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Good Professor

杉田 敦

杉田 敦 教授
法政大学
法学部

杉田 敦(すぎた あつし)
1959年群馬県生まれ。82年東京大学法学部卒業。
82年東京大学法学部助手。86年新潟大学法学部助教授。93年法政大学法学部助教授をへて96年より現職。 この間90年と98年にイギリスに留学。
主な著作に『権力』(岩波書店)、『デモクラシーの論じ方』(ちくま新書)などがある。

国家の枠にとらわれる古いタイプの政治学を批判心

法政大学市ヶ谷キャンパス
法政大学市ヶ谷キャンパス

国際化や市民自治の広がりなど変化する時代にあって、法政大学法学部の政治学科は、幅広い視野と自由な発想、的確な判断力で政治的思考のできる人材育成をめざしていることで定評がある。そこについて、同学科教授の杉田敦先生は次のように補足してくれた。

「この学科の特徴として、政策ポリシーを基軸にした実践的な政治学が学べることがあります。政治学科といえば国内外の政治の歴史や思想を中心に教える大学が多いのですが、ここではむしろ都市行政ですとか、地方自治・公共事業など現在起きている具体的な政治問題が学べるようになっています」

同学科にはさらに大きな特徴がある。それは大学の4年間をどう学ぶのか、すべて学生個々の主体性にまかされているのだ。同学科の講義に必修科目はなく、ゼミ演習の履修も必修ではない。卒業論文ですら選択制である。つまりゼミを履修するしない、卒論を書く書かないは学生たちの自由な意思にまかされ、講義も好きな科目を自由に選択して受講することができる。

こうしたことは、学生を自立した人格として認め、その良識にまかせるということなのだろう。いかにも自由な校風で知られる法政大学らしい教育環境ともいえる。しかしまた、この自由さに甘んじて迂闊に過ごすと、何も得られないまま大学4年間を終えてしまう危険も孕んでいるのかも知れない。「私個人としてはせっかく大学で政治学を学ぶのであれば、ぜひゼミには参加してほしいと思います。でないと、4年間を大教室の講義だけで終えることになりますからね。やはり、ゼミのほうが教育効果はあがりますし、大教室の講義では発言する機会もほとんどありませんから」と、杉田先生は話す。

なお、何を学べばいいのか分からないという今時のモラトリアムな学生諸君のためには、目的別に5つの履修科目ガイドラインも用意されている。またゼミについても、必修化に向けて検討も進められているそうだ。したがって、法政大学法学部政治学科への進学をいたずらに不安がることはない。

少数者も無視されない理想的な政治がきっとあるはず

杉田研究室のある80年館棟
杉田研究室のある80年館棟

さて、杉田先生の専門は政治理論である。その研究テーマについて次のように語る。「従来の政治学というのは、国家単位での研究が主流でした。つまり国家が絶対的な決定の単位であって、その国家を掌握すれば政治問題はとらえられるという考え方です。しかし、ますます複雑化している今日の社会では国家がすべてを管理しているわけではありません。ところが、古いタイプの政治学は相変わらず国家の枠組みでしかものを見ようとしない。私がやろうとしていることは、そうした政治学への批判ということにもなります」

すべての政治問題を国家のあり方に還元する伝統的な政治学方法であれば、むしろそのアプローチに迷いはないだろう。しかし、杉田先生はあえて困難なほうに挑む政治学者なのだ。政治がもはや国家の枠組みだけで語れなくなっている例について、次のように話してくれた。

「たとえば沖縄や吉野川・新潟県巻町などで行なわれた住民の直接投票は、国家の政策決定に異を唱えていることになります。またEU(欧州連合)などをみても、国家主権を相対化したような政治的な動きが世界各地に起こっています。これらは、従来の国家単位では解決できない政治問題があるという意識の現われなんですね」

こうした諸動向は、政治の前提であるデモクラシー(民主主義)神話の崩壊にもつながると先生は説く。「デモクラシーには負の側面があることにも注目しなければなりません。ある国家がデモクラシーによってある政策なりを意思決定したからといって、それを絶対化すると、外国との問題が生じてきます。またデモクラシーによる合意形成には、少数の意見が押さえられてしまうという問題もあります。先の沖縄や新潟などの例は、軍事基地や原子力発電所などを国家の意思決定によるとして少数者側に押しつけたことに対する地方からの批判でもあるわけです」 古い国家の枠にとらわれないで、東アジアから地球規模までを見据え、その一方で少数者の声も反映される理想的な政治のあり方こそが、杉田先生が模索し追究している研究テーマなのだ。

政治問題をきちんと把握し対処できる市民になろう

淡々とした語り口でやや寡黙な印象のある杉田先生だが、研究に向かう情熱には熱いものがある。ぜひとも薫陶を受けてみたいグッド・プロフェッサーだ。

法政大学政治学科のゼミ演習は2年次の学生からの参加になる。杉田先生から各年度ごとに「デモクラシー」「自由」「国家」「公共性」などの研究テーマが提示され、ゼミ生はそれに沿って各自のゼミ論文を書きあげていく。それに並行して、ゼミ生全員で文献講読をしながら、自由闊達に議論を重ねるというスタイルで進められる。

「ゼミでは、とにかく学生の自主性を尊重したいと思っています。議論においても、いろんな解答があっていい。むしろ、議論の場で自分なりの意見をきちんと述べられることのほうが大切ですね。そのためには、いろんな可能性について深く考えてみる習慣を身につけることだと教えています」

ところで、そもそも政治学とは何なのか。その素朴な疑問に、先生はこう答えてくれた。「政治というと永田町ですとか、政党政治をイメージされがちですが、もっと広い意味でとらえてほしいのです。たとえば身近なゴミ問題にしても、政治家だけで解決できるわけではありません。ほかの環境問題や公共事業にしても、一般の市民の要求が政策を動かす時代にはもう来ているのです。ですから、広く社会に関わる諸問題をいろいろな観点からアプローチすることが政治学の課題になっているのです」

政治学科に学ぶ学生たちすべてが政治家や政治学者になるわけではないが、日々発生する社会問題の多くは政治的な問題をはらんでいるのが現代社会の特徴だ。そうした政治問題の把握と対処が早くできる市民の存在こそが、ニッポン政治の質を上げることにもなるのだろう。

最後に、大学の政治学科に学ぼうとする諸君に次のようなエールも贈ってくれた。「社会で起こるさまざまな現象についての見方を学ぶことができるのが政治学科です。きちんと学べば、物事の見方が変わってくるはずです。いまの大学ではそれぞれの研究が専門化する傾向にあって、かえって全体が見えなくなることがあります。しかし政治学科においては、政治学のほかにも、国際情勢から社会学・経済学・経営学などいろいろな学際的分野について幅広く学ぶ道が開かれているのです」

こんな生徒に来てほしい

以前の学生にくらべて、若い人たちが本を読まなくなっているのが気になります。大学では読書の機会が増えるのは当然です。高校までに読書の習慣のある人と、そうでない人の差は大きく出ます。むずかしい本を読む必要はありませんが、活字に親しむ習慣だけは身につけてほしいです。それに日々の新聞にも目を通して、世の中で何が起こっているのかくらいは知っておいたほうがいいですね。

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