- 伊藤 邦雄 教授
- 一橋大学
商学部 伊藤 邦雄(いとう くにお)
1951年、千葉県生まれ。
一橋大学商学部卒、同大学大学院修士課程修了。同大学講師、助教授をへて92年から現職。その間に米
国スタンフォード大ビジネススクールのフルブライト客員研究員。
帰国後は通産省特助研究官などを経験。
専攻は会計学・企業システム論、企業行動から人事システム分析まで幅広い。著書・翻訳書多数。
企業行動を分析し、社会の動向をつかむ

- 新緑の一橋大学国立キャンパス
「いまの若い人たちはおとなしい、元気がないと言う人がいるけど、僕はそうは思わないね」と伊藤先生は言い切った。
都内某所の企業研修で長時間の講師を務めた直後のインタビューの発言だ。「学生の発表を聞いているうちにこちらが感動してしまって」。つい最近もゼミ合宿において、あまりに多くの熱く良い発表を聞いた嬉しさに納会で先生は大はしゃぎ。周りのみんなは徹夜続きで青い顔 ―― などということがあったばかりだという。
そんな伊藤邦雄先生の専門分野は、会計学・企業システム論だ。「システム論」と聞くと、概念理論の話かと合点されるかもしれないが、実際に先生がしていることは、もっと実践的だ。さまざまな企業で起こっているナマの問題点を提示してもらって分析し、改善点を指摘したり、時代に沿った会社組織のあり方を研究・提案する。また、組織体のなかで、どうやったら人間1人ひとりの能力が最大限に生かされるかなど、いま日本の「会社」が切実に必要としている具体論ばかりなのだ。
2003年近く刊行される著書では、「親会社・子会社」という上下関係の常識を超越して成功しているグループ企業の実例を紹介する予定である。
自分の目で現実を
実践第一主義の伊藤先生が担当する「伊藤ゼミ」(3年生と4年生が書く15人ほどずつ)では、ゼミ生たちが取り組むレポート内容も、現実に社会問題化しているテーマばかりだ。
一部をこっそり教えてもらうと、「なんでも手広く扱う “総合会社” はなぜ今経営が苦しいのか?」「成熟した市場でその会社が生き残っていくためにはどうすればいいのか?」「先進的な人事(今までと違う社員の使い方)で成功している企業とは?」等々。
これらはすべて、“いま現在” 日本の会社のなかで真剣に話し合われていることばかりだ。ということは逆にいえば、誰かが調べて書いたものなどまだあまりないということでもある。だから伊藤ゼミの学生は3年のときから、これと思う企業などに自分たちでアポイントを取り、取材を重ねていく。聞いただけでも面白そうじゃないか。しかし一方でこういうやり方は、あらかじめ研究方法や道具が準備されていないと動けない指示待ちタイプの人にとっては非常に辛いかもしれない。
「そう。学生の間で『伊藤ゼミは厳しい』と言われているらしいね」と先生は笑った。「でも、1つひとつの企業を分析してはじめて、その企業の戦略が立てられるんだね」。毎日のニュースからさえも、どんどん新しく厳しくなっている。
だから「自分の目で調べることが重要になる」というのだ。伊藤ゼミでさらに面白いのは、自分1人ではなく、同じような疑問や問題意識を持つ「仲間」が3~4人のチームを組んで、意見を闘わせながらレポートを作り上げていくことだ。この方法であれば、1人ではできない大きな調査もできるし、新しい意見に感動したりもできる。
だが反対に、考え方の異なる人とも何とかいっしょに折り合ってやっていかなければならない。他人の意見を聞いたり、自分の考えをうまく伝えることが重要になってくる。「これも苦手な人は最近多いね」と伊藤先生。「でも、やっていくうちにみんな"変わる"んだよ」。伊藤先生は、それを見るのが楽しくてしょうがないという顔で語る。
「声まで変わるんだ」。本当に発表したいことが見つかると、みんな目の色を変え、女子も男子も一歩も引かずに渡り合うようになる。だから、ここで鍛えられて就職したあと(就職先は大手企業が多いという)、「会社より伊藤ゼミのほうがきつかった」と言う学生も多いらしい。
最後に、伊藤ゼミに入るための条件を聞いてみよう。
①自主性や主体性を持って大学生活を送りたい人。 “何事もなく” 過ごせればいいや、という人には向かない。
②「 “常識” 至上主義」ではない人。ただの「非常識」と「 “画期的” 非常識」は違う。旧来の常識に安住しない人。
③自分なりの経験からくる健全な「問題意識」のある人。
④コミュニケーションしたい人。協調しながら、どう自分の個性を出すかを考えられる人。
⑤ジョークなどを面白がれる心の余裕がある人。
どうだろうか? 「成績は関係ない」と先生は言う。定員に対する志募人数はほぼ倍程度になるが、面接と作文だけで決めている。「私もそうだったからではないけれど、入学してからも、遊ぶことも含めいろいろな経験をしている人のほうが伸びるように思う」。先生自身も大学3年のころに、「ああ、この先生いいな、人生を楽しんでるな」と思える先生に出会ったのだという。
本当は、大学を卒業したら実家の家業を継ぐ約束だったのに、経営学に惹きつけられてしまい、今日に至っているそうだ。「やる気がすべてだ」 ―― 先生は明るく笑った。
オススメの1冊はピーター・ドラッカーの著書
経営学に興味があるなら、大学教授で現役バリバリの経営コンサルタントであるピーター・ドラッカーの本をどれか1冊読んでみるといい。古典の神様と呼ばれながら、将来動向を鋭く読み取っている。コンサルタントもだが、彼の歴史学者・ジャーナリストとしての眼も生かされているのだろう。
こんな生徒に来てほしい
いま日本の会社に起こっている問題を考える「経営学」は、まだ新しい学問。目の前でイノベーションや新しい展開が起こり、やりがいがあります。そして「人を教える職業は楽しい」ということも付け加えたい。声や表情まで目に見えて変わっていく。見ていて本当に楽しいことです。











