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Good Professor

萩原 能久

萩原 能久 教授
慶應義塾大学
法学部 政治学科

萩原 能久 教授( はぎわら・よしひさ)
1956年大阪生まれ。80年慶應義塾大学法学部政治学科卒業。87年同大学大学院法学研究科政治学専攻博士課程修了。89年慶應義塾大学法学部政治学科講師。92年同助教授。99年より現職。
主な著作に『国家の解剖学』(共著・日本評論社)、『批判と挑戦』(共著・未来社)などがある。

「誤りうる存在」人間から構築する政治学

荻原研究室のある研究室棟
荻原研究室のある研究室棟

今回グッド・プロフェッサーとして紹介するのは、慶應義塾大学法学部政治学科の萩原能久教授だ。「政治哲学」と「社会科学方法論」が専門の先生である。

「まず、20世紀を代表する科学哲学者カール・ポパーの研究をしています。彼の業績である知識(あるいは人間の知識)のあり方についての構想を一歩進めて、それを政治学に応用できないかという研究です。人間は誤りうる存在だという前提に立って、どのような知識や科学が構想していけるのかを考えています。

それに戦争と平和の問題についても関心があります。20世紀には膨大な数の人間が暴力的な死を遂げました。文明が高度に進みながら、一方で戦争という野蛮な行為が頂点に達した世紀でもありました。第2次世界大戦が終わって60年近くになり、戦争体験の記憶が風化しつつあります。その記憶を汲み取っていく作業を研究モチーフのひとつにしています」。萩原先生は自身の研究テーマについて、やや息急き切った感じの早口で語ってくれた。

「ただ、平和について考えるとき、それを理想として宗教的に信奉するような姿勢は取りたくありません。そうした平和主義も確かに大切であることは認めますが、私は政治学の立場から平和を実現するための技術を考えたい。ときには不純な手段であったり、汚れた方法になるかもしれない。それらも含めて考えています」。

このほかに、ユダヤ人政治哲学者ハンナ・アレントやナチスの憲法学者カール・シュミットの研究もしているという。

他者と共生しつつより良く生きることを学ぶ

慶應義塾大学三田キャンパス
慶應義塾大学三田キャンパス

ところで、高校生諸君にとって政治学科というのは、進路選択のときもう一つピンとこない学科ともいえないだろうか。萩原先生もそのあたりにも言及する。

「たとえば法学部法学科にしろ、医学部・工学部で学んでいる学生にしても将来どんな職業に就くのか目的がかなりはっきりしていますね。ところが、政治学科で学んでも、将来何になるのか明確なイメージはなかなかできません。はっきり言って、これほど職業に直結しない学問分野もないでしょう」。

先生によると、その意味で政治学は「非常識の学問」である。一般に政治学は、古今東西の政治体制や政治の仕組みについて研究するものと考えられているだろう。しかし、萩原先生にかかると「そんなものは大学に来てまで学ぶべきことではない」と切って(?)捨てられる。政治制度や仕組みなどは巷あふれる文献資料やインターネットなどで十分に学べるはずというわけだ。では、大学の政治学科ではいったい何を学ぶべきなのか。

「市民・生活者として生きていくうえで、何が必要なのかを学ぶべきだと思います。この場合の市民・生活者を解くキーワードは『自己決定』と『共生』、つまり自分のことは自分で決めて、考え方や価値観の違う他人と同じ空間を共有していける人のことです。ただ漫然と生きるのではなく、他者と共生しながらより良く生きるとはどういうことなのかを学ぶのです」。

もはや深遠な哲学ともいうべき領域である。政治学科という一学問分野を超えて、大学で学ぶことの普遍的な解ともいうべきものであろう。

萩原先生はご自身のWebページを公開している。このなかに「学生の疑問に萩原が答えようやないか」という人気コーナーがある。学生からのメールの質問に先生が答えるQ&A形式のもので、政治学を学ぶことや大学で学ぶことの意味などがさらに詳しく展開されている。

なかには萩原先生の主張や教え方に疑問を呈する抵抗派(?)学生なども出現するが、先生はそうしたやりとりも削除することもなく一つずつにていねいに答えている。ときには質問の振りをして自分の大学で出されたレポートの代筆をたくらむ学生もあるようで、「答えるわけがないだろ。バーカ!!」などと言葉を荒げたりするような場面もあるらしい。

このあたり大人気ないと思われるかもしれないが、未熟な学生相手に正面からぶつかってくれる熱血プロフェッサーがいまどきどれだけ貴重なものか、現役高校生のあなたでも十分想像はつくはずだ。型破りなほどにザックバランで、かつどこまでも真率な萩原先生の人柄躍如である。これは政治学科をめざす人ばかりでなく、大学進学をめざしている人すべからくアクセスしてほしいページだ。成績が上がらない――というよりも何のために大学受験するのか ―などと悶々と悩みがちな高校生にはきっと目からウロコの元気になれるWebページに違いない。

ちなみに、政治学が職業に直結しないからといっても、政治学科の卒業生の進路が閉ざされているわけではない。当然ながら、マスコミはじめ大手企業にそれぞれ就職を果たしている。念のため付け加えておきたい。

世の中には多様な見方があることを知るべき

慶應義塾大学政治学科のゼミ演習は3年次の学生からで、萩原ゼミでも例年15~20人ほどのゼミ生を受け入れている。萩原ゼミの特徴は、徹底した文献講読に充てられるところだ。扱うテキストは分厚い専門書で、こういう機会がなければ決して読むことなどない(?)手ごわいものばかりが選ばれる。ゼミ講義は毎回6~7時間にも及び、年間相当数の専門書が講読・読破されることになる。

いきおいゼミ生は高額な専門書の購入費用がかさむことになる。そこで先生はポケットマネーで「萩原基金」をつくり、費用捻出に苦慮している学生に用立てているという。萩原先生の優しさの一面が伝わってくる話だ。

また、サブゼミでは毎年萩原先生からテーマが提示され、それをグループあるいは個人で研究していく。2003年度のテーマは「戦争と芸術」で、こうした研究成果は毎年秋の三田祭で発表される。

「最近はマニュアル本とかハウツー本など安直なものばかりが出回っていますが、人生についてのマニュアルなどありません。学生にはそれぞれ自分専用の生き方のマニュアルがつくれるようになってほしい。それに、世の中のものの見方は一つだけではなく、驚くほど多様な見方があると知ることが大切です。私は、そのためのお手伝いをしているわけですね」。

萩原先生は学生に対する指導方針についてそう語ってくれた。この先生の元で人生の方途を開く学生も多いことだろう。先の見えないこんな時代だからこそ、政治学・社会科学を学ぼうとする有為な受験生諸君にはぜひとも邂逅してほしい先生のひとりだ。

ところで、大阪生まれの先生は大の阪神タイガースファン、それに熱烈なプロレスファンでもあるという。またプロフィール欄には記さなかったが、『ウルトラマン研究序説』(中経出版)なる著作もある。あらゆるマニュアルやイデオロギーにこだわらない先生らしく、その研究対象や興味の幅も相当に広そうだ。

こんな生徒に来てほしい

これからの大学選びというのは、大学側が学生を選ぶのではなく、学生のほうが大学を選ぶ方向に変わってくると思われます。ですから、その大学に行けばどんな先生がいて、何が学べるのかをきちんと見極めることが受験生諸君にとって大切になります。有名な大学であるとか、偏差値が高いからという選び方をする時代ではもはやなくなっていると思います。

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