- 河野 隆二 教授
- 横浜国立大学
工学部 電子情報工学科 河野 隆二(こうの りゅうじ)
1956年京都生まれ。79年横浜国立大学卒。84年東京大学大学院博士課程修了。86年東洋大学助教授。89年横浜国立大学助教授。98年より現職。98~2002年ソニー研究所研究室室長を兼任。02年より(独)通信総合研究所特別グループリーダーを兼任。主な著作に『スペクトル拡散通信とその応用』(共著・電子情報通信学会)、『Wirless Communication Technology』(共著・米国で出版)などがある
新しい学問分野“ITS学”のパイオニア

- 高台にそびえる横浜国立大キャンパス
横浜国立大学・工学部電子情報工学科の河野隆二教授は、情報通信分野の研究における世界的なトップリーダーである。
先生の業績のひとつにモバイルの第3世代といわれるCDMAの基盤理論研究がある。高校生諸君にもおなじみの携帯電話FOMAに採用されている方式で、これは米国や欧州各国でも採用されて、いまや世界標準にまでなった方式だ。このCDMA研究をはじめとする河野先生のこれまでの業績に対して、今年のドコモ・モバイル・サイエンス賞(先端技術部門)が贈られている。じつは同賞は今年から新設された賞で、つまり先生は栄えある第1回目の受賞者ということになる。
そのプロフィールでもわかるように、河野先生は国立大学の専任教授でありながら、民間企業や国の研究機関の役職も兼務している。先生の話はそのあたりから始まった。 「電子情報工学科の使命には、産業界に役立つ研究成果の提供と人材の育成があります。そのためには産業界の当事者になって、そこで行われている研究の方法を知ることと、産業界が求める人材ニーズを知ることが重要になります。また、民間企業にできることには限界もありますから、取り仕切る側の国の機関にも身を置く必要があるということですね。まあ、私が大学で普通に教えているだけでは嫌だというのも大きいのですが(笑)」 ソニーの研究所兼務は2002年で終えたが、いくつかの企業との共同研究はいまも進行中で、国のほうも研究機関兼務のほかに各種審議会の委員も務める河野先生だ。
「いま日本はモバイル情報通信の分野で世界のトップを走っています。このまま世界をリードしていくためには、産官学の連携が大切になります。従来この3者はバラバラでやってきましたが、この3つが1つにまとまって世界との勝負に立ち向かうべきですね」
ひとつのテーマにばかり関わっていられない情報通信分野

- 河野研究室のある電子情報工学棟
この産官学に通暁しているのが河野先生で、3者をオルガナイズして牽引する大役も引き受けている。
河野先生のこれまでの研究では、先のCDMAやアレーアンテナなど実用化になったものが多い。現在取り組んでいるひとつがITS(高度交通システム)技術の研究開発である。
「ITSは、カーナビやETC(自動料金徴収システム)に代表される情報通信技術を使った交通システムの高度化の研究です。学問分野でいえば、電子情報工学の範疇を超えて、自動車工学や都市交通工学・土木工学など工学全体、さらに認知学・心理学・保険学・法学などの社会科学をも巻き込んだ研究開発になります。ですから"ITS学"といった新しい学問分野であるともいえ、学会も立ち上げました」 その初代委員長を務めるのが河野先生だ。
また、河野先生の研究テーマは4~5年ごとに変えてきているとも語る
「大学の教官のなかには、ひとつの研究テーマを一生かかって追究していく人もおります。それも教官・研究者としての真理でしょう。でも私の扱っている情報通信の分野は、日進月歩どころか"分進秒歩"で理論も技術も変化しています。今あるいは次の時代に何が求められているのかを考えると、ひとつのテーマにばかり関わっていられないのですね」
とくにこの分野には研究対象となるテーマが豊富だ。それらが河野先生を煽りたて、旺盛かつエネルギッシュなまでの研究に向かわせるようだ。そうした事情はまた、この道をめざそうとしている若い人たちにも同等に開かれているということになる。前途洋々たる研究分野といえよう。
「情報通信技術に基づく未来社会基盤創生」のCOEリーダー
何かと破格な河野先生だが、先生の研究室に在席するメンバーは学部4年次の学生から大学院生・留学生など40余人にもなり、同大最大規模の研究室だそうだ。そのため部屋も大学キャンパス内だけでなく、モバイル情報通信のメッカである横須賀リサーチパーク(YRP)にもあり、産学官連携に適している。必要な参考図書をリクエストすれば、研究室の費用ですぐに調達してもらえるという。まさに恵まれた研究環境なのだ。
「少し自慢話になりますが、いい研究をして世界に認められれば、共同研究など連携を求めてくる企業が多くなります。国のプロジェクトからも参加の依頼を受けます。そうなればお金も人も自然に集まってくるという、高循環のシナリオが展開されていくのですね」
そうした先生の指導方針は、ひとり歩きができる学生を育てることだという。
「いまの日本の若者を見ていますと、ちょっと人に頼りすぎる傾向がありますね。ディベート(討論)でも臆せず勝てるような、強い生き方のできる人に育ってほしい。そのためには専門の論理を自らもつ必要があります。でも、みんなが行く後ろをついていってもそれは見つけられない。むしろ、人の行かないところにこそ隠されています。自分ひとりで責任ある判断ができないと何も見つけられないことになります」
さて横浜国立大学には、文部科学省が推進する21世紀COEプログラムの2つのプロジェクトがある。COE(Center Of Excellence)というのは大学の国際的な研究や人材育成のプロジェクトに国が支援助成をする制度で、横浜国大2つのプロジェクトのうちの1つの拠点リーダーが河野先生である。「情報通信技術に基づく未来社会基盤創生」の研究プロジェクトだ。
「うちの大学には、光と無線の技術に関する世界的な研究者が何人もいます。この光と無線の技術を融合させて、情報通信への応用を研究するプロジェクトです。この2つに跨がる研究ができるのは、うちの大学だけの特徴だろうとも自負しています」
このプロジェクトに参加できるのは大学院博士課程に進学する大学院生からだが、博士後期課程大学院生の多くはCOE研究員として雇用され、経済的に優遇されるという。そのぶん責任も伴うわけで、「ひとり歩きのできる学生を育てたい」という河野先生の方針から発したものだ。電子情報工学科で学ぶ学生には、将来こうしたプロジェクトに参加できる道も用意されていることになる。 情報通信分野で世界のトップを走る河野先生だが、その疾駆はまだまだ続く――。
こんな生徒に来てほしい
漠然と「情報通信に興味がある」とか「コンピュータが好きだから」程度のことでは不十分ですね。自分から進んで専門の業界紙や専門書を読むなり、先輩を訪ねて聞くなりして、自分が好きだということのレベルがどのくらいなのかをまず見極める必要があります。そのうえで自分の才能とやりたいことが合致したら、その才能を磨く努力をどんどんしてほしいですね。

