- 武藤 博己 教授
- 法政大学
法学部 武藤 博己(むとう ひろみ)
1950年群馬県生まれ。75年法政大学法学部卒。 80年国際基督教大学大学院博士後期課程修了(学術博士)。行政管理研究センター研究員を経て、 85年法政大学助教授。89年から現職。
主な著書に『イギリス道路行政史』(東京大学出版会)、 『ホーンブック行政学』(共著、北樹出版)、『社会資本投資の費用・効果分析法』 (監修、東洋経済新報社)など。
問題解決をめざす市民のための行政学

- 都心にある交通至便の法政大学・市ヶ谷キャンパス
法政大学法学部長の武藤博己教授の専門は行政学である。行政学とは「政治現象を、行政を中心としてみる学問」のことである。伝統的な分野としては内閣制度や公務員制度を主に研究する。
行政を中心にみるといっても、武藤先生は行政だけに焦点を当てているのではなく、市民社会全体を視野に入れている。また最近では政策研究も行う。研究対象となる政策も、公共事業・街づくりから高齢者介護・幼児保育といった福祉政策など様々な分野にわたっている。
なかでも公共事業政策についての問題は、ダム建設の見直しなど最近は話題になることも多い。
講義では、そういう時事的な問題もきちんと扱うようにしているという。たとえば道路公団民営化問題などでは、道路関係4公団民営化委員会の最終答申の一部をWEBサイトからダウンロードし、学生に資料として配布して議論を進めていく。
日本道路公団民営化は本当に当たり前なのか?
じつは武藤先生は、修士論文では日本の道路行政を扱い、博士論文ではイギリス道路行政史を研究した。ずっと道路に焦点をあてて研究してきたわけで、まさに道路の専門家ともいえる。昨今のマスコミでは、日本道路公団は民営化するのが当たり前といった論調が主流だが、武藤先生は専門家の立場から異論を唱える。
「日本の高速道路の総距離は7000キロしかありませんが、輸送分担率は10%ぐらいあって、国の道路のなかでも非常に重要なのです。国道の多くが県道化・地域交通化して法人(道路公団)で運営されていて、その次の段階の道路を国が管理している。これは何かおかしくありませんか、というのが私の持論なのです。だから民営化についても、日本社会の根幹の交通網を民間会社に任せていいのかというのかという意味で、好ましくないと思います。高速道路よりも重要度の低い国道を国が直轄で管理しておいて、国道よりも重要な高速道路を民間会社に預けてしまうのは、社会にとっての重要性という判断からみても、それはおかしいんじゃないか、と言わざるを得ないのですね」
イギリスでも18世紀に有料道路がたくさんつくられ、幹線道路の多くが有料道路という時代もあった。しかし現在では、イギリスの高速道路は全部無料だ。それはおそらく18世紀の有料時代の反省から無料政策をとっているのだという。料金収受など特定の分野に関しては民営会社でも十分に運営できるかもしれないが、高速道路をどこにつくるか、新しくインターチェンジをどこに造るかといった開発計画の基本分野については、民間会社に任せずに国の責任でやるべきだというわけだ。
問題解決の方向性を考え出して実現させていく

- ボアソナードタワー1階ロビーは法大生の憩いの場。春は皇居外濠の桜が美しい
武藤先生は道路問題にかぎらず、世間の風潮とは異なる見方のあることを学生たちに伝えている。
これは、法学部それも政治学科ではどういう人材を養成するところなのか、政治学を学んで社会に出て行くとはどういうことなのかといった話になってくると、武藤先生の話はますます熱を帯びてくる。「政治とは、いろんな意見があって、どこが違うのかという争点を明確にしていく作業です。とりわけ行政学は、争点を明確にして、解決のための一定の方向性を打ち出して実現していくことが役割です。
この、いろいろな意見をまとめられるバランス感覚、問題を発見できる力や解決の方向性を考えつく力が、おそらく社会から政治学科の学生に求められているものなのではないでしょうか」
実際のところ、政治学を学んで政治家になろうという学生はほとんどいない。将来、政治家になろうと思っているわけでもない。武藤先生のゼミからは、毎年数名が地方公務員になるほかは、民間会社に就職する学生が圧倒的に多い。
地方自治体に就職した学生は、この学部で学んだことが直接役立つわけだが、民間企業に就職した学生にとっては、大学で学んだことが直接活かせるわけではない。それでも企業は採用する。
「さまざまな意見を集約しながら問題解決の方向を作り出せる力があると、おそらく民間企業に行っても役立つのだろうと思います。卒業生に銀行に入った人がいますが、政治の話、経済の話さらにはイラク戦争のことまで、あなたはどう考えるのかとお客さんからよく聞かれるそうです。政治学科で幅広い知識を身につけているから、顧客からの様々な話題に対応できる。だから政治学科の学生には、幅広い教養と、問題解決を体現できる力(調整能力)を身につけてもらうのが好ましいかなと思っています」
自転車ツーリングで痛感!日本の道路への疑問
ところで、そもそも武藤先生が道路行政の研究を志すことになったきっかけは、高校生のころの自転車旅行だという。日本国内のあちこちを自転車でツーリングしたが、いちばん遠くまで行ったのは、なんと東京から佐渡島まで。この自転車旅行でつくづく思ったのが、日本の道路は自転車にとって実に走りにくいということだった。一度バスに轢かれる寸前になったこともあるという。
「旅行が好きで、それも道路を走るのが好きだったものですから、修士課程のときに何をテーマに論文を書こうかと考えたときに、道路行政をやってみようと思ったのです」 先生の後輩には、山歩きが好きで森林行政を研究するようになった人がいる。ガソリンスタンドでアルバイトした経験をもとに、石油行政を研究している人もいるという。
「そういう"趣味"のような世界を研究対象に選ぶと、人は自ずと勉強しますよね(笑)。学生にも、自分の好きなことを研究するのがいいと勧めています」
こんな生徒に来てほしい
狭い分野のことをマニアックに知ることよりも、幅広く時事的な問題に強い関心をもち、それについてきちんとフォローしておきたいという意欲のある学生にきてほしいですね。もちろん、それだけでは単なるもの知りにすぎません。幅広いものの見方ができたそのうえで、特定の専門分野を持とうという意欲のある学生を待っています。


