米澤先生の話は再び化学に戻る。

「化学をやっていると、驚くほどきれいな分子や反応機構によく出会います。これには、美術や哲学・文学に通じるものを感じるのですね。たとえば反応の規則性などは、韻を踏んだ漢詩の世界を思わせますよ。そうした意味でも、化学の世界は技術分野のなかではかなり独特の世界ではないかと思っています」  

これは、深遠なミクロな世界を覗いているパイオニア研究者の言葉だ。塾生諸君もその世界を覗いてみないか。

こんな生徒に来てほしい

向上心を保って我慢できる人。他の人が理解しているわけなのだから、自分でも必ず理解できるはずだと、最後まで諦めずに挑戦する人ですね。それに、大学4年間の学費は決して安くはありませんし、無駄に過ごしていいはずはありません。それを負担してくれる人がいるということ、また、同世代ですでに働いている人もいるということ、そうしたことをちゃんと認識したうえで、この大学に学びにきてほしいですね。

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