- 今口 忠政 教授
- 慶應義塾大学
商学部 今口 忠政 教授(いまぐち・ただまさ)
1948年大阪生まれ。75年慶應義塾大学大学院商学研究科博士課程修了。81年名古屋商科大学商学部助教授。85年京都産業大学経営学部助教授。89年同教授。97年より現職。この間91年にブリティッシュ・コロンビア大学(カナダ)訪問教授。主な著作に『組織の成長と衰退』(白桃書房)、『戦略構築と組織設計のマネジメント』(中央経済社)などがある。
“生き物”である企業経営の実態に肉迫するのが経営学

- 東京都港区の都心に立地する慶應三田キャンパス
「教授と学生というのは、スポーツでいうコーチと選手の関係に似ていますね。学生が間違えないかぎりは見守ってやり、その自主性を育てていくものだと思っています」。
そう語るのは慶應義塾大学商学部教授の今口忠政先生である。
先生への取材は、2ヵ月間のニューサウスウエールズ大学(オーストラリア)での訪問教授から帰国したばかりだった。またすぐにゼミ合宿が始まるという慌ただしい中で行なわれたが、質問のひとつひとつにていねいに答えてくれて、温厚篤実な人柄がうかがえる先生だ。
具体的な学生指導の話の前に、まず慶大商学部の特徴から話してもらった。
「福沢諭吉の建学の精神である“実学”をもっとも継承しているのが商学部だといえます。理論的なことに加えて、データや実証性を重視した研究が中心といえます。ゼミの活動が盛んで、実学面がかなり鍛えられるのが特徴でしょう」
経済学部と商学部を併設している大学はかなり多い。慶應大学にも両学部がある。進路選択にあたって受験生のなかには、両学部の違いに思い悩む人も多かろう。
これらについて今口先生は、経済の大きな流れをマクロ的な視点で捉えるのが経済学部で、個別の企業活動など具体的なものに即して研究するのが商学部であると明快に話してくれた。そのうえで、さらにこうも付け加える。いわば商学部研究の成り立ちである。
「企業が小さな段階ではいわゆる経済学理論での研究・分析ができました。しかし、それが巨大化してくると、企業側からの国民経済に与える影響が大きくなってきます。そうなると企業自体について、経済学とは別の研究が必要になってきます。また、大きな組織は管理運営がむずかしくなりますから、経営管理の面から研究する必要も生じてくるということですね」
企業組織のもつ矛盾をいかにバランスさせるか

- 今口研究室のある三田キャンパス研究室棟
今口先生の専門は「経営管理論」と「経営組織論」である。
「私が主に研究しているのは企業の組織についてです。企業は大きくなればなるほど組織が重要な意味をもってきます。企業は成長したり衰退したりしますが、そのときの組織のメカニズムについての理論的な研究と実証研究が中心です」
その衰退例として、ある牛丼チェーン店について説明してくれた。同チェーンは70年代に急成長しながら、80年に突然倒産した外食企業だ。
「この例は“成功が失敗をもたらす”という理論式に当てはまります。同チェーンは成功に成功を重ねて、企業規模を拡大していきます。そうなると過去の成功体験と同じことを踏襲して、その慣性に従うようになっていきます。その慣性が強くなりすぎると、状況変化に対応できない組織ができあがってしまいます。同チェーンの場合もそれに陥って、ついに倒産に至るわけです」
一方で、現下の長期不況のなかにあっても、堅調を維持している日本企業も多い。今口先生によると、そうした企業で目立つのは、京都生まれの企業に多いことだという。興味深い観点であるが、いわれてみれば某マテリアルメーカーをはじめ、女性下着・電子部品・半導体など、堅調なメーカーには京都出身の企業が多い。ノーベル物理学賞の受賞者を出したあのメーカーもそうだ。
「企業の経営というのは相矛盾するものを併せもっています。伝統と革新、固定性と柔軟性、効率性と創造性などがあって、これをいかにバランスさせるかが企業経営では重要です。じつは京都という街そのものが、伝統と革新など相矛盾するものを孕ませながら、それのバランスをとっている街なのです」。その街の風土が企業経営にも影響を及ぼすという非常に面白い話だ。
また、日本の企業がもっとも苦手とするのが「撤退」の問題だといわれるが、今口先生はこの問題についても企業組織の分割・再編などの観点から研究を始めているという。
実証的でダイナミックなところが経営学の醍醐味

- キャンパス内にある1875年(明治8年)竣工の「三田演説館」
慶大商学部のゼミは3年次から始まる。今口先生は他大学での教員経験もあるが、「これほどまでにゼミに真剣に取り組んで、またよく勉強する学生たちをほかでは知らないですね」と語る。それだけゼミの内容が充実していて、学生たちからも重要視されているのだろう。
商学部のゼミは3・4年次合同で行なわれるのが特色で、3年次の学生の研究発表に4年次の学生が質問し、4年次の学生の卒論研究発表に3年次の学生が質問する。そうやって互いに切磋琢磨しながら鍛え合っていく。ゼミが濃密になるわけである。
今口ゼミでは例年15~20人のゼミ生を受け入れている。3年次のゼミ生は、まず今口先生の研究テーマに沿ったテキストの輪読から始めて、そのグループ研究、さらにレベルを上げたグループ研究、そして個人研究へと進んでいく。そのあいだに秋の三田祭で発表するゼミ全体の研究にも参加しなければならない。
「ですから、非常にアクティブだといえます。学生たちは自主的にサブゼミも開いていますから、授業の半分くらいはゼミに充てられていますね。このゼミ活動で体得するさまざまなこと――企画立案やレジュメのまとめ方、発表方法・集団統率力――などは、将来社会に出てからも非常に役立つと思います」
冒頭で紹介したように、ゼミ指導における今口先生はコーチングに徹していると語る。最初の方向づけはするが、あとは学生の自主性にまかせる指導方法である。
さて、アクティブなゼミを経験した卒業生だが、そのほとんどの人が上場企業へ就職しているようだ。また、慶大は常に公認会計士試験における合格者数のトップクラスに位置しており、まさに実学を標榜する伝統ある学部ならではの成果といえよう。
最後に今口先生は、企業経営について研究する醍醐味を次のように語った。「理論を学ぶだけではなく、実際の企業の動向に結びつけて研究するのが経営学です。“生き物”である企業経営を研究するわけで、その非常にダイナミックなところが醍醐味といえるでしょうね」
こんな生徒に来てほしい
最近は受け身の学生たちが多いようですね。高校生といえども、大学の商学部で学ぼうというからには、やはり企業や経営などに少しは関心をもっていてほしいですね。そのためには日々の新聞で企業の動向を追うなりして、なぜそういう事態が起こっているのか、そんな疑問をもつ心がけが必要だと思います。

